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【Views on China】中国の「根拠地」外交の展開――目指すは中華秩序の構築か?

July 21, 2016


静岡県立大学国際関係学部教授
諏訪 一幸


はじめに

中国外交に見られる特徴として、主権国家第一の近代主義、基軸としてのリアリズム、重層的な世界認識、強い役割認識が指摘されることがある [1] 。これらの特徴は、世界第二の経済大国となり、「中華民族の偉大な復興」と「中国の夢実現」を押し出す習近平政権の下で、一層明確になってきた。

この4つの特徴の中で、筆者が特に注目しているのが、中国が自らに課した役割認識が近年強まってきていることである。その役割認識とは民主主義や人権、市場経済を理念とする米国に代わり、強力な一党支配と国家資本主義を核心的理念とする中国を頂点とした新たな世界秩序を構築するということに他ならない。そのツールは経済力と軍事力という二つの車輪である。そして、この未来像実現のための戦略が「根拠地」外交と言うべきものなのではないかというのが筆者の仮説である。

そもそも根拠地戦略とは、いまだ弱小な共産党が強大な国民党との内戦に勝利すべく、1920年代末から採用し始めた戦略で、広大な農村を拠点(根拠地)とする共産党が点在する都市を基盤とする国民党を包囲し、攻め落とすというものであった。この戦略は、1949年10月1日の建国によって、正しさが証明されることとなる。

現政権は、かつて国内での政権獲得に有効であった根拠地戦略を今度は世界規模で試そうとしているように、筆者には思われる。その手法は、複数の国家(主として新興国や途上国)から構成される地域組織と中国を両極とした「多+1」型フォーラム(必ずしも「フォーラム」を名乗らない)を構築し、それをもって先進国を包囲し、最終的に「からめとる」(中国が主導する世界秩序を受け入れさせる)というものであると筆者は理解する。国際仲裁裁判所は先頃、「中国が南シナ海で主張する歴史的権利には法的根拠がない」とする裁定を下したが、このことで中国の外交方針に有意な変化が生じることはないだろう。

本稿は、中国が展開する根拠地外交、すなわちフォーラム外交をその進捗度で分類し、中国の世界情勢認識を明らかにするための一つの試論である。

1.江沢民政権下で発足し、軌道に乗ったフォーラム

ここでは中央アジアとアフリカを取り上げる。

(1)上海協力機構

最も順調に進んでいると思われるフォーラムが上海協力機構である [2]

上海ファイブを前身とする上海協力機構は、安全保障と経済協力を目的に、2001年6月に誕生した。メンバーは中国、カザフスタン、キルギス、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンの6か国であり、6か国のオブザーバー(アフガニスタン、ベラルーシ、インド、イラン、モンゴル及びパキスタン)と対話パートナー(アゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア、ネパール、トルコ及びスリランカ)を擁している(いずれも2016年7月現在)。最高意志決定機関は毎年開催される国家元首理事会であり、同じく毎年開催される政府首脳(総理)理事会では経済分野での協力を中心に議論や決定がなされる。ユーラシア経済連合構想と一帯一路構想という、ロシアと中国がそれぞれ目指す広域経済統合をめぐる主導権争いというセンシティブな問題はあるものの [3] 、この2つのサミットを通じ、6か国は総じて良好な政治的統一性を保っている [4]

さる6月24日、ウズベキスタンの首都タシケントで第16回国家元首理事会が開催された。この会議に出席した習近平はそのスピーチで、一帯一路戦略を大々的に推進していくこと、2017年からの3年間に、貿易分野でのエキスパート1000人の養成に協力すること、税関業務向上のための関連施設を各国に1か所建設することなどを表明している [5] 。習主席に同行した王毅外交部長の総括ブリーフにあるように、中国は今後、一帯一路を追い風に、ヨーロッパ経済とアジア経済をつなぐプラットフォームとしての上海協力機構の位置付けを一層重視する外交を展開していくことになろう [6]

(2)中国-アフリカ協力フォーラム

上海協力機構同様に順調な発展を見せているのが「中国-アフリカ協力フォーラム」である [7]

