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【資料・動画公開】「カーボンニュートラルにおける企業の社会貢献~再エネ普及と企業・地域の取り組み~」オンラインシンポジウム
(左)2022年9月事務局撮影 営農型太陽光発電 (右)2015年7月平沼光撮影 浮体式洋上風力発電「はえんかぜ」

【資料・動画公開】「カーボンニュートラルにおける企業の社会貢献~再エネ普及と企業・地域の取り組み~」オンラインシンポジウム

March 27, 2023

C-2022-007

東京財団政策研究所CSR研究プロジェクトでは、2022年度の重点テーマを「カーボンニュートラル」に定め、202212月に企業調査アンケート・企業インタビュー・有識者論考からなる『CSR白書2022—カーボンニュートラルへの挑戦』、20231月に別冊として『カーボンニュートラルに向けた地域主体の再エネ普及と企業の貢献』を刊行した。特に別冊では、カーボンニュートラル達成に向けた鍵となる地域主体の再エネ普及の先進事例について取り上げた。

2023221日、白書と別冊の刊行記念も兼ねて、別冊で先進事例として紹介した市民エネルギーちば株式会社、パタゴニア日本支社、長崎県五島市よりパネリストを招き、別冊の著者である平沼光主席研究員の司会のもと、オンラインシンポジウム「カーボンニュートラルにおける企業の社会貢献〜再エネ普及と企業・地域の取り組み〜」を開催した。

当日の模様を、動画と一部要旨にて紹介する。


登壇者 ※順不同、敬称略

■ 営農型太陽光発電

東 光弘(市民エネルギーちば株式会社 代表取締役、株式会社TERRA 代表取締役、株式会社ソーラーシェアリング総合研究所 代表取締役)

篠 健司(パタゴニア日本支社 環境社会部門 ブランド・レスポンシビリティ・マネージャー)

■ 浮体式洋上風力発電

簗脇 太地(五島市 総務企画部 未来創造課 ゼロカーボンシティ推進班 係長)

■ モデレーター

平沼 光(東京財団政策研究所 主席研究員)※2022年度CSR研究プロジェクト監修者




開催概要

発表①:「カーボンニュートラルを目指す国と企業」 [発表資料]

平沼光(東京財団政策研究所 主席研究員)※モデレーター、2022年度CSR研究プロジェクト監修者

 第6次エネルギー基本計画(202110月閣議決定)で、それまで2224%であった2030年の再生可能エネルギー(以下、再エネ)普及目標が、3638%に上方修正された。また、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)や経済同友会などの日本の企業グループは更に高い導入率を求めており、企業の間でも再エネに対する高いニーズが生まれている。

国際社会に目を向けると、炭素排出に対して課税する水際の貿易措置である炭素国境調整措置(CBAM)をEUが導入しようとしており、こうした動きは企業活動に大きな影響を及ぼすことが予想される。こうした事態に対して、企業はさまざまな気候変動に関する国際的枠組みに参加し脱炭素経営に取り組んでいる状況にある。特にプライム市場ではTCFDTask Force on Climate-related Financial Disclosures)に基づく情報開示が求められるようになったことから、企業の脱炭素経営は待ったなしの状況になっている。

こうした潮流の中で、地方レベルでは、2050CO₂排出量実質ゼロを表明する自治体が増えてきており、国レベルでも2030年度までに脱炭素先行地域を100ヵ所作るとしており、地域の脱炭素化という視点でも再エネのニーズが高まっている。環境省によると、日本には現在の年間発電電力量の約2倍の再エネのポテンシャルがあり、特に洋上風力発電に大きなポテンシャルがあるとされている。

しかし、再エネ普及には課題もある。その1つが、たとえば大規模メガソーラーで問題視されているように、地域の理解・協力を得ずにメガソーラーの導入が進められたことで景観悪化などの地域問題となるケースも増えている。そのため、再エネ発電設備の設置に抑制的な条例を持つ自治体が増加している状況にある。日本の再エネのポテンシャルをどう掘り起こすか、またそのために、社会的受容性を考慮しながら企業と地域がどのように取り組むべきか、本日のシンポジウムで我々が考察するポイントである。

 

発表②:地域主体で営農型太陽光発電の普及に取り組む企業事例「ソーラーシェアリング+有機農業=地域再生」 [発表資料]

東光弘(市民エネルギーちば株式会社 代表取締役)

 市民エネルギーちばでは、千葉県匝瑳市という人口減少の激しい地域で、ソーラーシェアリングと有機農業の融合による地域再生を実施してきた。これまでの9年間の活動を振り返り、3つのポイントに絞ってお話ししたい。

