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【動画・資料公開】オンラインシンポジウム「第6次エネルギー基本計画をめぐって―30年46~50%削減、50年カーボンニュートラルに必要な施策とは―」
July 16, 2021
日本のエネルギー政策の大方針となる「第6次エネルギー基本計画」が決定されるタイミングにある今、2030年46~50%削減、2050年カーボンニュートラルを実現するためには何が必要となるのでしょうか。
2021年7月7日にオンラインにて開催した第9回東京財団政策研究所ウェビナー「第6次エネルギー基本計画をめぐって―30年46~50%削減、50年カーボンニュートラルに必要な施策とは―」では、カーボンニュートラルに必要なエネルギー政策の具体像について、「加速するエネルギー転換と日本の対応プロジェクト」プロジェクト・メンバーを中心に、有識者を招いて幅広い論点についての発表が行われました。
当日の模様を、動画と発表資料、パネルディスカッション要旨の抜粋にてご紹介します。
■第1部:開会挨拶/第6次エネルギー基本計画についてのコメント ■第2部:報告1 再エネ主力電源化に向けた施策 ■第3部:報告2 トータルなカーボンニュートラルの実現に向けた施策 ■第4部:ゲスト登壇者からの報告および全体議論 ■第4部:全体議論要旨(テキスト) |
第1部:開会挨拶/第6次エネルギー基本計画についてのコメント
■開会挨拶
東京財団政策研究所所長 安西祐一郎
■第6次エネルギー基本計画についてのコメント [発表資料]
橘川武郎(国際大学副学長 国際経営学研究科教授 ※プロジェクトリーダー)
第2部:報告1 再エネ主力電源化に向けた施策
■「再生可能エネルギーの最大限導入に向けた政策課題」 [発表資料]
高村ゆかり(東京大学未来ビジョン研究センター教授)
■「日本の再エネ大量導入に向けたパラダイムシフト:技術からのアプローチ」 [発表資料]
瀬川浩司(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻教授)
■「再エネと需給調整:日欧の取り組み」 [発表資料]
杉本康太(東京財団政策研究所 博士研究員)
第3部:報告2 トータルなカーボンニュートラルの実現に向けた施策
■「産業界の脱炭素」 [発表資料]
黒崎美穂(ブルームバーグNEF 日本韓国分析部門長)
■「カーボンニュートラルの担い手としての地域の役割」 [発表資料]
平沼光(東京財団政策研究所 研究員 ※共同プロジェクトリーダー)
■「原子力と化石燃料のゆくえ」 [発表資料]
橘川武郎(国際大学副学長 国際経営学研究科教授 ※プロジェクトリーダー)
第4部:ゲスト登壇者からの報告および全体議論
■「カーボンニュートラルに必要とされる需要の高度化と最適化」 [発表資料]
田辺新一(早稲田大学理工学術院創造理工学部 教授)
■「アセットオーナーとしての役割と機関投資家としての日本企業への期待」 [発表資料]
銭谷美幸(第一生命保険株式会社 運用企画部フェロー 兼 第一生命ホールディングス株式会社 経営企画ユニットフェロー)
第4部:全体議論要旨
■再エネ主力化のコスト面での問題・諸外国の状況について
黒崎:当然ながら再生可能エネルギーは日本では高いという概念で、再エネを進めるとコストが上がるのではないかと、そのような試算も多く出てきている。そんな中、先々週くらいに発表した弊社のLCOE(均等化発電原価)では、諸外国の3分の2は再生可能エネルギーの方が安いという結果になっている。日本は石炭火力が一番安い。毎年2回発表しているが、だんだん石炭火力の比率が小さくなってきていて、石炭火力が一番安いのはアジアの中では日本と数か国の状況。前回の調査で、再生可能エネルギーが安い国に新しくタイが加わり、今回新しく、太陽光が一番安いということでベトナムが加わった。残念ながら日本だけ、再エネが高いという概念があるというのが1点。