フォーラムは、2000年10月に北京で開催された中国とアフリカ連合(現加盟国50)による初の大臣級会合の際に発足が宣言された。そして、その際採択された「中国-アフリカ経済社会発展協力綱要」と翌年の関連する決定に基づいて、3年ごとに開催される大臣級会合をテコに、経済と社会分野を中心とした協力を幅広く行っていくことなどが定められた [8] 。ここで示された方針は直ちに成果となって表れる。1999年の中国-アフリカ間の貿易総額は65億ドルに止まり、日本アフリカ間の94億ドルを下回っていたが、2011年には1662億ドルにまで拡大したのである(日本は2011年時点で300億ドル強) [9]

2015年12月の第6回大臣級会合に合わせて開催されたサミットは、中国とアフリカの「新型戦略パートナーシップ」の「全面的戦略パートナーシップ」への格上げを決定した。そして、中国の代表としてサミットに初めて出席した習近平国家主席はスピーチの中で、アフリカが抱えるインフラ、人材、資金不足解消のため、工業、農業、インフラ、金融、緑化、貿易投資、貧困減少、公共衛生、文化、平和と安全保障の10分野を対象に、3年間で総額600億ドルの資金援助を表明した [10]

アフリカ唯一のG20メンバーである南アフリカ、連合本部の置かれたエチオピア、「真珠の首飾り」作戦上の重要拠点の一つとされるラム港をもつケニア、そして、「国連の任務を遂行する際の食糧供給基地建設に向けて協議中である」ジブチなどが [11] 、アフリカで展開している根拠地外交の核となっている、或いはなることが予想される国々である。

2.習近平政権下で発足、活性化したフォーラム

ここでの考察対象地域は中南米、中東欧及び中東である。

(1)中国-ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体フォーラム

中国は、2011年12月に誕生したラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(33か国)との間で「中国-ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体フォーラム」を立ち上げ、中南米地域に新たな拠点を構築し始めた [12]

このフォーラムは、中国の提唱により2014年7月にブラジリアで開催された中国-ラテンアメリカ・カリブ諸国サミットにおいて発足が決まったものである [13] 。この会合でスピーチを行った習近平は、「1+3+6」というフォーラムの協力枠組み(1は「2015-2019年協力計画」の策定、3は貿易、投資、金融という「3つのエンジン」、6はエネルギー資源、インフラ、農業、製造業、科学技術、情報技術など「6つの協力重点分野」)を提唱すると同時に、5年間で、ラテンアメリカ・カリブ諸国を対象に6000名の中国政府奨学金留学生枠を設けること、1000人の国家及び政党指導者を招聘することなどを約束した。また、中国とラテンアメリカ・カリブ諸国の一体感を醸成するため、「中国の夢」ならぬ「ラテンアメリカの夢」に言及するという演出も行った [14] 。2015年1月に北京で開催された第1回大臣級会合では、そうした習近平の提案に従って、「中国-ラテンアメリカ・カリブ国家協力計画」(2015-2019)が採択され、2月には3年に一度の大臣級会合開催が決まった [15]

中国は今後、BRICS及びG20のメンバーであるブラジル、G20のメンバーであるアルゼンチンやメキシコを核に、積極的な中南米外交を展開していくだろう。

(2)中国-中東欧国家協力

習近平政権下で活性化した協力枠組みとしては、「中国-中東欧国家協力」(16+1)が指摘できる [16] 。ここで言う「中東欧」とはアルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マケドニア、モンテネグロ、ポーランド、ルーマニア、セルビア、スロバキア及びスロベニアの16か国を指す。

16+1協力の最高意思決定はサミットで行われるが、2012年4月にワルシャワで開催された第1回サミットに出席した温家宝総理によると、この協力枠組みは2011年6月、ハンガリーで開催された第1回中国・中東欧国家経済貿易フォーラムに参加した際、ヨーロッパの一部の国家指導者や企業家から、中東欧地域として中国との協力関係を築きたいとの表明があったことを契機に発足した。そして、同総理はフォーラムのスピーチなどで、中国は、インフラやハイテクなどを対象とした100億ドル規模の中東欧向け信用貸付制度の開設、投資協力基金の開設、同年から5年間で5000人規模の中国政府奨学金留学生受け入れなどからなる「12の措置」を実施することを明らかにしたのである [17]

サミットの毎年開催を決定した第2回以降のサミットには、中国からは温家宝の後任である李克総理が出席している。2015年11月に初めて中国(蘇州)で開催された第4回サミットでは「中国-中東欧国家協力中期計画」が採択されたが、同計画では経済、インフラ、エネルギー、製造業、金融、農業、科学技術、環境、文化・教育・スポーツ及び地方交流などあらゆる分野での協力強化がうたわれている [18]

