平成を読み解く――政治・外交検証 連載最終回 「日本と世界をよりよくするアイディアに最短で到達するために」 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

東京財団政策研究所

詳細検索

東京財団政策研究所

平成を読み解く――政治・外交検証 連載最終回 「日本と世界をよりよくするアイディアに最短で到達するために」

February 20, 2019

平成の時代が2019年4月で終わる。冷戦の終結とグローバリゼーションのスタートとともに幕を開けた平成とはどのような時代だったのか。政治改革は何をもたらし、どのような力学で統治システムは変化してきたのか。内政と外交はどう関連し、相互作用を及ぼしてきたのか。激動の30年をたどり、ポスト平成時代の政治・外交課題を提示する。

※本稿は2018年10月16日に開催した政治外交検証研究会「平成30年を読み解く――平成の政治・外交を検証する」の議論、出席者作成資料等をもとに東京財団政策研究所が構成・編集したものです。文中敬称は当時。

【出席者】(敬称略)
清水 真人(日本経済新聞編集委員)
竹中 治堅(政治外交検証研究会メンバー/政策研究大学院大学教授)
宮城 大蔵(政治外交検証研究会幹事役/上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科教授)
五百旗頭 薫(政治外交検証研究会幹事役/東京大学大学院法学政治学研究科教授)*モデレーター兼コメンテーター

政治学分野の必読すべき2冊

五百旗頭 本研究会は、通常は書評会ですので、清水さんがレジュメで挙げてくださった2冊の文献についてご紹介いただけますか。

清水 今年(2018年)出版された政治学分野の本の中からベストと思う2冊を挙げました。

 待鳥聡史著『民主主義にとって政党とは何か――対立軸なき時代を考える』は、日本政治史を戦前までさかのぼり、著者が専門とする政治制度論の切り口に徹して、現代までの流れを明快に説明している。制度論のロジックで貫かれた政治史に大変な知的刺激を受けました。

 高安健将著『議院内閣制――変貌する英国モデル』は、まさに議院内閣制に関する教科書です。日本は英国をモデルにしていろいろ学んできたといわれますが、私は少し違うと思っています。ウェストミンスター型を志向し、小選挙区制を衆院に導入したけれども、完全小選挙区制にはなっていませんし、内閣と与党の間合い、政官関係や二院制のあり方などもまったく異なる。日本は小選挙区制をつまみ食いしたにすぎません。本書を読むと、英国の方がさらに先へ行っていること、いろいろな制度改革の努力を上積みして、英国モデル自体が変わってきていることがよくわかります。

五百旗頭 2冊ともすばらしい本です。私は『民主主義にとって政党とは何か』について「日本経済新聞」の書評欄で「世界をよりよくするアイディアに最短で到達するために、利己的な人間の政治を容赦なく明晰に描くのが政治学者の使命ではないか」と記しました。「世界は残酷で美しい」をテーマとする諫山創の『進撃の巨人』になぞらえて、待鳥さんは「進撃する政治学者」である、と思うわけです。

 さて、お三方に充実したご報告をいただきました。私からそれぞれの方に質問をさせてください。 

中長期的な安全保障を大局観に立って考える段階に(平成最後の御来光。写真提供:kyodonews)

 まず、宮城さん。連立の組み替えと安全保障の関係、特に短期的な危機への対応と政権構成の関係について論じられました。ただ、いま、日本は北朝鮮問題などの短期的な危機への対応も重要ですが、より中長期的な安全保障を大局観に立って考えるべき段階にあるだろうと思います。

 つまり、米欧先進国や中国において内政と外交が不安定である、あるいは、それまでの原則が守られにくくなっている。その中で、日本がもし「これを守る」という範を示すことができれば、それは、戦後日本の平和的な経済発展に劣らない、冷戦後日本外交の大きなアセットになるでしょう。また、それが日本のアイデンティティーにもなるだろうと思います。その原則の一つは内政においては安定したデモクラシーであること。財政・社会保障の持続可能性もそこに含まれます。二つめに、国際政治においては非平和的な手段での現状変更は認めないこと、そして三つめに、国際経済については自由貿易に基づく経済統合を目指すこと。