第1に、自然エネルギーの普及と同時に、地域の生態系にも貢献する必要がある点である。ソーラーシェアリングでは、単管パイプ架台に支えられたソーラーパネル(高さ約3メートル)を設置し、パネルが1あるとその間に2の空間が空くようにしている。パネルの下には光が射し、トラクターやコンバインも通れるため、農業と発電の両立が可能である。そうしてパネルの下に植物が育つと、光合成によって炭素が土に戻る。更に、有機農業を実施しており、この手法であれば化石燃料を用いる化学肥料や農薬が不要であるほか、慣行農法に比べて土中に貯まる炭素量が多いというデータもある。私たちの試算では、全国の農地の18%にソーラーシェアリングを設置すると、現状の日本の電気は十分足りるようになる。

第2に、再エネを社会インフラとして、お金の地域循環や、地域の社会課題にも寄与していきたいという点である。匝瑳市では、市民エネルギーちばが発電事業を担当し、それ以外に農業生産法人、地域興しのための会社、PTAや自治会も入った協議会、全国展開のための会社などが存在し、我々はこれを匝瑳システムと呼んでいる。また、いろいろな大学とも協力し、ネットワークを拡げている。人口減少と耕作放棄地の増加に対応するためには地域全体での雇用創出、そのための仲間や文化づくりが肝要であり、同時に地域に視野が限られないよう、全国レベルでの協力関係が求められる。また、既存の発電設備から災害時に電気を賄えるようにし、育てた農作物の6次産業化や、農泊事業も始めている。

活動が進む中で、パタゴニア日本支社や株式会社サザビーリーグと連携して社債の形で出資してもらい、電気を提供するだけでなく、エネルギーをコミュニケーションツールとして捉え、有機農業やパネル取付けに協力いただいている。これによってソーラーシェアリングの意義をご理解いただき、店舗でも説明いただいている。太陽光発電の利点は、企画立案から実施までの期間が非常に短い点にあり、まずはアクションしてみると、良いところと悪いところが見えてくる。

第3に、スケール化すれば問題解決は一気に進むため、一般化及び応用についてお話したい。ソーラーシェアリングは、電気事業者は農業について知らず、農業事業者は発電について知らないことが多いため、DXの仕組みによって、誰でもソーラーシェアリングの導入がしやすい仕組みを作った。また、普及のためには教育が重要であり、学習センターを2023年4月から開所予定である。

コスト面では、イニシャルコストを下げるためにペロブスカイト太陽光電池を用いた細い太陽光モジュールを開発し、特許を申請中である。こうした技術を用いて、農村部だけでなく、都市部のエアコンの室外機上部や公園に設置するTOKYO OASISというブランドも運営しているほか、国外ではベトナムの2つの国立大学にテストプラントを入れることが決定した。

 

発表③:需要家として追加性のある再エネ調達に取り組む企業事例 「カーボンニュートラルにおける企業の社会貢献〜再エネ普及と企業・地域の取り組み〜」 [発表資料]

篠健司(パタゴニア日本支社 環境社会部門 ブランド・レスポンシビリティ・マネージャー)

パタゴニア社は、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」というミッションを掲げており、すべての取り組みがこのミッションに繋がるように活動している。その中で大事にしている価値観は、「最高の製品を作る。」、「不必要な悪影響を最小限に抑える。」、「ビジネスを手段に自然を保護する。」、「従来のやり方にとらわれない。」であり、この4つを基盤にしたミッションの達成を目指している。

創業者のイヴォン・シュイナードは、地球温暖化の症状ではなく、原因に対して投資したいと考えており、我々はこれを社員に対するメッセージと捉え、原因を突き詰めながら資金を投じている。マイルストーンとしては、衣類から石油を排除すること、数字に基づいて製品のインパクトを評価すること、スコープ3を含めたビジネスのあらゆる部分を浄化することを掲げているが、他方でビジネスの観点だけでは気候変動の問題は解決できないため、炭素を吸収する能力を持っている自然の保護・修復にも取り組んでいる。

再エネへの公正な移行について、最初のステップとして大事なのは、再エネを使うだけでなく、サプライヤーの工場の運営効率を含めた、企業としてのエネルギー使用効率であると考えている。しかし、パタゴニアはグローバルでビジネスをしているため、国ごとに適切なパートナーを選ぶ必要があり、日本ではその1つが市民エネルギーちばである。

ソーラーシェアリングは、クリーンな再エネの生成、有機農業の推進、地域社会などへの二次的なメリットなどの利点を持つ。また、各地域で再エネ事業に対する反対の声が大きくなる中で、ソーラーシェアリングは森林の伐採などを伴わず、地域社会と生態系への影響を最小限に抑えられる。パタゴニアの拠点に近い立地を選定することで、従業員がプロジェクトに参加し、理解を深められるような活動にしている。