中国は今後、一帯一路戦略の下、欧州全域との経済協力をより大々的に展開していくであろう [19] 。その際、中国にとっての中東欧域内最大拠点は、協力枠組みの投資関連常設機構が設けられたポーランドであろう(事務局は中国外交部に設置)。中国にとってポーランドは、中東欧地域における最大の貿易パートナーで、2014年の中ポ貿易額は中国―中東欧貿易総額の27%を占めている [20]

協力枠組みとしての歴史が浅いため開拓の余地が広いこと、今年に入って習近平自身が既に2度も訪問したことから判断するに、この地域に対する中国側の期待には極めて高いものがあるに違いない。

(3)中国-アラブ諸国協力フォーラム

中国とアラブ連盟(22か国)によって構成される「中国-アラブ諸国協力フォーラム」も新たな展開を見せ始めた [21]

同フォーラムは2004年1月、胡錦濤国家主席が連盟本部(カイロ)を訪問した際、中国と連盟双方によって発足が宣言されたものである。そして、それを受けて同年9月に開催された第1回大臣級会合で、双方の代表は「中国-アラブ国家協力フォーラム行動計画」に署名し、2年ごとの大臣級会合開催などを定めた [22] 。このフォーラムは、大臣級会合の定期開催とそれらを通じた各分野での交流深化という点では一定の成果を収めてきた。しかし、民族対立や宗教対立、過激派によるテロ行為の頻発など、連盟側に深刻な政情不安を抱えるメンバーが少なくないことにもよるのであろう、サミットの未開催に象徴されるように、比較的地味な存在として推移してきた。

こうした局面を打開したのが、2016年1月の習近平の中東訪問だった。この時のエジプト訪問は中国の国家主席としては12年ぶりのものだったが、連盟本部で演説した習近平は、中東の工業化促進のための200億ドル規模の借款供与や1500人の政党指導者招聘をはじめとする各種招聘事業の実施などの具体的協力プログラムを打ち出し、また、一帯一路を大々的にアピールした [23]

2018年の第8回大臣級会合は中国で開催されることになっているが、習近平は初サミットの開催も念頭に、さらなる影響力行使と関係強化のため、入念な準備作業を行っていくことになる。

3.習近平政権下で動揺し始めたフォーラム

現指導部が展開する根拠地外交はその全てにおいて順調だというわけではない。近年動揺し始めた「多+1」型フォーラムがある。それは、東南アジアの地域組織とのフォーラム、すなわち、ASEAN(東南アジア諸国連合)+中国である。

1991年から始まった中国とASEANの大臣級会合は、1997年のサミット開催で首脳級会合に格上げされる [24] 。その後、両者(ASEAN+1)は、貿易投資など経済分野での交流を通じて相互依存関係を強めていくが、2000年代末頃から、徐々に暗雲が漂い始める。それは主として、大国意識を強めた中国が南シナ海での主権を強硬に主張し始めたことによる。

南シナ海をめぐり動揺するASEAN+1の縮図が近年のフィリピン―中国関係に表れている。2012年に中国が中沙諸島の黄岩島(スカボロー礁)を実力支配したことを契機に、フィリピンは2013年1月、「『九段線』内の南シナ海の管轄権は自らに属するという中国の主張は国連海洋法条約に反し、無効である」とする申し立てを国際仲裁裁判所に行う [25] 。そして、さる7月12日、裁定が下されたが、それはフィリピン側の主張にほぼ従ったものだった。

中国は当初から、仲裁裁判所の裁定は一切受け入れないと公言してきた。その中国は裁定後、仲裁裁判所とフィリピンに批判の焦点を絞った宣伝戦を展開し、裁定が岩や低潮高地とした地域への実効支配を強化している。そして、国際社会においては「70余りある支持表明国」、ASEAN域内では中国の代弁者(域内根拠地)の感のあるカンボジアやラオスを通じた切り崩し工作によって、この難局を乗り切ろうとしている [26] 。近隣諸国や欧米諸国を中心に、裁定を受け入れるよう中国に求める声は強い。しかし、中国がそうした声に耳を傾ける可能性は当面極めて低い。直接の当事者による対話解決にこだわる中国は今後、関係改善も念頭にあるとされるフィリピンのドゥテルテ新大統領を新たな突破口とし、経済力と軍事的脅威という二つの駒を最大限活用しつつ、ASEAN全体の取り込みを図っていくだろう。