こうした中長期的な、広い意味での安全保障を考えた場合に、日本の政治はどうあるべきでしょうか。

「日本の危機は日本の中にある」

宮城 おっしゃった3つの原則について、日本国内で反対する政治勢力、世論はないでしょう。ただ、それを具体的なレベルに落とし込んでいったときに、アジアとの関係に戻ってしまう面があると思います。例えば、二つめの「現状変更」については、現実問題として中国と共有していない部分が大きい。巨大な国が台頭していることに、隣国としてどう向き合ったらいいのか、という課題に結び付いてきます。

 過去20年ほどを考えると、「自由と繁栄の弧」「価値外交」そして「自由で開かれたインド太平洋戦略」など、ある種、中国をけん制する発想を含む外交戦略が続いている。それをどう評価するかということにも関わるでしょう。

 最後に「広い意味での安全保障」とおっしゃいましたが、先ほど紹介した報告書「日本のフロンティアは日本の中にある」になぞらえると、「日本の危機は日本の中にある」。中国というより、少子高齢化、財政、災害などの問題こそが日本という国の存立を揺るがす危機なのであり、それに全力で対応するのがいまの政治の喫緊(きっきん)の仕事です。

 そのためには、中国などに対して過度に対抗的な姿勢をとることに懸命になるよりも、安定した地域秩序の確保に力点を置き、日本の中の危機に注力することが重要だと思います。少子高齢化や災害等は、アジア各国に共通する課題でもある。日本の中の危機に注力するというと内向きのイメージをもたれるかもしれませんが、それらの課題への取り組みを通じて同じ問題を抱えるアジアとつながっていくという、内向きのようで、外につながるものだと思います。

政権交代は政策の交代にはつながらない

五百旗頭 次に、竹中さん。日本の政治行政のあり方について議論をするときに、政治学と行政学が反対向きになってきている気がします。つまり、政治学の世界では、竹中さんご指摘のとおり「首相の力は不十分である。きちんと決めることのできる政治が追求されるべきである。国会改革を実現し、政策議論をせよ」と論じる。背景には、それをみて有権者が選挙で判断することで、政権交代や政策転換が実現するという見通しがあります。選挙での審判を重くみる見方です。

 他方、行政学の世界では、最近、牧原出著『崩れる政治を立て直す――21世紀の日本行政改革論』が出版されましたが、「国家は大きい。行政は大きく、複雑で、やり取りされる情報も増えてきている。そういう中で、国会改革だ、政権交代だといってそこで一度止まる、あるいは大きく変えるのは無理があって、結局、改革自体が意図に反してうまくいかないことが多い」ため、「いかにシームレスな政権改革を行うか」という議論がクローズアップされてきています。政策の継続性を重視する見方です。

 両者は必ずしも矛盾はしないのですが、問題意識の方向が逆になっている。政権が衆参両議院で力をもっているときに、何かしら合理的な歯止めがかかる、あるいは修正されうる仕組みはないだろうか。不合理な政策を選挙で軌道修正するといっても、時間がかかりすぎる場合があります。

竹中 研究者間で見方にずれが生じるのはなぜかということですね。誤解を恐れずにいえば、両者で関心事項が違うということではないでしょうか。政治をみる立場では、選挙のときにマニフェストにどういう新しい政策が出てきたのか、それが実現されたのか、されていないのかが焦点になります。他方、行政を網羅的にみる立場からすると、選挙で争点になる政策は、変わるかもしれませんが、ほかのそれほど争点にならない政策には継続性があります。やはり継続性が重要だということになるのではないでしょうか。

 2009年に自民党から民主党に政権が交代し、2012年に自民党に政権が戻りました。この二つの政権交代が日本の政策の内容やその決定過程に及ぼす影響に関して共同研究を行い、その成果を編著『二つの政権交代――政策は変わったのか』(勁草書房)にまとめました。その結果、2009年の政権交代は多くの政策のリセット効果がありました。一方、安倍政権は、実は2009年の民主党政権のときに手がけた、あるいは仕込んだけれどもガバナンスの問題があってできなかったことを仕上げてきている。そういう意味では、政策の継続性は大きいのです。