ではなぜ海外では再エネが安くなっているのか、またどうしたら日本が安くなるのかについては、簡単に申し上げると、規模を確保して再エネを安くして入れていくこと、やはり入札が大事になってくる。日本でも入札を行っているが、何が違うかと言うと、例えば最も再エネが安いインドなどでは政府や自治体の主導による入札がよく行われている。日本も政府主導で行ってはいるが、海外では政府が主導で地元との合意をとり、適地を確保する、環境アセスメントもやり、系統接続(発電した電気を一般送配電事業者の送電線、配電線に流すために、電力系統に接続すること)もつけてやっていくという入札が行われている。日本を鑑みると、全部はできないにしても、例えば環境アセスメントは洋上風力の場合、数社が同じところでやっているので、それぞれが環境アセスメントをしてそれぞれコストがかかっているというものをなくしていく。また系統接続についても、コストがまちまちでブラックボックス化しているため、そういった点でも海外から学ぶべき点がある。それが日本の再エネコストの削減、また再エネ主力化をした場合のコスト削減につながるのではないか。
平沼:入札のやり方から、そもそものやり方が違うというお話があったが、この辺りの議論は、日本の中ではどうなのか。
橘川:私はそれほど詳しくはないが、アイディアは出ているものの、一言で言うと日本は非常にスピードが遅いということを感じる。銭谷さんが待ったなしと言われていたが、企業だけではなく、政府や自治体に対しても言いたいと思う。
平沼:今お話ししただけでも、やるべきポイントが短時間で出てきた。それをこれからどうやってスピーディーにやっていくかということだと思う。コストに関しては、非常に多くの方からご質問をいただいているので、この場で言いたいことがある方はいらっしゃいますか。
瀬川:これまでの議論をまとめるような形になってしまうが、風力にしても太陽光にしても、世界で使われている機材は同じなので、なぜ日本だけが高いのかに気付く必要がある。1つは制度の問題、もう1つはどこにお金がかかっているのか、例えば土木建築費が海外と比較して日本が高すぎるので、それをどうするのかという問題がある。もう1つ隠れているポイントは、先ほどの話にも関係するが、日本の場合、エネルギー政策は完全に中央集権であるが、ドイツやアメリカは自治圏それぞれの地域に適したものを、自治体が主導して色々なことができるようになっている。例えば適地を考えたときに、系統接続の適地であり、広い面積が取れる適地であり、その他環境等も考えた適地というのは色々ある。
それを一番熟知しているのは自治体なので、そこに権限を渡しながら、自治体主導で色々な施策を起こせるようになれば、日本も再エネのコストが下がる余地は十分にあるのではないかと思う。
平沼:一言言わせていただきたいのは、コストを考えるときはやはりコスト―プロフィットで考えるべき。再エネをやると、電力料金だけではなく、先ほどご紹介したように、それにより荒廃農地が再生した、地元の産品が6次産業化できたなど地域再建に役立つプロフィットもあわせてコストを考えるべきだと思う。
■再エネ主力化のためのシステム整備・市場メカニズム調整について
平沼:コストの対応とともに多くのご質問をいただいたのが、再生可能エネルギーを導入するのは今のシステムでは無理ではないか、整備、特に調整力を含めた電力系統のシステムの整備をどうしたら良いのかについて。併せて、調整という意味では市場のメカニズムも変えていかなければならないが、まずはシステムという点から、これからカーボンニュートラルを目指すエネルギーシステムは何を一番にやるべきかについて、田辺さん、いかがでしょうか。
田辺:操る技術をきちんと育てる必要がある。我々は今までバケツで水を運ぶように考えていたが、実は秒や分の単位で、需要側も微分値を考えないと多分制御できなくなる。エネルギーを一カ月の光熱費で評価していたのが、経済学の方は時間単位の微分で評価される。そういう概念が、エネルギーや需要側にも入ってこないと、上手く使っていけない。今回省エネ関係で、再エネ余剰電力の有効利用に関しても、電気需要最適原単位というもので評価できないか。みんなが使うときに使っていると、係数をかけて多めに評価するなどそのような制度を作っていくことと、時間の概念を入れていくということであると思っている。