4.フォーラムが存在しない地域

大洋州及び南アジアでは、中国を一方の極とするフォーラムがいまだ存在しない。

(1)大洋州

大洋州地域に目をやると、中国は早くも1990年以降、太平洋諸島フォーラム(加盟国はオーストラリアやニュージーランドを含む16か国)との間で、中国-太平洋諸島フォーラムの構築を目指した対話を行っている。また、2006年4月にフィジーで開かれた中国-太平洋諸島経済発展協力フォーラムの初の大臣級会合開幕式には総理の温家宝が出席している [27] 。さらに、域内の個別国家に焦点を移すと、多くの国にとって、「気前のよい新しいドナー」である中国は、水産資源や鉱物資源の獲得を強い動機として、フィジーやパプアニューギニアなどとの関係を強化している [28]

しかし、中国と太平洋諸島フォーラムを両極とする協力フォーラムは、いまだ発足していない。それは、第1に、オーストラリアと同盟関係にある米国の存在による。中国企業によるダーウィン港の開発問題でギクシャクしている米豪関係ではあるが、アジアへの「回帰」もあり、大洋州地域に対する米国の影響力は、依然として無視できないものである。第2に、同地域では、他の地域に比して、台湾が一定の影響力を有していることがあげられる。台湾が現在外交関係を有する22か国のうちの6か国(キリバス、ナウル、ソロモン諸島、マーシャル、ツバル、ソロモン)は諸島フォーラムの構成メンバーである。つまり、中国にとって、地域全体に影響力を行使するには「敷居が高い」のである。そして第3に、諸島フォーラムの事務局が置かれているフィジーの国内情勢の影響もある。フィジーでは2006年12月、軍によるクーデターが発生したが、同国の現首相はそのクーデターを直接指揮した国軍司令官(当時)である。

このような状況が、フォーラム発足に向けた域内での意思統一を難しくしているものと思われる。

(2)南アジア

1995年に発足した南アジア地域協力連合は、8か国からなる「比較的緩やかな地域協力の枠組み」 [29] である。中国は2005年に同連合のオブザーバーとなっているが、協力枠組みはいまだ構築されていない。それは、ある中国人研究者によると、加盟国間の争いが絶えないこと、加盟国の経済水準と相互補完性が低いこと、加盟国の国内情勢が不安定なこと、つまり、主として連合側に問題があるからである [30] 。しかし、それ以上に重要なのは、BRICSとG20のメンバーであり、域内大国でもあるインドとの間で、領土問題やチベット問題といった懸案を中国自身が抱えているからであると筆者は考える。そのため、中国はハイレベルの相互訪問などによって関係強化を模索する一方で、前述の真珠の首飾り作戦を展開し、インドへの圧力を強めている。南アジア地域には、この作戦の重要拠点となるいくつかの港――バングラデシュのチッタゴン、スリランカのハンバントタ、モルディブのマラオ、パキスタンのグワーダル――が存在する。

南アジア地域との良好な関係構築は、中国にとっては安全保障上の重要課題である。しかし、上記の事情に鑑みると、協力フォーラムの構築は容易ではなかろう [31] 。インドとは緊張関係のコントロールに努めつつ、その他の国々とはインドへの牽制を意識した二国間関係を強化するというのが、この地域における中国の当面の外交方針ではなかろうか。

おわりに

以上、中国が世界各地で展開する根拠地外交を俯瞰してきたが、同国にとって重要な根拠地ではあるものの、考察対象に含まれていないものがある。先進国を中核とした地域組織の欧州連合(EU)+1(第1回サミットは1998年開催)である。EUは、安全保障上の中国脅威がないこと、中国が旺盛な貿易投資の意欲を見せていることなどから、中国とは密接な関係を維持してきた。中国が「黄金時代」のパートナーと評価するイギリスのEU離脱決定(本年6月)や南シナ海仲裁裁判所裁定がEU+1の協力枠組みに悪影響をもたらす可能性を拭い去ることはできないものの、中国は現有の協力関係の強化を引き続き目指すであろう。そうしたなか、地政学的に重要な意味を持つ港(ピレウス)の開発権を中国に与えたギリシャの地位が、中国にとってはますます高まることになる。