私たちが推進しているリジェネラティブ・オーガニック農法は、大気中の炭素を土壌に有機物として埋め戻し、貯められる。再エネによって炭素を出さないだけでなく、炭素の固定にも貢献したい。つまり、エネルギー面ではまず市民エネルギーちばなどと協力してソーラーシェアリングを推進しながら、更に有機農業にも関わり、そこでの作物を製品の利用に繋げるという風に拡張させていく。エネルギーを単なる電気の面だけでみると、地域にとって本当に価値のある関わりはできない。

 

発表④:企業と協力して浮体式洋上風力発電の普及と地域活性化に取り組む自治体事例「五島市の再生可能エネルギーへの取り組み」 ※資料の公開はございません。

簗脇太地(五島市総務企画部 未来創造課 ゼロカーボンシティ推進班 係長) 

五島市では、経済活動の拠点である福江島沖に浮体式洋上風力発電所を設置しており、2016年に日本で初めて実用化された。五島市は長崎市の西方約100キロメートルに位置し、11の有人島と52の無人島からなる。1955年の91,937人をピークに人口が減っており、直近の国勢調査では34,391人になっている。社会保障・人口問題研究所の推計では、2060年には人口が1万人まで減ると予想されており、人口減少は市の存続に関わる大きな問題である。解決策としての雇用創出に注視しており、2060年に人口2万人を維持することを目標として、有人国境離島法を根拠とした雇用機会拡充事業や、UIターン移住促進に力を入れている。

再エネ事業は雇用機会拡充事業の一環としても推進しており、2014年に、3か所が海洋再生可能エネルギー実証フィールドに認定され、実証試験を実施できるようになった。浮体式洋上風力発電の取り組みは、環境省の実証事業に応募したいという事業者からの連絡をきっかけに2010年から始まっていたが、それによって漁獲量の減少や環境・騒音問題を懸念する地元からの声があった。それを調べるのも目的であるとして地元の理解をいただき、2012年と2013年にそれぞれ試験機・実証機を設置した。また、潮流発電にも取り組み、20211月に実証を実施し、同5月には経産省の使用前検査に合格した。

再エネの推進体制としては、オール五島で取り組むため、産学官民29団体が参画する五島市再生可能エネルギー推進協議会を2014年に設立した。また、商工会議所が発起人となった、地元企業の再エネ関連産業への参入を目的とした五島市再生可能エネルギー産業育成研究会が設立され、地域経済の活性化に繋がっている。

洋上風力発電を進める上で最も重要なのは、漁業関係者との調整・合意形成である。各実証事業は、関連する漁業などの同意が必要だった。また、他にも各地区の関係者や水産庁、全魚連など多くのステークホルダーへの説明が必要であり、調整と合意形成には時間がかかるが、漁業との共生を考慮すると、丁寧に実施しなければならない手続きである。また、外部からも多くの視察者が訪れており、2021年度末までに約8,000人にのぼった。2018年度からは五島海洋エネルギーツアーとしてビジネス化し、観光面でも地域経済に貢献している。

海洋再生可能エネルギーの推進には、多くの効果が見られた。雇用面では、現時点で約100名が再エネ関連事業に従事しており、今後のウインドファーム事業によって、設置後20年間で41億円の経済波及効果、360人の雇用者誘発効果があるという調査結果が出ている。また、浮体式洋上風力発電は船舶の扱いであるため、固定資産税としての自主財源の確保に繋がる。更に、浮体式洋上風力発電の海中部分には魚礁効果が確認されており、漁業との共生が期待される。

五島市は、地方での先駆的な取り組みとして五島版RE100を実施しており、現在16団体が認定事業者となり、企業価値の向上と五島産再生可能エネルギーの地産地消に繋がっている。また、20207月に五島市気候エネルギー行動計画を策定し、2030年の温室効果ガス排出量を2013年度比で33%削減する目標を掲げた。2021年に国が46%削減目標を発表したことを受け、現在ではゼロカーボンシティ計画を策定し、目標値の上方修正を行なっている段階にある。

今後は、促進区域でのウインドファームの実現に向けた支援を実施するほか、潮流発電事業の支援、ゼロカーボンシティの実現に向けた取り組みを進める。

 

質疑応答

4者の発表の後、視聴者からの質疑を軸に、ディスカッションを実施した。地域主体での再エネ事業をどのように進めるか、需要家側から見て地域主体の再エネ事業の役割は何か、自治体と企業の協力はどのように進められるのか、北海道の再エネのポテンシャル、現在の国の再エネ目標についてどう考えるか、再エネのコストについてなど、活発な議論が交わされた。

 

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