2014年4月の消費税増税も民主党政権時代から議論されていたこと(写真提供kyodonews)

 そうすると、政権交代は、必ずしも政策の交代にはつながらないことがあるということです。ただ、長期政権が続くと、そこにはどうしても歪みや既得権益、ある一定の政策の偏りが出てくる。2009年の政権交代は、長らく自民党政権が続いた後でした。そこでかなりのリセット効果があったと考えられます。もっと事象が多ければ、どういうときに政策が変わるのかを示せるようになるでしょう。

国会改革は進むのか――中堅・若手議員の「2020年以降の経済社会構想会議」

五百旗頭 最後に、清水さん。国会改革はどうなるでしょうか。清水さんは自民党筆頭副幹事長の小泉進次郎氏ら中堅・若手議員でつくる「2020年以降の経済社会構想会議」での国会改革の議論を観察してこられました。

 戦前の歴史を研究してきた立場からすると、なぜ国会改革がここまでクローズアップされるのかが、やや意外な気がするのです。戦前は政党政治がうまくいっているとき、あるいは政党が力をもっているときには、あまり国会改革は進まないのです。何かしら政党が我慢しなければいけない話になりがちなので、なかなか進まない。

 他方、政党が弱くなると、「己の身を正せ」などといわれて、あるいは政党も自分たちの信用を回復したい気持ちがあって国会改革が少し進むのが、戦前政治の常道という気がします。いまは、政党政治がうまくいっているかどうかは別にして、少なくとも、与党が強いのは確かです。そうした中で国会改革を本当にするのか。国会改革の議論にどういうポテンシャルがあるのか。

清水 2020年以降の経済社会構想会議」は20183月から勉強会を開始し、6月に包括的な提言を出しました。私は、オブザーバーとして議論を聞いてきた立場にあるので、やや第三者性に欠けることをお断りしておきます。

永田町の世代は変わった(統治機構改革の議論をリードし報告書を発出した小泉氏[左]。写真提供 ロイター=共同)

 この四半世紀で初めて、自民党の若手・中堅議員が平成政治の総括をテーマに、しがらみもなく、カネにも票にもならない統治機構改革を議論する――永田町の世代は変わったものだと新鮮に感じました。また、出口のところで「国会改革」に提言の的を絞ったのですが、そこに至るまで平成の統治システム改革全体について検証の議論がなされたことは重要だと思っています。

 平成期、衆院選に小選挙区制を導入した政治改革で政権交代が可能になり、橋本行革で首相のリーダーシップが強化された。この2つの統治機構改革をめぐって彼らの問題意識がまず明確なのは、自分たちはいつでも野党になりうるということです。小泉氏は、議員生活が野党から始まったので、いずれまた野党になることも半ば当たり前だと思っている。無党派層が多く、風に左右されやすい大都市部の議員は小選挙区で連続当選するのは困難だと強く意識しています。

 また、首相のリーダーシップについては、「官僚主導から首相官邸主導へ、というこの30年の大きな流れは間違っていない」というのが若手議員の総意といえるでしょう。それは時代の必然である。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、米国のドナルド・トランプ大統領、中国の習近平国家主席と渡り合わなければいけないのに、安倍首相の足元が強力でなくてどうするのか、と。これらから読みとれるのは、小選挙区中心の政権選択選挙や首相主導体制といったいまの政党政治のゲームのルールを所与として、どう適応していくかという大前提があります。

 国会改革については、竹中さんがおっしゃったとおり、平成改革の積み残しだという認識です。

 政も官も日程闘争でエネルギーを失う。首相や閣僚は国会に縛り付けられているし、ほとんど実のある議論もなされない。「ポスト平成は国会改革だ」となって、実はそもそも国会の役割がよくわからないという議論にまでなりました。一方では国会は与野党の熟議で、幅広い合意形成によってよい政策、立法をつくり上げていく場だ、内閣提出法案の修正ももっとあっていい、という意見がけっこう出ました。

