中国共産党第18回全国代表大会を受けて
東京財団上席研究員/現代中国プロジェクトリーダー
高原明生
党大会の注目点は人事と政策である。ポイントは、これからの中国が安定するかどうかという問題にほかならない。今回、いつにもまして激しいと言われた権力闘争の末に誕生した新政権は、言わば2階(政治局常務委員会)に江沢民系のベテランを引き上げ、1階(政治局)に多くの共青団系の若手を配置した構造となった。胡錦濤は中央軍事委員会主席の座をも習近平に譲り、「長老政治」を排する体制を遺した。しかし、習近平が自らの権威と権力を早期に樹立できるかどうかについては、今後のお手並み拝見と言わざるを得ない。2階であれ1階であれ、「習近平派」の存在はほとんど見当たらず、習は、1989年の「天安門事件」後に総書記兼中央軍事委員会主席に抜擢された江沢民と同じような状況に立たされたとも言いうる。ただ大きな違いは、習がすでに軍と近しい関係にあるという有利性を有していることだ。
政策に関しては、党大会を通して、現在の中国社会が抱える問題点について率直な指摘が行われた。だが、具体的な処方箋の大胆な提示があったわけではない。もちろん、習近平の権力基盤が固められていけば、改革に踏み出す可能性がないわけではない。しかし現時点では、明るい展望を描くには材料が乏しすぎると言わざるをえない。差し当たりは、党大会前から喧伝された分配制度改革がどうなるのかが試金石となる。そして来年3月の全人代で李克強総理が誕生する際、改革全般を推進するための政府機構改革が出来るかどうかも注目点となろう。さらに、今後の外交について必ずしも楽観視できないという印象があるのは、習政権においてナショナリズムに訴える傾向が強まる気配が感じられるからである。その点についても、早く習近平が権力基盤を固められるか否かが重要なポイントとなるだろう。内政と外交の連動が、いっそう際立つ形での事態の展開が予想される。
* コメント:中国18全大を受けて(掲載日:2012/12/5)
政治状況に関して ― 小嶋華津子・慶應義塾大学法学部准教授
外交・国防の領域に関して ― 松田康博・東京大学大学院情報学環教授
経済政策の領域に関して ― 巴特尓(バートル)・多摩大学経営情報学部准教授
社会政策の領域に関して ― 及川淳子・法政大学客員学術研究員
農村政策の領域に関して ― 田原史起・東京大学大学院総合文化研究科准教授