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日欧協力の新時代?(3)

August 23, 2013

鶴岡路人 研究員


安倍政権下での新たな展開、これまでの積み重ね、そして、日本にとって欧州との協力の果たす意味に関する、本稿 (1) (2) を踏まえ、最終回となる今回の(3)では、今後を展望する上での新たな協力分野、そして、日欧関係を考える際の一つの課題として、個別国との二国間関係と、NATOやEUとの関係の相乗効果について検討したい。

新たな協力分野の可能性

日欧間では、認識共有や政治的パートナーシップ形成のための各種の戦略的対話、協議に加え、現場での自衛隊と欧州諸国部隊との協力が進展し、さらには情報保護協定、防衛装備品協力等がすでに重要なアジェンダになっている。不拡散や対テロにおける協力も、日欧間ではすでに伝統的なトピックの部類に入るかもしれない。

今後重要性が増す可能性が高いのは、海洋安全保障、サイバー安全保障、宇宙、災害救援等の分野であろう。海洋安全保障や災害救援に関しては地理的な要素が大きいものの、サイバーや宇宙は、まさに国境や地域を完全に超えた課題であり、日欧対話・協力を考える場合に、地理的に離れていることが全く妨げにならない領域だといえる。

それら分野における日欧協力の最も大きな利益の一つは、国際的な規制や規範の形成である。加盟国間で日々多国間での規制・規範形成の経験を積んでいるEUは、国際場裏においても侮れない影響力を有している。日本としては、すでに形成されたものに事後的に参加するのではなく、国際的な規則・規範形成に早い段階から参画することが求められている。その際に、EUとの連携は有力なオプションである。

海洋安全保障は、日本・アジアと欧州をつなぐ大きな課題である。ソマリア沖・アデン湾での海賊対処活動は、日本と欧州の関心・活動領域が物理的に重なった好例である。それ以外にも、国連海洋法条約等に基づく航行の自由原則の確保や、その他規範の形成にあたっては、日欧間で連携の余地があるだろう。EUが国際社会における法の支配を長年強調してきたことと、特に海洋秩序において近年、法の支配の重要性を再確認し、その強化を提唱している日本との間には高い親和性がある。日欧間で具体的な対話や協力を始めることができれば、その経験を他国に広めていくことも、長期的には考えられるかもしれない。

また、このところ特に英国、フランスとの二国間関係強化への動きが目立っている日本側の背景の一つには、2013年1月のアルジェリアでの人質事件の影響も指摘できるかもしれない。この事件への対応において情報の欠如を痛感させられた日本にとって、アフリカや中東の一部に依然として強い影響力を持ち、情報面を含めて強い関係を維持している英国やフランスとの連携、すなわちそれら諸国からの情報入手の可能性が着目されたのである(なお、文書の共有を伴わずに行われることの多いテロ・治安関連の情報提供は、必ずしも情報保護協定を前提とするものではないが、それでも、情報保護協定の有無は象徴的な意味を持つ)。

アフリカやアジア等での政府開発援助(ODA)分野における欧州との連携は、必ずしも所期の目標を達成しているとはいえないものの、今後、日本が政治面を含めてアフリカや中東への関与を強めていくとすれば、現地において知見を有する欧州諸国との連携の必要性はさらに高まる。実際、海賊対処活動のためにジブチに駐留、及び寄港する自衛隊は、旧宗主国のフランス軍と現地で緊密な協力関係にある。フランスのみではないが、こうした協力関係を、アフリカ全体を視野に入れたものに発展させることも一つの可能性であろう。

パートナーとしての欧州

すでに実績を重ねつつある協力や今後の可能性を含め、政治・安全保障分野における日欧協力を改めて分類すれば、(1)戦略対話に代表される政治・外交上のパートナーシップ、(2)自衛隊と欧州(諸国)部隊との間や、対外援助における第三国でのオペレーショナルな協力、(3)国際的な規制・規範形成における連携、(4)防衛装備品協力、ということになろう。これらに限定されるわけではないが、日欧の政治・安全保障パートナーシップは、さまざまな側面が重層的に組み合わされて形成されることになる。