 他方で、議院内閣制では選挙で勝った政権与党が、有権者から信任を受けた政権公約をしっかり実行することが大前提で、公約を脇に置いてまで与野党間で妥協するのは筋が違うとの声も出ました。この観点からは国会の主たる役割は、まず次の政権選択に向けた与野党の構図を示すこと、さらに時の内閣がしっかり説明責任を果たすことで、そのための「討論のアリーナ」に比重を置くべきだとの議論も有力でした。結論として彼らが最も重視しているのは、「党首討論の活性化」と、行政監視機能を強化し、内閣の説明責任を徹底することです。

 森友・加計(かけ)学園問題のように行政の公正性に疑義が生じる場合は、国会に「特別調査会」を設置し、国政調査権を発動することを認めるべきであると、少数派野党にその権限を与えることにもなるドイツの「調査委員会」にならって提案しています。報告書で引用されているドイツ憲法第44条は「連邦議会は、公開の議事において必要な証拠を取り調べる調査委員会を設置する権利を有し、議員の4分の1の申し立てがあるときは、これを設置する義務を負う。公開は、これをしないことができる」と定めています。彼らは、自分たちがいずれ下野したときに、国会で戦う武器として何が必要かということをいまから意識している。私はなぜ野党がこの提案に飛びつかないかが不思議です。

 ただ、一方で、法案審議等の効率化については、先ほどの竹中さんの条文案ほど精緻ではないですが、政権側の意向を通りやすくする提言も出している。両者はセットだということです。

分極化を導く二つの発想から距離を置く

五百旗頭 ご紹介いただきありがとうございます。

 終わりの時間が近づいて参りました。こういう充実した議論を締めくくる司会の決まり文句は、<あまりにも豊穣でまとめることなどとてもできない>というものです。でもまさに充実し、豊穣であったので、まとめないのはもったいない気がいたします。

内政に沈潜せよ、国内のフロンティアから世界につながり直せ(Photo by Harvepino, iStock/Getty Images Plus)

 宮城さんのお話しになる平成史は、安全保障を理由に連立政権の組み換えが続いた、その意味で内政が振り回された歴史として受けとめることもできるのではないでしょうか。だからこそ、内政に沈潜せよ、国内のフロンティアから世界につながり直せ、というご提言は、一つの極論にみえて重みがあると思います。

 内政については、竹中さんと清水さんが詳しくお話しくださいました。政治改革が弊害をもたらしたとして、政治改革以前に回帰しようという発想は、お二人にはありません。

 竹中さんははっきりと、政治改革を徹底させることで突破するのだとお考えです。そこで参議院や国会の自律性という岩盤にぶつかり、さらに突破するための具体的な立法案も出してくださいました。

 清水さんは、財政・社会保障の危機を乗り越えるための共通基盤を模索されていますが、それも政治改革後の競争的な政治を前提にした模索です。

 ここでやはり国会改革にたどりつく。政権交代は起こるのだ、という発想の議員たちによる最近の改革案をご紹介くださいましたが、それは政府にミスがあれば厳しく追及する特別調査会をつくることで、そのミスが国政全体の停滞にはつながらないようなすみ分けを目指すもののようです。

 そうすると今日の議論は、豊穣でありながら、二つの発想からは距離を置くものでした。第一は、外交が好調なら内政には目をつぶろう、という発想です。第二は、権力にはただ歯止めをかければいいのだ、という発想です。二つの発想にはあなどれない求心力があります。私は日本の政治が欧米ほど分極化しているとは思いませんが、分極させる極は成立しており、二つの極を拡大させる方向で作用する二つの発想なのかもしれません。

このように考えましても、今日のお三方のお話は実に刺激的で示唆的であったと思います。心より御礼申し上げたいと思います。


    • 政治外交検証研究会幹事/ポピュリズム国際歴史比較研究会メンバー/東京大学大学院法学政治学研究科教授
    • 五百旗頭 薫
    • 五百旗頭 薫
    • 日本経済新聞編集委員
    • 清水 真人
    • 清水 真人
    • 政治外交検証研究会メンバー/ポピュリズム国際歴史比較研究会メンバー/政策研究大学院大学教授
    • 竹中 治堅
    • 竹中 治堅
    • 政治外交検証研究会幹事/上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科教授
    • 宮城 大蔵
    • 宮城 大蔵

注目コンテンツ

BY THIS AUTHOR

この研究員のコンテンツ

0%

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム