政策研究ディレクター・研究員
亀井善太郎
東京財団では、6月3日に公開された年金の財政検証 1 を踏まえ、各党の社会保障政策に関する政策責任者を招き、財政検証を起点とした今後の政策検討および合意の方向性を明らかにしていくことを目的に、公開フォーラム(第80回東京財団フォーラム 2 )を開催した。
自民党からは野田毅衆議院議員(党税制調査会長、社会保障制度に関する特命委員長)、公明党からは桝屋敬悟衆議院議員(党政策調査会会長代理、社会保障制度調査会長)、民主党からは松本剛明衆議院議員(党税制調査会長、政策調査会長代理)が登壇した。
本稿では、フォーラムでモデレーターを務めた筆者が、フォーラムにおける議論を踏まえ、その意義を読み解くことを通じ、副題のとおり、年金財政検証のような将来推計を起点に政治はどう動いていくのか、社会保障制度改革や財政健全化に向けた流れも含め、政策合意に向けた動きを展望したい。
将来推計を政策検討・合意の起点とする素地が出来つつある
そもそも、年金財政検証のような将来推計を起点に、政党や政治家が政策検討や政策合意を進めるプロセスにはどんな意義があるのだろうか。
すでに東京財団政策提言で示したとおり 3 、経済財政社会保障に関する各種の将来推計は政策担当省庁の「お手盛り」となりがちで、政策の正当性の補強のために将来推計が使われることが多く見られた。実際、推計は政策変更に合わせたタイミングに実施され、こうした将来推計が発表されれば、野党はその前提のロジックやパラメーターの確からしさを担当省庁に問い詰め、政府与党はこれを防御するという、政策立案から見れば不毛な水掛け論ばかりが繰り返されてきた。
このフォーラムで採り上げた年金財政検証とは、国民年金法等において、5年に一度の実施が定められたものだ。経済や労働市場への参加等、さまざまな前提を踏まえ、年金財政の将来を推計するものであり、年金財政の健全性を検証するための年金制度における将来推計だ。今回公表の財政検証は2004年、2009年に続く3度目にあたる 4 。
前回の2009年の財政検証は、自民党の下野・民主党の政権獲得に至る総選挙寸前という事情も相まって、すでに指摘したような「不毛な水掛け論」に終始し、経済前提、とくに賃金上昇率や金利といったパラメーターの甘さに関する指摘が野党からあった程度で、財政検証から見出された課題を踏まえた必要な制度改正に至る動きを見ることはできなかった 5 。
今回公表された2014年の財政検証を位置付けるに、その後、民主党の野田政権において、2012年6月、民主・自民・公明の三党によるいわゆる「三党合意」が行われた経緯を無視することはできない。消費税率の引き上げ(5→8%:2014年4月、8%→10%:2015年10月)や社会保障制度の充実(年金、子育て)、そして、社会保障制度改革国民会議の設置等について合意した三党合意は、消費税率の引き上げは先行したものの、その後の社会保障制度改革国民会議における議論が年金はもとより医療、介護までも含めた社会保障制度改革の道すじを示すことに至ったことを考えれば、その内容の評価は別にして、その後の財政政策および社会保障政策に関する政策合意のベースにあることは間違いない事実だ。
三党合意の後、再度の政権交代があり、自民・公明連立政権となったが、そのもとでの社会保障制度改革国民会議の報告書が三党合意を十分に踏まえていないとして、2013年8月、民主党は三党による社会保障改革に関する実務者協議を離脱した 6 。
こうした政治的経緯を踏まえ、2014年の年金財政検証がどのような形で公表されるのか、また、各党はどう反応するのか注目されてきたが 7 、以下の登壇者の発言要旨のとおり、三党合意を経て初めての財政検証であり、次なる政策合意のための材料として示された性格が強い。そうした意味では、従来型の推計とは一線を画した、政策検討・決定の起点となる将来推計がようやく出されたことになる。
今回の財政検証に関する評価(発言要旨 8 )