歴代指導者同様、習近平は麗しく、魅力的なフレーズで中国外交の未来を描いて見せる。例えば、周辺外交工作座談会(2013年10月)では「親密、誠実、恩恵、寛容」(「親誠恵容」)の姿勢を強調し [32] 、中央外事工作会議(2014年11月)では「協力とウインウインを核心とする新しい国際関係の構築」に言及した [33] 。さらに、第8回米中戦略・経済対話開催(2016年6月6日)にあたっては、「信頼は人と人の関係の基礎であり、国と国の交わりの前提である」、「一部の問題については、直ちに解決することはできない。双方は相手の具体的境遇におもんばかり、実務的かつ建設的態度で管理、コントロールすべきである」と述べている [34]

こうした発言は、日米を含め、中国との間で安全保障上の問題を抱えている一部の国においては、実態の伴わない虚しい美辞麗句としか受け取られないであろう。しかし、中国との間でフォーラムを構成する多くの国から見ると、上記のメッセージにはそれなりの説得力があるのではなかろうか。内政不干渉を掲げ、気前よく投資や資金援助してくれる中国は、少なくとも各国指導者にとってはありがたい存在である。

本稿の考察による暫定的結論は以下の二点である。第一に、「周辺諸国との外交関係を重視する」との方針にも関わらず、中国は近隣諸国との摩擦を比較的多く抱えている [35] 。そして、第二に、地球的規模に立った場合、中国は根拠地外交戦略に自信をもっているのではないかということである。こうした結論が下せるのであれば、「大洋州及び南アジアでの我が国(中国)の影響力はいまだ脆弱である。また、南海問題(南シナ海問題)では、フィリピンやベトナムといったASEANの一部の国とは多少ギクシャクした状況にある。しかし、世界のほぼ隅々にまで我々の根拠地は築かれている。大国中国に反旗を翻そうとする国はほんのわずかにすぎない」と中国が判断しているとする仮説は成立するのではなかろうか。

G20の自国開催という大イベントを間近に控えていることも関係しているのだろうか、過剰にも見える中国の「自信」の裏には、こうした異質の情勢認識があるように思われる。

[1] 毛里和子他『グローバル中国への道程 外交150年』岩波書店、2009年、108-110ページ。

[2] 上海協力機構は形式上は「多+1」の形を採っていない。しかし、組織名に「上海」の名が冠してあること、事務局が中国に設けられていること、会費の分担割合が全体の24%と、ロシアと並んで最も高いことから、本稿では実質的には「多+1」型フォーラムと位置付ける。上海協力組織については、http://chn.sectsco.org/参照。

[3] 6月25日に行われた中露首脳会談で、習近平は、「“一帯一路”建設とユーラシア経済連合建設の一体化協力を推進する」必要性を強調している。「習近平同俄羅斯総統普京挙行会談」『人民日報』2016年6月26日。

[4] 中央アジアで最大の貿易パートナーであるカザフスタンは、中国にとってロシアに次ぐ重要な存在である。ちなみに、カザフスタンのGDPは中央アジア5か国のGDP総額の約3分の2を占める。「携手同行、見戦略高度和長遠角度」『人民日報』2016年6月23日。「打造“糸綢之路経済帯”中亜“示範区”」『瞭望新聞週間』2016年5月30日第22号、50ページ。

[5] 「弘揚上海精神 鞏固団結互信 全面深化上海合作組織合作」『人民日報』2016年6月25日。

[6] 「鞏固伝統友誼、弘揚上海精神、携手共創“一帯一路”新輝煌」『人民日報』2016年6月25日。

[7] フォーラムについては、http://www.focac.org/chn/参照。

[8] 「中非合作論壇介紹」http://www.focac.org/chn/ltda/ltjj/t933521.htm/(2016年6月12日アクセス)。「中非経済和社会発展協力綱領」http://www.gov.cn/ztzl/zflt/content_428691.htm/(2016年6月10日アクセス)。

[9] 高崎早和香「アフリカ 中国のアフリカ外交に変化」『ジェトロセンサー』2012年11月号、68-69ページ。ジェトロ海外調査部中東アフリカ課「主要国の対アフリカ戦略」2013年3月。https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07001243/africa_strategy.pdf/(2016年6月1日アクセス)。

