関山 健
今井敬・新日鉄名誉会長(元経団連会長)
「五輪後、中国経済には大きな変化があると見ている。インフレの悪化に対処するために中国政府が金融を引き締める結果、経済が混乱する危険性がある。」(08年7月4日、於:都内某所セミナー)
柯隆・富士通総研上席主任研究員
「株価がピーク時の半分以下になり、上海・北京では自殺者が増加。銀行がこの先、多額の不良債権を抱える可能性がある。」(「週刊東洋経済」2008年6月28日号)
過去5年間にわたって二桁成長を続けてきた中国。その中国経済が、北京五輪を境に大失速するのではないかとの声が後を絶たちません。
足元では豚肉、大豆、食用油などの生活必需品が40%を超えるペースで価格上昇しており、庶民の生活を圧迫しています。今年に入ってから中国各地で頻発している民衆暴動も、こうした生活不安を遠因とするものと見られます。
もし、中国の経済が本当に大失速したら…。中国の社会は混乱し、政治的にも不安定な状況になりかねないのではないでしょうか。そして、いまや最大の経済パートナーとなった隣国・中国の経済崩壊は、われわれ日本や日系企業にも甚大なる激震として多大な影響を及ぼすことでしょう。
中国経済は本当に北京五輪を境に大失速するのでしょうか? その疑問に対する私なりの答えを求めて、7月19日~25日の日程で中国経済の中心・上海へ出張し、現地の日系企業関係者、日本総領事館経済担当官、日本側金融当局者、現地駐在日本人エコノミスト、上海市政府幹部、中国国有銀行関係者、中国人エコノミストなどからのヒアリングを重ねました。
そのヒアリング結果を踏まえて最新の統計データを読み解き、今後の中国経済に関する分析をまとめたのが、このレポートです。
レポート「北京五輪後の中国経済 -上海現地ヒアリングと最新統計を踏まえて-」はこちら です。
レポートの結論から述べれば、北京五輪そのものが中国経済に与える影響は微々たるものであり、今年下半期も中国経済は、概ね9%から10%程度の底堅い成長を実現すると私は見ています。
ただし、上海では、消費や投資が悪化する兆候と思われる話が聞かれことも事実です。物価の上昇、住宅販売価格の下落、金融の引き締めといった要因が、個人の消費や企業の投資を冷え込ませる可能性がないわけではありません。こうした点には引き続き十分な注意を要するでしょう。
ちなみに、中国政府自身は、昨年も今年もGDP成長率の目標値を8.0%に置いています。成長率が8.0%を下回るようでは、失業の増加や不良債権の顕在化などの要因により経済社会が不安定化してしまいますが、昨年のように目標値を4%近くも上回る水準は、中国政府としては明らかな過熱と見ています。
今年も、上半期は目標値を2%以上も上回る10.4%という成長率を記録していることから、下半期は、財政政策の動員も視野に入れて景気の下折れリスクは回避しつつ、過剰な投資や物価の上昇が庶民の生活を圧迫して社会不安を起こすことのないように十分な注意を払うのではないかと予想されます。経済成長のアクセルは放さず、物価抑制のブレーキは踏むという難しい経済運営です。
中国は昨年やっと一人当たりGDPが2000ドル(2460ドル、IMF)を超えたところであり、その発展余地はまだ大きいものがあります。国民一人一人にいくらかゆとりのある生活を保障する「小康社会」(一人当たりGDPで3000ドル)を実現し、その先さらに地域や貧富の格差を埋めるために、中国政府は引き続き経済成長を最優先課題として取り組んでいくでしょう。それが、日本にとっても歓迎すべき中国の姿であると、私は信じてやみません。
■英語サイト記事もぜひご覧ください。→ China's Post-Olympics Economy