野田内閣(民主党)において、自公民3党で税と社会保障一体改革を成立させた。一体改革ということは、年金問題についても、それまでスタンスが違っていた事柄が、少なくとも野田内閣のもとにおいては、それまで民主党が掲げ、選挙公約にまでしてきた「消費税を中心として全額税方式」には必ずしもこだわらないという中で、3党で話し合いをしながら、よりよきものを求めていこうというスタンスが政府として出た。当然、自民党も、それまで自公内閣でつくってきた100年安心といわれているこの枠組みだけが後生大事にということを強調することは横へ置きましょうと変わった。そこでそれから3党協議を重ねて、具体的なものを、よりよきものを求めていこうという、社会保障のそれぞれのあり方について合意をしたわけだ。社会保障改革推進法というものをつくって、で、それに基づいて初めての今度は財政検証ということだ。
したがって、まずは検証するスタンスが、現在ある制度を正当化しようという発想ではなく、いろんな角度から検証して、その上で、みんなで一緒に考えようという素材を提供するというスタンスだから、幾つかの経済変動のバリエーションを含ませながらの算定、そして、それだけでなくてオプション試算 9 もさらに加えた。オプション試算まで入れると、今までの制度設計からいうと、大幅な制度変更ということになるのかもしれないが、そのことを改善か、改革かという言葉の遊びをするのではなく、よりよきものにしていこうと、そして少なくともこの年金制度の骨格は、みんなに信頼度が高まるような形に持っていかなきゃいけないと、そういう目標を持って作業をやってもらったと思う。
2004年の年金改革のとき、坂口厚労大臣のもとで副大臣をやっていたので、今回の財政検証というのは、やっとあのときの想定していたさまざまな改革が一通りできたものと考えている。基礎年金を国庫負担2分の1に引き上げ、財源をきちんと確保し、その上でさまざまな課題も整理された上での財政検証ということだ。さて具体的な中身だが、3回目として、随分工夫をしたと思う。前回も、出した途端に前提が甘いとかいろんなことを言われていたから、今回はいわゆる基準ベースは置かずに、経済の変動に合わせて、8通りの計算をしていただいた。見ようによっては、あとは国民の判断に委ねるということであるから、逆に国民の皆さんから見ると、ちょっとわかりにくいところもあり、よほど我々がきちんと説明をしなきゃいけないと思っている。
その一方、現在進めている経済対策をしっかりとやり、日本経済の再生と労働市場参加、これがきちんと進めば、代替率50%は確保できるということが確認されたとも言えるし、それを実現していかねばならないと考えている。
ただ、今日のテーマの一つでもあるが経済の変化に大きな影響を受けることも確かだ。幾つかのシナリオを見てみると、なかなか深刻なデータも出ているわけで、とくに基礎年金部分の所得保障機能、これがマクロ経済スライドで動くので、しかも30年という長い期間でやらざるを得ないこともあって、やはり所得保障機能という観点で何をしなければならないのか等を考えていかねばならない。
(枡屋敬悟議員:公明党)
指摘があったように、これまでの年金の議論は残念なことに、破綻するのかしないのかとか、現行制度を直すのか、抜本改革をするのかと、そういったことがあたかも論点かのように言われてきたわけだが、どんな年金を目指すのかということについて、1つずつ課題をクリアしていけば、やるべきことというのは自ずと収斂してくるだろう。その意味で、民主党が申し上げてきた年金制度改革は、1つは最低保障年金、1つは一元化というのが大きなポイントだが、最低保障年金という言葉に必ずしもこだわることはないと私は思っている。ただ、所得保障機能については、年金ばかりではなく他制度も含め、最終的には社会保障トータルで考えなければならないと思う。
その上で、今回の検証ということだが、2004年は、当時の国会では強行採決をする等、政治的に激しい状況であり、また、役所の側も係数とか計算式を出すのにまだ慣れ切っていないところがあり、一呼吸置きながら出てくるので、出てくることそのものが若干議論になった時代でもあった。それに比べると、今回は非常に見る方が見ればわかるという形にはなってきていると言える。
