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日米中関係の行方 - 経済的観点からの考察 <page2>

March 27, 2013

もちろん、貿易額に占める日本のシェアが低下しているからといって、必ずしも中国にとっての日本の経済的重要性が低下したとは言えない。日本はいまや中国の輸入相手として第3位にとどまっていると述べたが、実はEUやASEANなどのグループとの比較ではなく国別で比較すれば、日本はいまなお中国にとって最大の輸入相手国である。

日本の対中輸出は、半導体や電子回路などの電気機器(2012年における日本の対中輸出全体の23.7%)、金属加工機械や自動車エンジンなどの一般機械(同23.2%)、プラスチックなどの化学製品(同13.9%)、鉄鋼や非鉄金属などの原料別製品(同12.3%)などが大半を占める *12

中国は、日本から輸入したこのような部品、原料、加工機械を利用して欧米など最終市場向けの輸出製品を製造している。2011年のデータで言えば、中国が各国から輸入する鉄鋼の21.8%、一般機械の19.6%、輸送機器の19.0%、電気機器の10.4%は日本からの輸入である(下表参照)。

つまり、総額で見れば日本からの輸入は中国にとって全体の9.3%を占めるに過ぎないが、中国が最終製品を生産するために必要な部品、原料、加工機械など個別商品ごとに見れば、日本からの輸入品が占めるシェアはもっと高いのである。したがって、中国にとって対日貿易制限は、自国経済にも悪影響を及ぼす両刃の剣である。

【出典】「日本の対中輸出額」はJETRO統計、「中国の輸入総額」は中国統計年鑑2012。
注)HSコード2桁に基づく分類で比較。

しかし問題は、こうした事実にもかかわらず、中国側が敢えてその両刃の剣を抜く傾向が見られるという点だ。中国側に、経済パートナーとしての日本の重要性に関する誤解や過小評価が存在する可能性がある *13

一方、中国は、いまや最大の貿易相手国となった米国に対しては、比較的穏健な姿勢を採る可能性はある。実際、米中関係に関して言えば、胡錦濤指導部の10年間で中国は、米国と緊密な協調関係を構築してきた。特に、アジア重視を掲げるオバマ大統領が就任してからは、米中戦略・経済対話に代表されるとおり、米中間の協調が深まってきている。

発足間もない習近平新指導部としては、下手な路線変更によって批判を招かぬよう、胡錦濤前指導部が残した対米協調の路線を当面維持していくものと考えられる。外交部の洪磊報道官も、11月15日の記者会見で新指導部の対外政策方針について問われた際に、「胡錦濤同志が第18回党大会開会式で行った報告が、中国の国際情勢に対する見方や外交政策を全面的に明らかにしている」として、新指導部下においても中国は胡錦濤の示した協調的な外交路線を維持していくとの方針を明らかにしている *14

2. 日米中関係への含意

もちろん、米国は日本の同盟国であり、かたや中国は日本の最大の貿易相手国であるから、その米中両国の関係が安定することは、日本にとっても悪いことではない。米中関係が安定していれば、日本が両国の間で二者択一を迫られる状況を回避できる。

また、日米中の貿易関係を鑑みれば、米中関係が安定して両国間の貿易が拡大することは、日本経済にとっても利益である。

上述したとおり、日米中間の貿易においては、日本から中国へコア部品を輸出し、それを利用して中国が完成品を組み立て、米国などの最終市場に輸出するという国際分業関係がある *15 。例えば、米国アップル社のiPhoneは中国にある台湾企業によって組み立てられていることが良く知られているが、iPhoneに使われている部品の4割から5割は日本企業が提供している。液晶はJapan Display、バッテリーはSony、flash memoryは東芝の製品だ *16

言い換えれば、確かに中国にとって最大の輸出相手国は米国であるが、その対米輸出を支えているのは日本からの輸入なのである。こうした国際分業体制は、中国から最終市場への輸出が好調であってこそ、はじめて日本にも大きな利益をもたらすのであるから、米中貿易関係の発展は日本にとっても歓迎すべきものと言えよう。

ただし、日中間の対立が今後も避けられそうにない状況下で、米中関係ばかりが良好に発展した場合、日本には、同盟国の米国から「見捨てられる」不安が生じかねない。日中間で対立が生じた場合、米国は日本と中国のどちらの側につくのか。尖閣諸島問題は、まさにそうした選択を米国に迫るものである。

