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インタビューシリーズ「障害者の自立を考える」:宿野部武志さん <インタビュー後記>

November 6, 2013

「インタビューを終えて」

今回は内部障害の方を対象に取り上げた。内部障害は外見から分かりづらいため、周囲の理解を得にくい。実際、約2年前に交流会を兼ねた勉強会で宿野部さんと初めてお会いした時の第一印象は「オシャレなオジサン」であり、病気や障害のことは分からなかった。さらに、今回のインタビューでも週3回4~5時間を透析に使っていることなど初めて聞く話も多く、人工透析や慢性腎炎に対する知識の無さに気付かされた。

インタビューでは体育の授業を休んだ小中学校に始まり、大学入学、大手電機メーカーへの就職、がんとの闘い、社会福祉士の資格取得、起業など人生を振り返って頂いた。さらに、人工透析患者が社会参加する必要性について熱っぽく語っている画面が印象に残った。

以下、インタビューで印象に残った個所や、政策・制度論を考える上で参考となる部分を抽出しつつ、障害者の自立に必要な配慮や施策を考えたい。


まず、内部障害に対する社会の認識不足である。

内部障害はハンディが見えにくく、外見では判断しにくい。このため、透析患者は一見するとハンディを持っているように見えない分、周囲の理解や配慮が行き届かなくなることも想定される。

しかし、透析患者の場合、1週間のうち1割弱を人工透析に充てていることになり、その間は社会的活動がストップすることになる、

宿野部さんは会社勤務時代について、「透析日をずらすなどの方法で調整できた。すごく困った記憶がないので、多分うまく調整できた」と振り返っていたが、それでも大学時代の試験など変えられない日程の場合、透析日程の変更を余儀なくされ、その時は「透析を受ける日は習慣になっているので、透析のスケジュールを変えるのは見えないストレスというか、調子が狂う部分がある」と話していた。

そこで求められるのが「合理的配慮」の考え方である。合理的配慮とは障害者のニーズに応じて、障害者と支援機関が対話・調整しつつ、支援の可否や水準、内容などを決定する考え方。公的機関に対して合理的配慮の提供を義務付ける「障害者差別解消法」が2016年4月から施行される(民間は努力義務)。

さらに、2013年4月に施行された「障害者総合支援法」では130の難病が対象に追加されて、病気や内部障害に対する公的支援のカバー範囲も広がった。

しかし、法律や制度を整備したとしても、可能な範囲で多様な働き方を認めるなど、法律や制度を運用する民間や現場、社会全体の意識が変わらなければ、社会参加は進みにくいことは言うまでもない。

次にインタビューで感じた点は障害者雇用の重要性だ。

現在は障害者雇用促進法に基づき、常勤従業員の一定割合について、障害者の雇用を義務付けており、景気低迷の中でも障害者雇用の枠は拡大している。法律で定められた雇用率に比べると、これを満たしていない雇用主は多いが、厚生労働省の集計によると、2012年6月現在で雇用率は1.69%と、9年連続で過去最高を更新。2013年4月から法定雇用率の水準も引き上げられており、従業員50人以上の民間企業は1.8%から2%となった。さらに、雇用義務の対象として精神障害者が加わる(施行は2018年4月)など、制度の拡充が図られている。

その一方で、「企業側が障害者の能力を引き出せていない」との批判も耳にする。法定雇用率を満たさないと、「雇用納付金」という事実上のペナルティーを課されるため、障害者を採用しているものの、本人に合った仕事や役割を与えず、形式的にクリアしているに過ぎない企業も少なくないという指摘だ。

宿野部さんの場合、「透析の日は午後3時半に帰ることは可能」という事前の約束は必ずしも実現しなかったが、総務・人事の重要な仕事を任されており、宿野部さん自身の能力と努力も相俟って「辞める時は同期と同じぐらい昇進していた」という。さらに、総務や人事の経験が起業にも役立っており、企業サイドには個々人の能力や特性を引き出す運用が求められる。


さらに、今回のインタビューは過去2回と異なり、慢性疾患を持った方が対象となったため、医療や医師との関係が話題となった。

まず、医師と患者がコミュニケーションを取る重要性である。

がんを告知された時のエピソードとして、宿野部さんは「がんじゃないの?」と軽く話している医者に怒りを覚えたことを語ってくれた。確かに日本の医師は専門医志向が強く、「患者本人の生活ではなく、臓器・疾病しか診ない」「病気や不具合を『治す医療』には向いているが、慢性疾患や生活面までケアする『支える医療』『診る医療』には不向き」との指摘が多く聞かれる。慢性腎炎や人工透析の場合、医師や医療機関との付き合いが長くなる上、食事や雇用環境など生活面のケアも重要になる分、臓器・疾病を治すだけの医師ではなく、生活や心理までケアする全人的なスタイルが必要になる。

その一方で、宿野部さんが指摘する通り、医療従事者も過酷な勤務状況で疲労しているのも事実。双方のコミュニケーションが上手くいかないと、患者は所謂モンスター化し、医者も訴訟を恐れて対話を避けるようになり、悪循環に陥りかねない。患者・医師の歩み寄りと相互理解が必要であり、このプロセスは合理的配慮にも通じる。

さらに、医療費の問題である。宿野部さんによると、人工透析患者は全国で30万人超。毎年500万~600万円の医療費をほぼ自己負担なしで透析を受けており、国全体では1兆円を超える経費を税金または保険料で負担していることになる。

障害者の有無や透析患者の自己負担支援に限らず、「公費」による支援は「天から降って来るカネ」と受け止められがちである。しかし、「国による支援」と言っても、「国」という財布は存在しない。当然のことだが、その負担は社会の構成員に及ぶ。

もちろん、誰もが病気や障害を持つ可能性があることを考えれば、自立が難しい患者や障害者に対する相応の支援は不可欠である。

しかし、宿野部さんが「自分は社会の負担で生かされているわけですから、金額の大小じゃなく社会に貢献する意識を持つことが必要」「患者が社会参加の意識を持てば、どんな形でも社会に貢献することになるはず」と語っていた通り、意欲・能力を持つ患者や障害者の参加機会を社会全体で拡大させるとともに、患者や障害者自身も自立意識を持つことが重要である。

三原岳 (東京財団研究員・政策プロデューサー)
    • 元東京財団研究員
    • 三原 岳
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