もう一つのポイントは、やはり複数のケースを並列的に出したことだと私も思う。実は財政とか社会保障について、一つが正しいというのではなくて、さまざまなケースを想定し、複数のことを出して、政策に関心のある方々を中心に議論をして、政策を定めていくべきではないかということの超党派議員による提言を去年実は出させていただいた。政策検討や決定のプロセスにおいては、こうした複数のシナリオを出す中でいろんな議論をしていくということと、またこれによって、推移をフォローすることが可能になってくるわけで、このオープンであるということと、複数出ているということは私もよかったと思う。
(松本剛明議員:民主党)
依然として多くのメディアが伝えるのは、過去2回の財政検証と同様、前提となるパラメーター等の甘さへの指摘や「制度破綻か否か」といった観念論が目立つが、政策立案を担う与野党の政策責任者たちは、過去の2回とは異なり、政策検討や合意するための材料として財政検証を位置付けている。ようやく将来推計が政策検討や合意の起点となる素地が整いつつあるのだ。
財政検証が示した3つの課題について各党はどう考えているか
では、こうした将来推計を起点とした政策検討や合意がいかに行われるのか、具体的な方向性を確認するため、財政検証が示した以下の3つの課題について、意見を聞いた。
1.景気変動に対する制度の脆弱性
2.世代間格差の存在
3.高齢者貧困の懸念
まず、1.景気変動に対する制度の脆弱性については、財政検証結果の16ページ「経済変動を仮定した場合のマクロ経済スライドの発動への影響」 10 により、実際の経済において経済変動があった場合、とくに物価上昇率がスライド調整率より低い場合、既裁定年金に対するマクロ経済スライドがフルに発動しなくなることを示した。併せて、マクロ経済スライドのデフレ下における発動については、社会保障制度改革国民会議の報告書でも示され、今回のオプション試算でもオプション?として試算が行われている。
ここでは、登壇者の中から枡屋議員の発言(要旨)を採り上げる。2004年改正からの政策の積み重ね、これまでの経緯はあるものの、三党合意及び社会保障制度改革国民会議報告書の重みを実感し、今後の政策の方向性を見出すことができるコメントと位置付けられよう。
脆弱性とまで言われると、国民に説明をするという立場からすると、ちょっとつらい言葉だが、しかしそうはいいながら、やはり今回財政検証で示されたように、やっぱり景気によって随分大きな影響を受けると率直に認めざるを得ない。
特に賦課方式をとっている我が国の年金制度にあっては、避けて通れない状況だろう。先ほどから話が出ているように、税方式にするとか抜本的な改革をするとかというのは、これはなかなか難しいという議論がもう既に出尽くしていると私は思っているので、現行制度の枠組みを基本として、やるべきことをしっかりやっていくということだろう。
このオプション試算は、やはり3党で決めて、社会保障改革国民会議の提言に基づいたものだ。私は実は与党の一員として随分抵抗した。我が党内に説明をするのは大変なのだが、オプション試算が示された。オプション試算の先に見えるものは、制度の持続可能性を確保するために次にやらなきゃならない課題も明らかになってきていると思う。
そういう意味では、この景気変動に対する、とりわけマクロ経済スライドのありようについては、実は、我々の前の与党時代、物価変動に応じて年金をスライドさせるということが、10年続いたデフレ下にあって、年金水準を見直すこと、その決断ができなかった。これは大変反省もしているし、昔を振り返ってもしようがないのだが、結果として、今、調整が5年先送りになっている。
経済が厳しくなればマクロ経済スライドが発動しない、止まるということであれば、止まった部分は次の世代に先送りされるわけだから、ますます世代間の格差は大きくなるということは認めざるを得ない。そうすると、今回オプション試算で示された内容については、我々政党としても真摯に受けとめねばならないと思う。
ただそのとき、先ほど申しあげたとおり、年金の、とりわけ基礎年金の持っている所得保障機能、ここをどうするのかということはあわせて議論しないと、我が党としてはなかなか説明が難しいと感じている。
次に、2.世代間格差の存在について聞いた。世代間格差はいろいろな見方がある。負担も含めた世代間の違いはもちろん、財政悪化も含めれば、次世代の負担はより大きなものとなるが、ここでは、6月27日の年金部会で公表された関連資料から「生年度別厚生年金の見通し」 11 を示し、給付水準の違いを採り上げた。
