2020年は、コロナで始まり、コロナのさなかで終わった。政府はこの間、コロナにどう向き合ったのであろうか。この論考では、2回に分けてその取組を国の財政の視点から明らかにし、今後の備えについて論じる。まず、コロナ禍で編成された三つの補正予算を経て、国の財政の現状がどのようになっているかを論じる。次に、コロナ対策予算とその課題について述べる。
以上の検討を通じて、国の財政については、コロナ以前の綱渡り状態がどれだけ悪化したかを指摘する。コロナ対策の重要な課題は、支援が急がれたため、所得や収入の減少など支援の必要度について十分な判定をすることなく、国民全員や多くの事業者をその対象としたことだ。今後、新しい生活様式の定着やワクチン接種によってコロナ感染が収束し、経済が回復すれば、多くの人々や事業者はより豊かになる。その一方で、コロナ対策で悪化した日本の財政をこのまま放置することはできない。感染収束と経済回復を見極めたうえ、コロナ対策で生じた財政支出を取り戻す必要がある。
三つの補正予算
政府はコロナ対策として、2020年4月、6月および12月にわたって三つの補正予算を編成している。最初の二つはすでに執行されており、三番目の補正予算は閣議決定され、2021年1月に国会で審議される予定である。ここでは2020年度の当初予算と補正予算、およびそれとの比較で2019年度の当初予算と補正予算をもとに、国の財政がどれほど困難となっているかを示す。対象とする予算は表1にまとめた。
表1 コロナ対策を含む国の一般会計予算 (兆円)
(注1) 表中の歳出合計は、国の予算の基礎的財政収支対象経費に対応している。
(注2) 2019年度補正後予算(2020年1月30日成立)は、補正予算などに基づき筆者作成。
(注3)2020年度、第1次補正予算、第2次補正予算は、各2020年4月30日と6月12日に成立。第3次補正予算は、2020年12月15日に閣議決定された。
(注4) 2020年度第3次後補正予算は、閣議決定に基づいて筆者作成。表中のN.A.は補正予算に当該金額が記されていないため、「データ入手不能」を指す。
(注5)交付国債の債務償還等は歳出に含めていない。
(出所)財務省 (2019) (2020)より筆者作成
まずはコロナ以前の2019年度の予算から始める。歳出の一部は国から地方への財源移転で、地方交付税交付金等と呼ばれている。歳出合計からこの移転支出を引いたものが、一般歳出である。一般歳出は社会保障関係費とそれ以外に分けられている。歳入は税収とその他収入(国有財産売払収入など)からなっている。
以上をもとに2019年度当初予算をみる。まず目に入るのは、歳出合計78兆円に対して、歳入合計は68.8兆円で、その差額である基礎的財政収支は9.2兆円の赤字となっていることだ。それに利払費を加えた18兆円が、国の一般会計予算の財政赤字である。
歳出のなかでは、社会保障関係費が34.1兆円であり、それ以外の支出の27.8兆円より大きいことも注目点の一つだ。この予算の隣の欄は、2019年度の補正後予算である。社会保障関係費以外が増加する一方、歳入が当初予算より減って、基礎的財政収支の赤字は4.5兆円も増加している。一方、利払費が1兆円減少し、財政赤字は21.5兆円となっている。
以上がコロナ以前の国の財政である。次に2020年度の当初予算とその後の三つの補正後予算をみる。コロナを想定していなかった当初予算は、ほぼ2019年度当初予算を踏襲したものだった。例年ならば、補正予算によって支出が増加する一方、税収が見込み額から減って、赤字が一定程度増加することであったろう。しかし、コロナ後は例年とはまったく違った。
緊急事態宣言 (2020年4月) 以降、コロナ対策によって社会保障関係費以外の歳出が激増する。そして第3次補正では、それに税収の減額が加わって、基礎的財政収支の赤字は当初の9.2兆円から88.5兆円へと増加する。表1の作成時点では、利払費の情報が公表されていないため、財政収支の欄はN.A.(データ入手不能)となっているが、第2次補正後の8.6兆円程度の利払費が必要となれば、財政赤字は100兆円近くとなる。
以上を「国の財政力」の観点から指標化したのが表2である。まず、表中の「国の自前財源」の定義であるが、地方交付税交付金等は、国から地方への財源移転なので、国の歳入合計からこの部分を引いたものが、「国の自前財源」である。
表2はこの財源が、歳出をどれだけまかなうことができたかを示している。比較したのは、コロナ以前の2019年度補正予算後とコロナ後の2020年度第3次補正予算後である。
表2 国の財政力
(注1)国の自前財源=歳入合計―地方交付税交付金等
(注2)2020年度第3次補正後の社会保障関係費は入手できないため、【】内は第2次補正予算後の社会保障関係費を用いている。
(出所)筆者作成
この表から2点指摘したい。第1点は、日本の財政はコロナ以前から自前財源では歳出を到底賄えない状態だったということである。コロナ以前の2019年度補正後、国は社会保障関係費を賄うために自前財源の66.2%、ほぼ7割を投入しなければならなかった。自前財源の残りの3割で国のそのほかの仕事をすべて賄うことは、不可能である。指摘したい第2点は、自前財源を超えた分は、国のが基礎的財政収支の赤字となり、すでにみたようにその額は13.7兆円に達していたということだ。
表2はまた、コロナ後の2020年度第3次補正後予算で、国の自前財源の不足がどれだけ増加したかを示している。第3次補正後予算の社会保障関係費が公表されていないため、ここでは、第2次補正後の費用を用いている。歳入が減少したため、社会保障関係費を賄うためだけで、国の自前財源の86.3%が必要である。社会保障関係費が公表されれば、実際はそれよりさらに多くの財源が必要となるはずである。ここまでで、すでに日本の財政は行き詰ったといってよい。
しかし、一連の補正予算によるコロナ対策を含む歳出の拡大によって、一般歳出は国の自前の財源の288.7%、ほぼ3倍近くまで増大した。その結果、基礎的財政赤字は、自前の財源のほぼ2倍となり、その額は88.5兆円に達した。すでに述べたように、これに利払費を加えた赤字額は100兆円近くとなり、国債によって賄われる。次回「政府はコロナにどう向き合ったか(下)」では、2020年度の三つの補正予算によるコロナ対策の中身を検討するが、その背景に厳しい財政状況があることを念頭に置く必要がある。
参考資料
財務省、2019、「日本の財政関係資料」、10月
財務省、2020、令和2年度予算・補正予算
日本銀行、2020年、「経済・物価情勢の展望」、10月
そのほか、
- 2020年度、第1次および第2補正予算のコロナ感染症対策の内容については、財務省、財政制度等審議会・財政制度等分科会資料がある。
「説明資料(新型コロナウイルス感染症に係る対応について)」、6月1日
「社会保障について①」、雇用調整助成金、10月8日
「中小企業、エネルギー・環境」、持続化給付金・家賃支援・資金繰り支援、10月26日
「地方財政」、地方創生臨時交付金、11月2日 - コロナ禍の各種支援策については、経済産業省、「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」などがある。