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日本の電力システム改革の視点-米国の現状から-

January 15, 2014

平沼光
研究員

動きはじめた電力システム改革

昨年11月、「電気事業法の一部を改正する法律案」が第185回国会参議院本会議で可決・成立した。

本法は、昨年4月に閣議決定された「電力システムに関する改革方針」の内容を具体的に進めるため成立したものだ。(以下、「電力システムに関する改革方針」の趣旨・目的の要旨)

上記の趣旨・目的をもとに「電力システムに関する改革の方針」では、第一段階として電力需給のひっ迫や出力変動のある再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入拡大に対応するため、国の監督の下に、需要計画・系統計画などの情報を一元的に把握し、区域を越えた全国大での系統運営、平常時・緊急時を問わない各区域の需給調整の実施、また、系統情報の中立的な情報開示などを行う「広域的運営推進機関」を2015年を目途に創設する予定だ。

第二段階では2016年を目途に電気の小売業への参入の全面自由化を行い、第三段階となる2018年から2020年にかけては、法的分離方式による発電、送電、配電部門の分離を行い各部門の中立性を確保するとしている。

「広域的運営推進機関」が創設されれば再エネの電力変動を広域で調整することが出来る。小売業の参入自由化は再エネ事業者の活性化が期待される。発送電分離により送電網の利用の中立性が確保されれば再エネの系統接続をより公平なものにするだろう。

「電気事業法の一部を改正する法律」の成立により今後こうした段階が具体的に進捗されることで、多様な電力の活用と需要家の選択肢の多様化が促進されると期待されている。

制度設計と技術システムの構築は表裏一体

「電気事業法の一部を改正する法律」の成立は電力システム改革の大枠の制度設計が示されたことを意味するが、制度に基づいて実際に電力の需給調整や電力変動対応を行うにはそれを可能にする技術的なシステムの構築も必要だ。

日本の電力システムはこれまでおよそ62年間、電力10社による発電~送電~配電~小売にわたる垂直統合型の地域独占という体制のもと、原子力を中心とする大規模集中型の発電を主として来た。

一方、電力システム改革が目指す方向は、地域を越えた広域にわたる電力運用と再エネなどの分散型電源をはじめとする多様な電源の活用でありその違いは大きい。

当然、電気工学的に考えて発送電から配電・小売にわたり既存の電力技術システムを大幅に改造する必要があるが今回の電力システム改革の方針ではどのような技術システムを、今後どのようにして構築していくかと言う点は見えてこない。

電力システム改革においては制度設計とともに制度に基づいた電力コントロールを実現する技術システムの構築は表裏一体で欠かすことが出来ない。今後の電力システム改革が順調に進むかどうかは技術的なシステムの構築がスムーズに進むかどうか次第ともいえる。

技術開発に取り組む米国

日本では電力システムの技術的な将来像が今ひとつ見えてこない中、日本と同様に電力の広域運用、多様な電源の活用を実現すべく技術システムの開発に積極的に取り組んでいる国がある。それは米国だ。

昨年4月、米国オバマ大統領は2014年度の大統領予算案を提出。オバマ大統領はこの予算で記されるエネルギー関連の施策を「all-of-the-above」(国内の利用可能なエネルギーは全て活用する)戦略と称している。

この戦略で注目されるのが、「2020年までに再生可能エネルギーを倍にする」という目標が掲げられている点だ。

オバマ大統領は、再生可能エネルギー普及・エネルギー高効率化のために約2776百万ドルという予算を要求している。これは実に2012年予算の約56%増しの数字となる。

オバマ大統領はこの予算案の公表メッセージの中で、「国産のエネルギーへの投資は最も有力な分野」として「all-of-the-above」戦略を進めていくことを強く述べている。
また、この予算案が提出された際に米国エネルギー省(DOE)のダニエル・ポネマン副長官が行った予算説明では次のような言葉が述べられている。

“The United States faces one of the greatest challenges ahead, the opportunity to lead the global clean energy race.(米国にとって今後の最大の課題は、世界のクリーンエネルギー開発競争の先頭に立てるかどうか、である)”

シェールガスをはじめ安くて豊富な非在来型化石燃料を産出するようになった米国にとってもはや再エネなどは無縁なものと思いきや、オバマ大統領の狙いはまさに自国の経済発展を視野に入れた再エネをはじめとする国産エネルギーのへの投資とそれによるエネルギーの多元化という点にあると言うことがわかる。

上記の狙いのもと、昨年9月、米国エネルギー省(DOE)は電力の広域運用、再エネをはじめ様々なクリーンエネルギーの活用を可能にする技術を開発するため、コロラド州デンバーにある国立再生可能エネルギー研究所(以下、NREL)の中にエネルギーシステム統合施設(以下、ESIF; Energy Systems Integration Facility)を開所した。

筆者は昨年10月、福島県議会の米国エネルギー視察団に同行。福島県議会議員9名とともにNRELを訪問しESIFについて話を伺う機会を得た。

米国のエネルギーシステム統合施設(ESIF)

ESIFは、電力の系統連系を研究する米国初の実証研究施設で総面積およそ17,000?、15以上の研究設備を有するNREL最大の研究開発施設だ。ESIFは再エネをはじめ様々なクリーンエネルギーを電力網に流した場合(電力系統に統合した場合)どのようなことが起こるか、その課題に対処する技術を開発することを目的としている。

例えば、米国が「all-of-the-above」戦略により再エネの普及を進めていくにあたって、天候により電圧・周波数が変動する再エネを系統に統合してもトラブルが起こらないように対処技術を開発するなどだ。

ESIFでは、メガソーラやウィンドファームなどの分散型電源の系統統合、また太陽光パネルなど再エネ発電設備を活用するスマートハウスやビルオートメーションシステムの系統統合の他、太陽熱発電システムや燃料電池システム、高性能蓄電池などの技術開発と実証実験を行っている。さらに、ESIFには1秒間に1200兆回の計算能力をもつ米国エネルギー省(DOE)の最新型スーパーコンピューターが設置されており、このスーパーコンピューターを活用することで実際の商用運転規模と同様の環境を作り出し実証実験を行うことが出来るという。

開発した技術を実社会で実用化するためESIFの設備は企業にもオープンにされていると言う点も注目できる。研究費の負担や研究趣旨をNRELと合意することで企業も国の最新施設であるESIFの設備を利用できるほか、開発した技術の知的財産権も企業側で保持できるということだ。一般に技術開発の世界では研究機関等で開発した技術がなかなか商品化に至らず実社会で実用されないことを技術開発の「死の谷」と呼んでいるが、国の最新設備を企業に対してもオープンにすることで実用化への道を広げていると言える。

これほど大規模な研究開発施設は世界でも類が無く、米国が再エネをはじめ様々な国産エネルギーを活用すべく本気で取り組んでいる様子が伺えた。

エネルギーシステム統合施設(ESIF; Energy Systems Integration Facility)外観
筆者撮影

中立、公正な技術システムの構築を急げ

日本でも米国が取り組んでいるような新たな技術システムの構築は避けられないが米国に比べ日本における取り組みはまだまだ十分とは言えない。電力システム改革を推し進める上でもいち早く技術的な日本の電力システムのあり方を示し、開発に取り組む必要がある。その際、電力システムが日本社会の真の公共財となるよう一部の電力会社や関係者の利権や利害に左右されず、中立、公正に取り組む必要がある。

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