世代間格差については、「年金制度とは私的扶養の社会化(枡屋議員)」、「生活水準の全般としての改善を見た方がよい(松本議員)」、「年金で大事なのは、年金をちゃんと加入して払っている人は、加入しないで払わない人よりは確実に得であるということ(野田議員)」と、登壇者三者ともに年金制度を考える上でことさらに採り上げるべきではないとのスタンスを示した。
一方、20%までの引き上げが組み込まれている厚生年金保険料といった現役世代の負担のあり方、十分な財源を手当てしないまま給付が先行する医療制度(高額療養費制度等)のあり方、財政悪化に伴う次世代負担の増加は深刻であるとの意見も出され、年金制度に限った問題ではなく、財政健全化への取り組みや医療政策における給付の見直し、また、若年者や現役世代を対象とした雇用政策の推進を含めた対応が必要であるとの認識が示された。
第3のポイントである高齢者貧困の懸念については、「生年度別基礎年金の見通し 12 」を示し、マクロ経済スライドにより制度は保全される一方、個別に見れば、高齢者の貧困が進んでしまう懸念について意見を求めた。
本件については、枡屋議員や松本議員が何度かコメントしてきたとおり、年金制度だけで最低保障機能を賄うのではなく、社会保障制度全体で考えるべきとの指摘があり、そうした共通認識を踏まえて、それぞれの登壇者から意見が出された。
野田議員は「公的年金だけで老後の生活費を賄うという設計にそもそもなっていないし、そういう社会を目指すべきではない」、「すでに基礎年金の5割を消費税で賄っており、医療や介護に関する歳出が増大することを考えれば財源の見込みは厳しく軽々に言える問題ではないし、それこそ世代間格差につながってしまう」との意見が出された。
これに対し、枡屋議員は「基礎年金の持つ所得保障機能としてどう整理するかが重要」との認識が示され、「3党で議論した中で、消費税10%段階で、年金とは別の給付措置をということで、低年金者への措置に取り組むことを一応決めたのは高く評価している」と高齢者貧困、とくに国民年金受給者における貧困問題に高い関心を示した。加えて、「スライド調整にいち早く取りかかり、早く終えることが大事ではないか、また、オプション試算で示された適用拡大についても考えるべきではないか」と問題提起があった。
松本議員は「給付水準の問題が不公平感につながっている。最低賃金(働いて得られる給料)、年金保険料を払った人、何もしなかった人(生活保護)という順番になるよう、再検討されるべき」との意見が示された。
以上、財政検証から見えてくる3つの課題について、それぞれの意見を聞いた。財政検証を政策検討や決定の素材にしていくという基本的なスタンスが共通していることも相まって、それぞれの政党の主張に差異は見られるものの、現行制度の課題を認識し、マクロ経済スライドのデフレ下での適用をはじめ、その課題解決のための具体的な政策検討を進める素地は整いつつあるように思われる。
消費税率10%引き上げの2015年10月後の展望はどうか
年金制度を巡る議論からスタートしたものの、結局は社会保障制度改革をいかに進めるか、併せて、財政健全化への道のりをいかに確たるものとするか、つまり、負担と給付のあり方の見直しこそが日本の内政における重要課題の一つである。
そうした点を踏まえ、社会保障制度はもちろん財政分野においても政策を動かす登壇者たちに、2015年10月に予定されている消費税率10%への引き上げの後までを展望し、政治はいかなる決断をしていくのか、そのロードマップも含め、方向性を尋ねた。
枡屋議員は「消費税10%を見越しても、社会保障政策に関わる歳出を賄うのは厳しい。とくに団塊世代が後期高齢者となる2025年においては、医療・介護に関わる支出の拡大が巨額となることが心配だ」と今後の歳出拡大に懸念を示した上で、当面の重点ポイントとしては「地域における医療・介護提供体制を地域包括ケアに転換していくことを通じて、受益者にとっての質を確保すると共に財政負担の縮減を狙っている。これをどこまで日本でできるのか、新たな挑戦である。また、これこそ、給付の重点化、効率化であることは間違いない、これはもう避けて通れないと考えている」と、年金制度における必要な政策対応と並行して、医療・介護政策における地域包括ケアの必要性を訴えた。