[10] 「開啓中非合作共贏、共同発展的新時代」『人民日報』2015年12月5日。

[11] 2015年11月26日の中国外交部定例記者会見で、「中国はジブチでアフリカ初の軍事基地を建設しようとしているのか」との質問に対し、報道官は、「(国連の)任務執行中、護衛艦隊は将兵の休養、食品や油などの調達で多くの現実的困難に直面している。そこで、現在、ジブチにこれらを保障できる施設を建設することについて、両国は協議中である」と答えている。http://www.fmprc.gov.cn/web/fyrbt_673021/jzhsl_673025/t1318725.shtml/(2016年2月2日アクセス)。

[12] フォーラムについては、http://www.chinacelacforum.org/chn/参照。

[13] 「習近平出席中国-拉美和加勒比国家領導人会唔并発表主旨講話」『人民日報』2014年7月19日。

[14] 「努力構建携手共進的共同体」『人民日報』2014年7月19日。

[15] 「中国-拉共体論壇機制設置和運行規則」http://www.chinacelacforum.org/chn/zywj/t1236150.htm/(2016年6月24日アクセス)。

[16] フォーラムについては、http://www.china-ceec.org/参照。

[17] 「斉心協力 共創未来」「中国関於促進与中東欧国家友好合作的十二挙措」『人民日報』2012年4月27日。

[18] 「中国-中東欧国家合作中期規画」『人民日報』2015年11月25日。

[19] 「促進中欧合作 共創美好未来」『人民日報』2016年6月22日。「為促進中国-中東欧合作注入新動力」『人民日報』2016年6月17日。

[20] 「全面提昇中波経貿合作水平」『人民日報』2016年6月24日。

[21] フォーラムについては、http://www.cascf.org/chn/参照。

[22] 「阿拉伯国家連盟」http://www.fmprc.gov.cn/web/gjhdq_676201/gjhdqzz_681964/lhg_682830/jbqk_682832(2016年6月2日アクセス)。

[23] 「共同開創中阿関係的美好未来」『人民日報』2016年1月22日。

[24] 中国ASEAN関係については、http://www.asean-china-center.org/参照。

[25] 拙稿「強まる米中対立、引き裂かれるASEAN」『東亜』霞山会、2016年6月号、84-93ページ。

[26] 「中華人民共和国政府関於在南海的領土主権和海洋権益的声明」「中華人民共和国外交部関於應菲律賓共和国請求建立的南海仲裁案仲裁庭所作裁決的声明」『人民日報』2016年7月13日。「南沙美済礁渚碧礁新建機場試飛成功」「非法仲裁改変不了南海諸島是中国固有領土的事実」『人民日報』2016年7月14日。

[27] 「太平洋島国論壇」http://www.fmprc.gov.cn/web/gjhdq_676201/gjhdqzz_681964/lhg_683142/jbqk_683144/(2016年6月18日アクセス)。

[28] 黒崎岳大「太平洋島嶼国からみた中国の太平洋進出」http://pia.or.jp/?page_id=248/(2016年6月4日アクセス)。同「太平洋島嶼国に対するドナー国の外交戦略 『太平洋・島サミット』に見る日本の太平洋島嶼国外交を中心に」塩田光喜編『グローバル化とマネーの太平洋』アジア経済研究所、2012年、141-169ページ。

[29] 「南アジア地域協力連合(SAARC)」http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/saarc/(2016年6月3日)。

[30] 陳翔「南亜区域合作連盟的発展現状及前景」『国際研究参考』2015年第6期、9-14ページ。

[31] 本年6月、昆明で第4回中国-南アジア博覧会が開催されたが、南アジア地域協力連合加盟国のうち、同開幕式に高位の政治家を派遣したのはモルディブとネパールにとどまった。「第四届中国-南亜博覧会開幕」『人民日報』2016年6月13日。

[32] 「為我国発展争取良好周辺環境 推動我国発展更多恵及周辺国家」『人民日報』2013年10月26日。

[33] 「中央外事工作会議在京挙行」『人民日報』2014年11月30日。

[34] 「為構建中美新型大国関係爾不懈努力」『人民日報』2016年6月7日。

[35] モンゴル、北朝鮮、韓国、アメリカ、カナダ、そして日本などは、「多+1」型フォーラムの、いわば対象外的存在である。勿論、そのことが良好な関係にないことを意味するわけではないが、中国は北朝鮮との間では核開発問題、韓国との間では高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)配備問題、そして、日本(及び米国)との間では東シナ海や南シナ海などの懸案を抱えている。

以上

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