スペインの事例に見る普及のポイント
東京財団研究員兼政策プロデューサー
平沼 光
東京財団では、去る9月12日にスペインの送電会社レッド・エレクトリカ社(REE社)からシニアエンジニアのアナ・リバス・クエンカ氏を招き、スペインの再生可能エネルギー普及の状況を紹介するとともに、日本の再生可能エネルギー普及の最大の現場とも言える福島の課題を考えるシンポジウム「再生可能エネルギー、福島の取り組みと持続可能な普及に向けて」を開催した。
スペインではどのようにして再生可能エネルギーを普及し、エネルギーの多元化を推進しているのか。本稿ではスペインの事例についてあらためてレビューし、日本の今後の施策を検討する。
概算要求から見える再生可能エネルギーの重要度
政府では、東日本大震災及び原発事故を受けて、現行のエネルギー基本計画(平成22年6月閣議決定)を白紙から見直し、新しいエネルギー基本計画を策定することが検討されている。
政府公表では2013年内を目途に新しいエネルギー基本計画を策定し、中長期的な政策の軸、方向性を明確化するとされているが、2013年9月現在、新しいエネルギー基本計画は示されておらず、日本のエネルギー政策の大きな方向性は不透明なままの状態だ。
こうした中、2013年8月30日に経済産業省から平成26年度の資源・エネルギー関係概算要求が公表された。
概算要求の内訳を見てみると、“再生可能エネルギーの最大限の導入”に対する予算要求は25年度の予算と比べ760億円の増額となっており、増加額の大きさでは“エネルギーコスト低減につながる「省エネ投資」の加速化”の増加額1,021億円に次ぐものとなっている。(以下、表参照)
日本のエネルギー政策の大きな方針は示されていないものの、福島原発事故により原子力発電に過度に依存できないという制約条件下にある日本にとって、再生可能エネルギー(以下、再エネ)は原子力に依存せずエネルギー源の多元化を図る上で重要な国内資源として、その普及を促進していくということになる。
(出典)経済産業省「平成26年 資源エネルギー関係概算要求額の概要」から筆者作成
再エネの普及を促進するという動きはなにも日本に限ったことではない。
2013年4月10日、米国オバマ大統領は2014年度の大統領予算案を提出。米エネルギー省(DOE)の2014 年度予算は284億1,600万ドルで、2012 年度水準を8%上回る20 億9,500万ドルの要求となっている。
オバマ大統領はこの予算で記されるエネルギー関連の施策を「all-of-the-above」戦略(国内の利用可能なエネルギーは全て活用するという戦略)と称しており、2020年までに再エネの利用を倍にすることを一つの大目標に掲げている。
本予算では、再エネ普及・エネルギー高効率化のため実に2012年予算の約56%増しとなる約2776百万ドルという予算が要求されている。
(出典)米国エネルギー省
この予算案が提出された際に米国エネルギー省(DOE)のダニエルポネマン副長官が行った予算説明では次のような言葉が述べられている。
“The United States faces one of the greatest challenges ahead, the opportunity to lead the global clean energy race.(米国にとって今後の最大の課題は、世界のクリーンエネルギー開発競争の先頭に立てるかどうか、である)”
もちろん、この予算案が全て可決されるとは限らないが、米国オバマ政権にとって再生可能エネルギー普及は絶対に他国には負けられない分野ということだ。
そもそもオバマ大統領は大統領就任当初から一貫して再エネ普及を推進してきており、その甲斐あってかDOEが2013年8月に公表した“2012 WIND TECHNOLOGIES MARKET REPORT” によると米国における新規の風力電力のPPA(販売契約: Power Purchase Agreement)の価格は1kWあたり4セントと非常に安くなってきている。
日本円にするとおよそ4円(2013年9月30日現在:1ドル ⇒ 97.83円)であるから驚きである。日本としては米国をはじめとする各国の動きも注視しつつ、再エネの普及を急ぐ必要がある。
わずか1.6%の日本の再エネ導入状況
福島原発事故以降、日本では政府はもとより様々な機関、専門家が再エネの迅速な普及を唱え、メディアもこぞって再エネを特集するなどある種ブームとも言える盛り上がりを見せているが果たして現在の普及状況はどのようになっているだろうか。
福島原発事故前の2010年、発電電力量に占める再エネの割合は1.1%(大規模水力除く)だった。その後、福島原発事故を経た2012年、発電電力量に占める再エネの割合は1.6%となっている。2010年から2012年の増加は僅か0.5%でありお世辞にも大幅増とは言えない状況だ。
一方、再エネ先進国と言われるドイツの2010年の発電電力量に占める再エネの割合は13.8%(大規模水力除く)。そして2012年には18.9%にまで普及を進めている。
日本が僅か0.5%しか増やせなかった間にドイツは4.9%も再エネの普及を増やしているのだ。
再エネの普及が日本で進まない理由として、(1)太陽光、風力など再エネ発電は天候に左右される、(2)再エネ発電所と消費地を結ぶ送電線の整備が必要、などといった再エネの弱点が挙げられる。
エネルギー多元化の一つとして注目される再エネだが、日本ではまだまだこうした課題への対処が十分ではないと言える。
ドイツをはじめ欧州では普及が進んでいる再エネを日本ではどのようにして普及させエネルギーの多元化を進めるか。
再エネ普及の成功例として欧州の事例を挙げると、「欧州で再生エネの普及が進んでいるのは、欧州各国間での電力国際連系により天候が悪く再エネ発電ができない時は近隣の国から電力を買うことができ、再生エネ発電の不安定さを解消できるからだ。」と言われている。現状、電力の国際連系ができない島国日本では欧州のような普及は難しいというのが通説だが果たしてそうだろうか。
実は欧州の中でも電力国際連系に頼らず再エネを普及しエネルギー多元化に成功している国がある。それはスペインだ。