松本議員は、まず年金制度について「オプション試算で示されたマクロ経済スライドのデフレ下での適用、被用者保険の順次拡大、支給開始年齢の選択制の導入等が考えられる」と具体的な政策を示した上で、「費用者保険の拡大や支給開始年齢の選択制に密接に関連する雇用問題への取り組みが重要」と関連する政策も含めた社会保障制度全体での見直しの必要性を訴えた。また、「消費税率10%への引き上げはしっかりやっていただきたいし、野党だから言えると思うが、その次も考えなければならないと思う。そのためにも、10%に引き上げた際に、国民から、10%は大変だけどちょっとはいいこともあったなという実感が出るような一工夫をぜひ与党の皆さんにうまくお願いしたい」と財政健全化は不可欠との認識を示しながらも、社会保障の充実にも目配りが必要と訴えた。また、野党として、在野の声を届ける自らの役割についても言及した。
野田議員は「現在、消費税10%を前提にして、制度の手直し、設計変更を今やっている最中。方針を示したので、これから具体化していく。これはもう今度の通常国会に法案を出してやっていかなきゃいけない。医療・介護の地域包括ケアの現場での具体適用も重要だ。また、繰り返しになるが、年金もそろそろ手直しする必要もある」と当面の流れを示した上で「加えて、税と保険料の関係の見直しを通じて、同世代間の公平を実現していくことも重要」と所得税等の課税ベースの見直しの必要性についても言及した。
加えて、2015年10月以降の展望については、「党税調会長をやっている立場としては、来年10月から予定されたとおりの引き上げが決定もしていない、そういう段階からその次の税率に言及するということは、とてもじゃないがひっくり返っちゃうだろうということもあって今は言いにくい」と言及したうえで、「ただ、いまの内閣も掲げているプライマリーバランスの黒字化は消費税を10%に引き上げたとしても、これはかなり背伸びした数字である。10%になり、その次の形をどうしようかという段階は必ず来ざるを得ない」、「消費税の引き上げはお願いしなければならない、あるいは、自己負担の引き上げもお願いしなければならない、給付の削減もお願いしなければならないということで、決して消費税が上がったからこんなによくなるということはなかなかできない現状にあって、充実する部分と見直さなきゃならん部分とが両方あるというのが本音」と、財政健全化の必要性とそのためには政治家が厳しい覚悟をもって臨まなければならないとの認識を示した。
将来推計を起点にした政策検討・合意プロセスを我が国にいかに作っていくか
年金財政検証は政策検討や決定の起点になりうるのだろうか。これまでの政策決定プロセスではなかなか実現してこなかった。その原因は様々だが、野党の徹底抵抗という保革対立時代の意識を持ち続けていることは、主要政党が一度は政権を経験したこともあり、変化の兆しを見ることができるようになってきた。なにより、社会保障歳出の拡大はまったなしであり、財政も含め、党派を超えた合意を必要とするところまで来ている。三党合意はまさにそうした変化によるものであり、これを受けた年金財政検証は従来の将来推計とは一線を画するものとして作られた。
複数のシナリオを用い、政策の効果やコストをシミュレーションできるのが推計の強みだ。これを政策検討のベースにしていかねばならない。
すでに、超党派議員との共同提言 13 では、国会に独立推計機関を設置し、国会独自の推計を持つことによって、行政が出してきた将来推計との違いを見出すことによって、政策をより効果的で効率的なものとすることができると提言している。立法府の機能強化として、政策検討プロセス改革の一環として、具体的な法案化等の動きが期待されるところだが、独立推計機関の国会への設置を待たずとも、こうした政府が作成した将来推計を起点とした政策検討・決定プロセスは、年金に限らず、それぞれの政策分野で行われるようにならなくてはいけない。まずは、年金財政検証を起点とした今回の動きを確たるものとし、次の臨時国会から通常国会にかけ、具体的な動きが始まるよう、メディアや政策シンクタンクが促していくことも必要だ。
