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アメリカ大統領選挙UPDATE 3: 予備選の展開に対するワシントンの反応

March 23, 2016

加藤 和世  米国笹川平和財団(Sasakawa USA) シニア・プログラムオフィサー

共和党は先頭に立つトランプ候補をクルーズ候補が追いかけ、民主党はヒラリー・クリントン候補が漸く差をつけ始めるも、サンダース候補も踏ん張っている。これまでの予備選の展開を受け、ワシントンの外交・安全保障専門家の間では二つの懸念が広がっている。

一つ目の懸念は、ワシントンの知識層全体が米国の主流有権者と乖離している(out of touch)という、根本的な問題だ。アトランティック誌によれば、トランプ支持者は大学を出ていない白人中年層に多く、政治的影響力がないことへの不満や人種的反発を抱え、「独裁者」を好む傾向がある。スーパーテューズデーでは850万人もの共和党有権者(2012年の8割増)が投票し、トランプ候補が11州中7州で多数を勝ち取った。ワシントンに反感を抱く共和党有権者の多くが同候補を支持するため投票に出向いたようだ。民主党側も、貿易自由化に反対する白人労働者など、将来を不安視する層の票を得たサンダース候補がミシガン州・ミズーリ州などで勝利・接戦した。ワシントンの知識層からすれば、両党の異分子的な候補に対する支持率が想像以上に高かった。

この問題を踏まえ、ワシントンでは米国有権者の実態が一つの関心事となっている。ブルッキングス研究所、アメリカ進歩センター、アメリカエンタープライズ研究所は、2016年~2032年の大統領選における米国有権者の人口動態を検証し、投票率と両党の支持率を変数とする複数のシナリオのもと、選挙人投票でどちらの党が優勢となるかを推測する共同事業を実施した。

その報告書によれば、2016年~2032年の米国の人口動態は、ミレニアム世代の有権者とマイノリティの割合が増える一方、ベビーブーム世代の高齢化により65歳以上の有権者が増加する。歴史的に、若い世代とマイノリティは民主党、高齢者と白人は共和党を好む傾向がある。そのため、今後の人口動態は民主党にとって有利な傾向にあるが、中西部やラストベルト地域に多い高齢の白人層の支持獲得は同党の現実の課題だ。逆に共和党は、若いマイノリティ、特にヒスパニック・アジア系の支持を得る努力が必要だ。ルビオ候補は、地元フロリダ州でヒスパニック票の過半数を得たが、投票者の白人対ヒスパニック系の割合が8対2の中、白人票の過半数を得たトランプ候補に敗戦した。また、ヒラリー候補のキャンペーン最高戦略責任者によれば、ダイバーシティに寛容で「グローバル市民」としての意識が高いミレニアム世代にとって、気候変動問題を頑なに否定し、性的少数者(LGBT)に対する差別的な政策を容認する人達を抱える共和党は、「時代遅れ」のブランドだ。彼らの支持獲得が期待できない中、2016年の選挙人投票で共和党が優勢となるには、特に年上の白人層の共和党支持率が生命線となりそうだ [1] 。POLITICO誌は、トランプ候補の場合、白人男性票全体の7割を獲得せねば、本選での勝利は見込めないと分析する。

二つ目の懸念は、外交政策および外交政策アドバイザーを巡る問題だ。トランプ候補はなかなか正式な外交政策アドバイザーを見つけられなかったのか、3月21日にようやく5名の名前を発表したが、いずれもワシントンの売れっ子専門家とは言い難い。その反面、共和党の116名の著名な外交・安全保障専門家が公開書簡を発表し、トランプ候補の指名獲得に反対している。ある民主党専門家は、これらの専門家が「トランプ大統領」の外交政策に影響を与えられない可能性を好まず、むしろ助言して欲しいと述べる。

しかし、ヒラリー対トランプの本選対決となれば、ヒラリー候補が多くの共和党員の票を得て勝つとの見方は強い。そのヒラリー候補には、公認・非公認を含む大勢の外交政策アドバイザーが巨大組織と化して存在する。中心人物は、実務経験豊富な40歳以下の秀才ペア、ジェイク・サリバン氏とローラ・ローゼンバーガー氏だ。サリバン氏は、ヒラリー国務長官の次席補佐官・政策企画局長、バイデン副大統領の国家安全保障担当補佐官を務めた後、エール大学ロースクールで教鞭をとっている。ミレニアム世代のローゼンバーガー氏は、大統領研修員計画で国務省入省後、中国・モンゴル、朝鮮半島担当部署に務め、ビル・バーンズ国務副長官特別補佐官、アントニー ・ブリンケン 国務副長官の首席補佐官、同氏が 国家安全保障 担当次席補佐官となった際の上級顧問を歴任した。外交には「ニュアンス(微妙な差異)」が重要だと述べている。しかし、単純で詳細を欠くトランプ候補の外交政策を支持する有権者が多い中、今回の選挙でニュアンスある説明がどれ位浸透するのか問う声もある。

奇想天外な予備選結果について、自由と民主主義の代表的なアドボカシー団体、フリーダム・ハウスの専門家は、米国の民主主義の反省点として、米国の一般市民が政治的に無知な上に、三権分立のシステムが機能していないことが原因としている。実際、民主化支援、防衛、開発など、ワシントンのあらゆる分野の専門家が、議会がワークせず、予算の見通しが不透明なため、政策の実現や長期計画の立案が困難だと述べる。

オバマ政権のNSCに仕えたヒラリー支持者は、特に過去8年間の共和党指導部の怠慢を批判する。しかし、共和党が分裂する可能性については歓迎していない。分裂した場合、一方の共和党が中道路線を以って民主党の支持層を取り込み、結局将来に向けて民主党に有利とならない可能性がある。現在、トランプ候補の扱いを巡る共和党指導部の動きに注目が集まっているが、その様子を民主党も困惑して見守っているようだ。


[1] 本事業では、2016年の人口動態のもとで共和党が優勢となるシナリオを検証した。その結果、2016年に共和党が優勢となるには、(1)2004年のように白人の共和党支持率がマイノリティの民主党支持率を超えた場合、あるいは(2)白人の共和党支持率が2012年のレベルを10%超えた場合(2012年はマイノリティ全体の投票率が歴史的に高く、黒人の投票率が白人を超え、若い世代と黒人の民主党支持率が高かった)のみだった。その他の4つのシナリオでは、民主党が優勢だった。
    • 米国笹川平和財団(Sasakawa USA)教育事業、財務担当ディレクター
    • 加藤 和世
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