なお、日欧双方において、国防予算の厳しい状況が続く見通しであることを考えれば、(4)の防衛装備品協力は、標準化や共通化という課題と結びつき、それは、いずれ(3)の規制・規範形成とも関連してくる可能性がある。

これらの各側面において、日本と欧州がともに互いとの協力を自らの利益のために活用できるようになれば、日欧の政治・安全保障面のパートナーシップはより確固としたものになるだろう。国際関係におけるパートナーシップとは、双方が利益を見出して初めて実質的且つ持続的なものになるのであり、外交修辞のみでは長続きしない。これは日欧間でも同じであり、価値の共有は、協力の出発点として有効ないわば必要条件かもしれないが、十分条件ではないのである。

NATO、EUとの関係と二国間関係

これまで、日英、日仏といった二国間関係と、NATO、EUといった地域枠組みとの関係をあえて分類せずに議論してきたが、最後に、これらの間の相乗効果をどのように確保するかという課題が指摘できる。日本外交においては、伝統的に主要国との二国間関係が重視されてきた。加えて、政治・安全保障分野ではEUの権限が限定されてきたとの事情もある。

日欧の政治・安保関係が、全般としてその潜在性を十分に活かすことからは程遠い状況にある以上、NATOやEUとの関係と二国間関係は本来ゼロサムではない。ただし、双方において互いの関係に費やすことのできる資源が限られている以上、実務上の制約によって、例えば協議の実施や訪問先の検討にあたって、例えば「EUか英国か」、という選択を迫られる機会も、実際にはしばしば発生している。

日本の視点としては、分野ごとに、各国レベルかNATO、EUレベルか、どこに実際の専門性と権限が集まっているのかを冷静に見極め、最も効果的な相手を選ぶということになる。そのためには、欧州における加盟国とEU、NATOとの間、さらにEUに関してはEU諸機関の間の人の動きや力関係を十分に把握することが求められる。しかし、これ自体実際には単純な作業ではない。

同時に、二国間の対話や協力において、NATOやEUの文脈を意識的に取り込む努力が必要である。日本と各国との二国間協議の場で、「EU情勢」や「NATO情勢」を議論するのみならず、日EU関係や日NATO関係を、日英や日仏、日独等の文脈からどのように進めることができるかを考えなければならない。日本からすれば、それは、日EUや日NATOにおけるアジェンダを進めるために、いわばロビイングとして、個別国との関係を活用するということであり、例えば日EU間のFTA/EPA交渉開始へのEU側の支持取り付けにおいて、英国をはじめとする各国への働きかけは、効果的であったといわれている。今後は、これらの個別事例を越えて、日本として、二国間関係と日EU、日NATO関係をどのように組み合わせていくかについて、基本的な方針を改めて検討する必要があるかもしれない。

ここで若干留意すべきは、各国経由でのEUやNATOへのアプローチは、EUやNATOの視点からすれば、分断作戦と警戒されかねないことである。また、欧州の側におけるEUと加盟国との間での権限配分を巡る問題に、日本が介入すべきでもないだろう。あるいはそのように見られない注意が必要である。他方で、欧州諸国自身も、日本との関係に限らず、二国間関係とEUやNATOを通じた関係を、分野によって――そして各国の事情で――使い分けている。いずれにしても、どちらかであるべきという性質の問題ではなく、政策分野ごとに、権限の所在の実態に合ったかたちで、二国間関係と日EU、日NATO関係が組み合わせられれば、協力の成果をあげるという本来は達成されるはずである。

経済関係に加えて、政治・安全保障面においても、日欧協力はおそらく新時代に入りつつある。しかし、これを持続的なものとし、日本の対外戦略において欧州の位置づけを確立できるかは、まだまだこれからである。そのためにも、まずは日欧協力に関する議論を活発化させることが必要であろう。

【関連リンク】


(完)

    • 鶴岡 路人/Michito Tsuruoka
    • 元主任研究員
    • 鶴岡 路人
    • 鶴岡 路人
    研究分野・主な関心領域
    • 欧州政治
    • 国際安全保障
    • 米欧関係
    • 日欧関係

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