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トランプで占う2016年アメリカ大統領選挙 

October 1, 2015

第一回研究会での議論から

東京財団 「現代アメリカ」プロジェクトでは2016年大統領選挙を見据え、 2014年の中間選挙分析に続き、 アメリカ大統領選挙研究会 を立ち上げました。第一回の研究会は8月31日(木)に東京財団で開催され、今後の分析レポート執筆の予定を調整し、直近の大統領選挙の話題を独占している共和党の予備選の候補の一人、ドナルド・トランプ氏について議論をしました。今後は予備選の過程から大統領選挙が終了して新政権が立ち上がるまで、プロジェクトメンバーによる大統領選挙分析を適宜掲載していきます。今回は分析シリーズの序章的な位置づけとなりますが、最初の発信として第一回の研究会で議論された内容を報告いたします。

トランプ人気はなぜ続いているのか?

今回の参加者の共通認識では、過激な発言で人気を上げている不動産王ドナルド・トランプだが、2016年の大統領選挙の本選挙まで残る候補ではないということだ。一方で、トランプ候補は、これまでの大統領選挙の前哨戦で、一時的に人気が上がり、すぐに舞台から消えていった候補者達とは違い、単なる「あだ花」として一笑に付すわけにはいかない米国の社会や政治を映し出す重要な要素があるとは考えられている。

参加者たちは、8月20~25日に行われた、世論調査の精度では定評のある米国コネチカット州にあるクイニピアック大学の世論調査の結果に着目した。これは米大統領候補に関して有権者が「最初に思いつく言葉」を調査したもので、例えば民主党の支持率トップのヒラリー・クリントン前国務長官については「嘘つき」(liar)がトップで、「不正直」(dishonest)、「信頼できない」(untrustworthy)が続いた。共和党で支持率トップのトランプ氏については「傲慢」(arrogant)がトップで、「大口の自信家」(blowhard)と「ばか」(idiot)が続いた。また共和党のブッシュ元フロリダ州知事に関しては、名字の「ブッシュ」を挙げた人が圧倒的で、個人の資質よりも、父と兄の大統領を擁する「ブッシュ家」のイメージが先行している。

これを受け、参加者たちは、この世論調査結果は今回の大統領選挙で国民がそれぞれに感じている正直な気持ちを映す鏡の役割をしていると考えた。例えば、「トランプは誹謗中傷を繰り返す事で支持率を上昇させているが、そこには米国民の内なる思いや国内情勢が反映しているのではないか?」という指摘があった。世論調査の結果には、有権者の既存の候補者に対する信頼の欠如や、興味の低下が反映されているということである。

トランプ以外の候補者に目を向けようとしても、例えばジェブ・ブッシュであれば、米国内では、またブッシュか!などといういわゆる“ブッシュ疲れ”も聞かれる。これはヒラリーにも当てはまる。そして「そのような有権者の既存の候補者への飽きや不満が、結局はトランプ現象を支えているのではないか?」というもっともな指摘となるのである。

先の世論調査の言葉で即していえば、ヒラリーは「嘘つき」で、ブッシュは「ただのブッシュ家の人間」と思われているわけである。このような候補者への不信と不満が、「そもそも、現時点で共和党候補者の支持率トップの二人がプロの政治家ではない(もう一人は結合双生児の分離手術の成功などで有名な元外科医のベン・カーソン)」という状況の背景にあるのではないかという指摘があった。

しかし参加者は、トランプ候補を既存の候補者へのアンチテーゼとは理解していても、それを肯定的に捉えているわけでもない。「トランプの黒人が嫌いだとか、移民は要らないなど、抑制なしに本音を語る”何でもありの”過激な発言が支持を集めるという現象は、ある意味怖いことであり、米国社会や米保守陣営からすればひとつの危機である」という指摘である。「トランプは今日の米国社会の中にある“黒い部分”を社会に出している」ことの問題意識がそこにはある。