この点、現在のところは、尖閣諸島問題に関する米国の態度は明らかである *17 。たとえば、米国上院は、2013年度の国防権限法案可決に際して、尖閣諸島が日米安全保障条約の適用対象であることを明記し、領有権問題を「武力による威嚇や武力行使」で解決しようとする動きに反対することを強調した。また、ヒラリー前国務長官も、「尖閣諸島に関する日本の管轄権を脅かす一方的な行為に反対する」と中国をけん制していた。このように米国が、日中間の対立において日本側に立つ限りにおいては、良好な米中関係は日本にとっても利益をもたらすものと言えるだろう。

しかし一方で、日中間に対立の火種が消えない以上、対立が激しくなるたびに、米国は、日中いずれの側につくか難しい選択を迫られることになる。ごく最近まで、米中間では台湾問題が関係発展の「主たる障害」とされてきた。かつて?小平も、台湾問題こそ「中米関係の主要な障害であり、甚だしきに至っては両国関係において爆発的問題に発展する可能性がある」と表現していた *18 。しかし、いまや台湾にかわって日本が、米中関係発展の新たな「主たる障害」になりつつあるとすら言えるかもしれない。

3. 結論

以上述べてきたとおり、中国から見た経済的重要性という観点から考えた場合、その対外姿勢は当面「対米協調、対日強硬」となる可能性が高いと予想される。もちろん、米国は日本の同盟国であり、かたや中国は日本の最大の貿易相手国であるから、その米中両国の関係が安定することは、日本にとっても基本的には望ましい。しかし一方で、日中間に対立の火種が消えない限り、間に挟まれる米国は、常に、日中いずれの味方につくか、難しい選択を迫られることになるだろう。言い換えれば、日本こそ、米中関係発展にとって今後は「主たる障害」にすらなりかねない。

では、日米中関係を、安定的で協力的な関係として発展させ、三国それぞれにとって利益あるものとするためには、どうすればよいか。その答えは、日米中それぞれが、慎重に行動することである。

まず米国は、尖閣諸島問題のように中国と日本が対立する問題において、決して日本を見放さないことが何より必要だ。日米安全保障条約を基軸に北東アジア地域での軍事プレゼンスを維持し、また、引き続き台湾への武器供与を続けることによって、この地域における力のバランスを均衡させておくことが重要であろう。

中国には、尖閣諸島海域へ航空機や船舶を派遣したり、あるいは、日本の船舶に対して射撃用レーダーを照射したりするような威嚇は、慎むことが求められる *19 。日中間で対立が生じれば、米国は常に日中いずれの側につくか難しい選択を迫られることになる。それは、日本を米中関係発展の新たな「障害」にしかねない。

そして日本にも、自らが地域の不安定要因や米中関係発展の障害とならないよう、慎重な対応が求められる。尖閣諸島問題のように、日中の間で意見が一致せず米国に難しい選択を迫る問題については、できるだけ対立を高めないように棚上げすることが望ましい。日本が、米中それぞれと政治的に安定した関係を構築できれば、日中米すべてが利益を得るだろう。



*12 JETRO「2012年の日中貿易」。
*13 中国を代表する政府系研究機関である中国社会科学院日本研究所の経済問題専門家ですら、「今や中国経済にとって日本との貿易は必要としてない」旨を強く主張している。国際シンポジウム「世界情勢の変化と日中米関係」(於:中国北京、2013年3月2日)での発言。
*14 2012年11月15日洪磊報道官定例記者会、中国外交部HP( http://www.mfa.gov.cn/chn/gxh/tyb/fyrbt/jzhsl/t989479.htm )より2012年11月30日にDL。
*15 As for structure of international trade in East Asia, see Ministry of Economy, Trade and Industry of Japan, “Structure of international division of labor in East Asia and its change,” White Paper on International Economy and Trade 2012, pp.295-316.
*16 日本経済新聞「日本製部品の独壇場」2012年10月19日。
*17 As for U.S. position on the Senkaku (Diaoyu) issue, see Mark E. Manyin, “Senakaku (Diaoyu/Diaoyutai) Ilands Dispute: U.S. Treaty Obligations,” CRS Report for Congress, January 22, 2013.
*18 SELECTED WORKS OF DENG XIAOPING, Vol.3, p.97, People’s Publishing House (in Chinese).
*19 中国は、尖閣諸島周辺において、日本の主張する領空および領海への航空機および船舶の侵入を繰り返している。中国船舶による日本の領海侵犯は2013年1月及び2月の2カ月間だけで10回に上る(『朝日新聞』2013年2月28日など。)。また、2013年1月30日には、尖閣諸島周辺海域を航行中の海上自衛隊護衛艦に対して中国軍艦が射撃用レーダーを照射して威嚇を行ったという報道がある(『朝日新聞』2013年2月6日など)。

    • 東洋大学 国際教育センター 准教授
    • 関山 健
    • 関山 健

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