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資源エネルギー政策構築に欠かせない国際標準化の視点

August 23, 2012

東京財団研究員
平沼 光

再生可能エネルギーの国際普及の動向

3.11後の日本および世界のエネルギー状況に共通しているのは、先端技術を活用した再生可能エネルギーまたは省エネ高効率機器普及の必要性に関する認識です。ヨーロッパでは「EUエネルギー・ロードマップ2050」を設定し、それに向かって動いています。中国は視点が異なり、2015年までに再生可能エネルギーの産業システムを構築し、風力発電、太陽エネルギーなどの産業振興をより進めていくという方向です。アメリカでは、現オバマ政権の下では、ニューエナジー・フォー・アメリカという方針に乗っ取り、再生可能なエネルギー開発を進めているという状況です。

デジュール標準化

再生可能エネルギーや省エネ高効率機器の多くは新規技術であり、その国際的な普及を見越して各国が動いています。このように国際的にある技術を普及させようとしたときに問題となるのが国際標準化であり、中でも最近注目されているのが「デジュール標準」です。デジュール標準は、ISO(国際 標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)などの公的な国際機関で作成された国際規格です。一方、公的機関ではありませんが、企業団体や業界団体が集まって作った規格には「フォーラム標準」というものがあります。また、法的な根拠や組織的な裏付けはないけれども、市場競争を勝ち残った結果スタンダードになっていくという「デファクト標準」もあります。

「デジュール標準」が注目されている理由は、1995年に発効されたWTOのTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)にあります。これは、WTO加盟国は、自国においても輸出においても、ISOやIECなどの国際的標準化機関で作られた標準がある場合には、原則としてそれを用いなければならないというルールです。たとえば、非常に優れた技術があるがデジュール標準を取らなかったというケースと、大した技術ではないのにデジュール標準を取ったという場合は、技術の有益性に係らず、デジュール標準を取った方が認められることになります。このような理由により、各国は自国のエネルギー政策と経済発展のために、自国に有利な技術をデジュール標準化することに注力しているという状況です。

国際標準化のプロセスと日本の「チャデモ方式」

標準化のプロセスは複雑ですが、電気に関する標準化を作っているのがIECです。この下にさまざまな下部組織があり、実質的な議論や実際の標準化は、技術委員会(TC)というところで行われています。最近のエネルギー分野における国際標準化を巡る事例として、電気自動車の急速充電である EV急速充電方式をみていきます。標準化を行う組織は、各技術アイテムの対応規格とIECの技術委員会(TC69、TC23等)やSAE(自動車関連の標準規格の開発を行う米国の団体)などの標準化組織の組み合わせによりグループ分けされています。

日本は世界で唯一、実用の急速充電を普及させ、電気自動車も送り出している国です。この日本の急速充電技術が「チャデモ方式」と呼ばれる ものです。2012年の3月にチャデモ協議会が発足し、関係企業団体により日本国内での急速充電の方式が統一されました。チャデモ方式は、世界累計で約1,500台が既に実用されており、それを作っている会社は3月時点で国内外に30社以上あります。

そのような技術を持つ日本は、チャデモ協議会の中で決めた内容を、日本自動車研究所を通してIECやその下部組織のSG3(フランス電力公社関係者)や担当技術委員会(TC23、TC26)、アメリカのSAEなどに伝え、国際標準化を働きかけてきました。SAEはアメリカの国際技術標準研 究所(NIST)、さらに同国に本部を置く電子・電気技術の学会を通しIECと協力関係にあります。つまり、IECとこれらアメリカの団体は国際標準化に おいて同程度の影響力を持っているということです。

米独勢力による「コンボ方式」の提案とデジュール標準化議論の主導権

ところが今年の5月、米独勢が独自の急速充電技術規格である「コンボ方式」の標準化を目指す旨を発表しました。この技術はまだ実用レベルに達していないにもかかわらず、日本はなぜか、チャデモ方式とコンボ方式の互換性を検討するという弱気な姿勢を見せています。なぜ技術も実績もある日本が、独自規格を貫けないのでしょうか。

高速充電器機と車両間の通信方式の標準化を担当している組織は、アメリカのSAEとIECのTC69であり、議長はフランスです。TCの中で議長や事務局の席を取るということは、そこでの議論を進める主導権の獲得を意味します。また、急速充電器用交直変換装置の設計要件でも、標準化を担当する組織は同じくSAEとIECのTC69ですから、フランスが議長国となっています。さらに、急速充電器コネクタ・ソケットの形状に係る標準化を担当する組織は、アメリカのSAEとTC23、つまりドイツであり、ここは正に米独勢が議論のハンドルを握っているという状況です。つまり、デジュール標準化議 論の場における日本のプレゼンスは、欧米に比べ低いということなのです。