登壇者からは、公開の場での対話という「この場」の価値を評価された。こうした場をつくり、仕掛けることこそが、独立した存在である政策シンクタンクの役割だ。政策シンクタンクとしては、個々の政策実現のサポートはもとより、政策検討・決定の基盤となる独立推計機関の設置、さらには、将来推計が政策検討・決定の起点となるプロセス改革にも、関係者と共に積極的に取り組んでまいりたい。
1. 厚生労働省は、6月3日開催の第21回社会保障審議会年金部会にて「平成26年財政検証結果」及び「オプション試算結果」を発表。また、6月27日には、その関連資料を発表した。 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/
2. 第80回東京財団フォーラムの概要および当日の録画はこちら https://www.tkfd.or.jp/events/detail.php?past_event=193
3. 「将来推計の抜本見直しを-日本の経済財政社会保障に関する将来推計の課題と将来像」(東京財団政策提言)https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=2620、日本経済新聞経済教室(2012年1月26日)「財政など政府の将来推計 ― 省益狙いの“乱造”解消を」(筆者)
4. 正確には、2004年までは法律により保険料率の再計算を行なうための「財政再計算」であり、2009年以降が「財政検証」となる。2004年改正において5年毎の保険料率の改正をやめ、引き上げ上限を確定させた。ここで言う三度目とは法改正を行った2004年改正以来という意味。
5. 政権交代前に制度の課題を指摘していた民主党が、政権交代に伴い政府内に入った後、その課題解決に取り組まなかったことも、2009年財政検証が新たな政策立案に活用されなかった一つの理由である。
6. 民主党離脱後、いわゆる実務者協議は進んでいない。 http://www.dpj.or.jp/article/103176 今回のフォーラムでは、そうした経緯も踏まえ、自民、公明、民主各党に対して、本件に関する政策責任者の登壇を求め、各党の意見をオープンの場で表明してもらう形をとった。
7. 公表前の論点、とくに公表時期に遅れには政治的な配慮の存在を懸念する声があった。そうした点については、拙稿(2014年1月)を参照されたい。 https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=996
8. 筆者による要約。実際の発言は、本稿末尾の中継動画でご覧いただきたい。
9. オプション試算とは、社会保障制度改革国民会議報告書で示された「マクロ経済スライドのデフレ化での適用」、「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大」、「高齢期の就労と年金受給の在り方」等の問題提起を踏まえ、課題の検討に資するよう、一定の制度改正を仮定した試算のこと。従来の財政検証と同じタイミング(6月3日)に公表。
10. http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/h26_kensyo.pdf 16ページ。
11. 生年度別に見た年金受給後の厚生年金の標準的な年金額(夫婦2人の基礎年金含む)の見通し。人口は中位ケースながら、経済はケースGで8つのシナリオで二番目に厳しい。機械的に給付水準調整を進めた場合。 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/h26_kanren.pdf 11ページ。
12. 生年度別に見た年金受給後の基礎年金の年金額の見通し。課題2に示した厚生年金が世帯ベースに対し、個人ベースの数字となっていることには留意の要。前提は課題2で示したものと同じ。基礎年金の調整が比較的長い期間を経て行われる。 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/h26_kanren.pdf 12ページ。
13. 東京財団の政策提言を受けた超党派議員による共同提言(2013年6月) https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=2619