だからこそ、今後トランプと共和党保守派の関係がどうなっていくのかが注目される。これまで共和党保守派からの期待は、中道派のジェブ・ブッシュではなく、ティーパーティーからの支持を受けてきたスコット・ウォーカー現ウィスコンシン州知事、マルコ・ルビオ上院議員、ランド・ポール上院議員たちだった。しかし、ランド・ポールが、トランプ人気のあおりを受けて、三人の中で最も支持を減らし失速したし、ルビオもぱっとしない。参加者からは、今後、「ウォーカーとトランプとの競争がどうなっていくのかが、共和党保守派の動きを見る鍵になるだろう」という指摘があった。(9月21日にウォーカー氏はトランプ氏に対抗する勢力結集のため、保守の選択肢を示せる候補者に絞る必要があると述べ、予備選からの撤退を発表し、他候補にも撤退を促した。)

トランプの政策に一貫性はあるか?

しかし参加者の多くは、トランプが今後、共和党の候補として最後まで勝ち抜いていくことには懐疑的である。そもそも政策面ではトランプの主張は矛盾だらけであるという指摘がなされた。「トランプ現象なるものが米国で起こっているが、あくまでもそれは現象であって長続きするものではない。トランプは過激な発言で支持を集めているだけで、外交政策、経済政策などに深く言及しておらず、また政策についての発言は具体的でなく、一貫性もない。トランプの政策的な立ち位置は分かりにくく、外交的議論も時代遅れ」という冷徹な見方が示された。

また、「トランプはブルーカラー層から人気を集めているが、その政策が賛同できるからトランプを応援している人は少ないし、そもそも経済政策への言及でも一貫性がない」との指摘があった。さらに外交政策面では、昨今オバマ政権がイランに歩み寄っていることから、共和党保守派にとって、それに反発する親イスラエル層にアピールする絶好の機会なのだが、これまでトランプはイラン外交についての言及も少なく、最近になってやっとオバマのイラン核合意の批判を始めたことから、「今後どこまでトランプが真剣に外交について話すかは分からない」というのが参加者の正直な印象のようだ。

一方、トランプとマスメディアの今後の関係に注目した参加者は、「これまでは、目立つ、視聴率が取れるなどからメディアがトランプに注目していただけだと思うが、今後選挙戦が真剣になるにつれ、メディアもトランプに注目しなくなり、トランプ現象は衰退する」と見ている。

他にも、トランプ現象がなぜ起こっているのかという点について、今回共和党から17人もの人物が立候補を表明していることに着目する参加者がいた。「2008年の大統領選挙で、十分な政治経験や知名度がなかったオバマが勝利したことで、米国人の意識の中で、大統領になるハードルが下がったのではないか」という問題意識である。

またトランプが共和党候補として最後までは残らないとしても、「富豪で個人の資金を潤沢に持つトランプが無所属で今後選挙戦を進めていったらどうなるのか?」という問題提起もあった。1992年の大統領選挙で、第三の無所属候補である富豪のロス・ペローが、民主党支持よりも共和党支持の票を獲得したために、民主党のビル・クリントン候補が共和党のジョージ・H・W・ブッシュ前大統領に勝利した理由の一因となったからだ。そういう状況になった場合、トランプは、民主党よりは共和党の票を奪う可能性が高いわけで、党に忠誠心などないトランプ候補の無所属での出馬は、波乱要因となる可能性も考えておいたほうがよさそうだ。

このようにトランプ候補あるいはトランプ現象は、2016年の大統領選挙の行方を占う上で、さまざまな面から、格好の分析材料を提供してくれていることは間違いない。米国で人気があるウェブ新聞ハフィントン・ポストが、それまでエンターテイメント欄で掲載してきたトランプのニュースを、最近では政治面でカバーせざるを得なくなったという事実も研究会で指摘された。大統領選ウォッチャーにとって、しばらくは、トランプの言動から目が話せない状況は続きそうだ。

(記録者 和田大樹、文責 渡部恒雄 )

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    • 元東京財団上席研究員・笹川平和財団特任研究員
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