その他のエネルギー分野における国際標準化と再生可能エネルギーの活用状況

EV以外にもエネルギー分野の国際標準化への取り組みは多く行われています。日本が力を入れていこうとしている風力発電をはじめ、再生可 能エネルギーを積極的に活用しているスペインの事例を見てみます。スペインでは2011年の3月には電力供給における風力発電の割合は2割を超えていました。また、太陽光や水力、コンバインドサイクルなどを合わせると7割を超えます。また、スペインの電力国際連携への依存度は低く、今後国際連携をしなくても大丈夫な体制も検討しているということです。

スペインでは再生可能エネルギーセンターを設置し、風力、石油・ガス、石炭、原子力、水力など全てにおいてきめ細かな操作をし、電力変動という問題を克服してきています。
この方法は多くの国から注目され始めています。スペインの送電会社と中国国家電網では、2011年3月に再生可能エネルギー普及のための技術協力に関する合意を交わしています。またドイツなどでもこの方法に注目していくとの方向性を示しています。

日本の方向性と各国で進む浮体式風力発電の開発

日本の再生可能エネルギーにおける主力となる洋上風力発電では、浮体式洋上風力発電という新しい形を取りますが、実用レベルには至っていません。

浮体式洋上風力発電に関しては、各国でも最近動きがありました。たとえばノルウェーなどでは2009年から実証実験を続けています。アメリカでは、2012年の3月に、エネルギー省が予算1億8000万ドルで取り組んでいくという計画を公表しています。また、4月末には英米が浮体式洋上風力発電の共同開発を行うことで合意し、さらに6月には、ポルトガルの電力会社、米国の風力発電企業、デンマークの風力発電装置メーカーなどが、2011年秋からポルトガル沖で行っていた実証実験の商業化に向けて本格的に始動する旨を公表しました。

日本における実証実験は、環境省が長崎県五島市椛島沖に100kw級の実証器を設置し、来月8月末頃より実証研究を開始する他、経産省も平成23年から福島沖にて2000kw級以上の浮体式風力発電の実証研究を行う予定です。

浮体式風力発電のデジュール標準化競争

実用化はまだこれからだという状況ではありますが、浮体式洋上風力発電のデジュール標準化競争は既に始まっています。浮体式洋上風力発電 の標準化を提案したのは韓国です。これを受け、IECの技術委員会の中にTC88が設置されました。ここで議長を獲得したのは当然提案者の韓国であり、事務局の立場を得たのはアメリカです。正に日本がやっていこうとしている分野であるにもかかわらず、ここでも日本は主導権を取れずに出遅れています。

ただ、韓国の提案した原案が十分ではないという各国の判断により、議論のやり直しが行われることになりました。このような状況になり韓国の発言力が少し低下してきている一方で、事務局であるアメリカが盛んに発言をしてきているという状況にあるようです。
この浮体式洋上風力発電で日本が急ぐべきことは、長崎と福島で予定されている浮体式洋上風力発電の実証研究です。標準化の議論においては、実証実験に基づいた生のデータを持っている国の発言が尊重されるのです。

実証研究と関連し、漁業関係者との良好な関係の構築も視野に入れる必要があります。たとえば実証が進んでいるノルウェーなどでは、漁船兼メンテナンス船というものを漁業関係者に提供し、漁業をしながら洋上風力発電のメンテナンスも行うという、漁獲高に左右されない海での仕事を作り上げていこうという動きになっています。

次にIECに参加している日本の参加委員のフォロー体制を強化するという点です。韓国に代わりアメリカの発言力が増している背景には、アメリカにはDOEなどの国レベルのフォロー体制がしっかりあるということがいえます。日本の場合はこの点が十分でないところがあり、そのスピード感についていけないという状況が見られます。アメリカのような国レベルのバックアップ体制を持って乗り込んでくる彼らに負けないようなフォローアップ体制が日本にも必要です。また、実証が進んでいる国、特にノルウェー、ポルトガル、アメリカの動きに注意をするべきです。

世界的な普及が進む再生可能エネルギーの分野で、技術で勝って標準化で負けるということはあってはなりません。これから8-9月に向けて国のエネルギー政策の方針が定まってくると思いますが、その中で改めて、この分野における国際標準化の重要性と注力の必要性を明記すべきです。今後は技術と外交がますます表裏一体化してくると思われますので、官民一体で国際標準化外交を積極的に推進する必要があると思います。

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