平沼:技術的な側面から、瀬川さんから補足することはありますか。
瀬川:例えば電力需給で考えると、今は大手の電力会社が中央給電指令所で、今仰られたことをすべて行っている。経済的な効率を考えて、時間ごとの電圧・周波数の制御を全部やっている。そういうものをどのように広げていくかについては、ある程度の交通整理を上手くやる必要があり、例えばデマンドレスポンスなど、色々な仕組みを考えており、皆さんが考えられていることは非常に近いものがある。やはり、ある場所で電力を供給し、ある場所で使ってしまうと、調整していることにならないので、そのあたりの交通整理の仕組みがまだ。日本の場合には市場に乗っている電力の割合が少ないので、技術も大事だが、それを取り巻く環境が大事である。
平沼:環境という意味でいうと、やはり市場メカニズムにも関わってくる。杉本さん、市場メカニズムという点では、どのようなことを考えておくべきでしょうか。
杉本:私の発表でも申し上げた通り、ヨーロッパや日本は、調整力を調達・運用するときに市場メカニズムを使って費用を安くしようとしている。報告内容に付け足したいのは、費用の観点で調整力を眺める限りは、「需給調整費用」となるので、できるだけ少なくした方が望ましいという発想になるが、調整力を提供する事業者からしたら、収入が減ってしまうことになる。なので、適正な対価を払えるような市場設計にする必要もあると思う。調整力については今、主に火力発電や揚水があるが、それらはそのうちリプレイスする必要もあり、新しい事業者が新しい調整力を投資する上では、投資を回収するのに十分な収入が得られないといけない。相対契約で価格を固定する方法もあるが、色々な電力市場も利用可能であり、調整力を提供する人は、前日スポット市場でエネルギー(kWh)の収入を得て、容量市場で容量(kW)の収入を得て、需給調整市場ではΔkWの収入を得るというように、複数の市場の収入を合わせて、費用を回収していくという形になる。そのような観点から、市場を設計することも大事であると思う。
平沼:そうなってくるとシステムとして、テクニカルなシステムとマーケットのシステム、両方のメカニズムを合わせてやらないと難しく、分けて考えるべきではないという風に思う。
■電気自動車・蓄電池導入について
平沼:電気自動車・蓄電池に関するご質問も多くいただいている。今後のエネルギーシステムを考えると、システムの中に、電気自動車・蓄電池を組み込むことが重要になってくる。エネルギー調査会基本政策分科会の中でも話題になった点かと思うが、今後どう進めていくべきか、なぜ進まないかについて、田辺さん、いかがでしょうか。
田辺:先ほど申し上げたように、電気自動車が住宅や事業所に入っていけば、需要家のフレキシビリティが増す。供給側のフレキシビリティでコントロールしているもの、電気自動車、あるいは住宅の場合、ヒートポンプ給湯器なども昼間に運転すれば、系統に出る分が少なくなるので、自家消費分が増える。東京のほとんどの大きなビルには蓄熱システムがあるため、これを上手く使う、あるいはコジェネ(コジェネレーション、熱電併給)が入っているところはコジェネをある時間は止めるなど、需要側と供給側があいまったことをやっていくと、再エネの導入量が増えていくのではないか、これも評価していく必要があると思う。
平沼:電気自動車に関して、もう1つ質問の中にもあったが、電気自動車と燃料電池車が、どちらが有利でどちらが不利かという話があるが、その辺はどのように考えるか。
田辺:私は両方あって良いと思っている。
平沼:この中で、どちらか片方だという意見の方はいるか。(挙手無し)少なくともこの中ではいらっしゃらない、両方必要だということだと思う。
瀬川:今の質問について、みんなEV(電気自動車)かFCV(燃料電池自動車)かという比べ方をするが、これは別物だと思った方が良い。FCVでデマンドレスポンス的なことができるかというとできなくはないが向かない。社会に組み込むための立ち位置が違う前提のもとで議論すべき。車の性能を競っている場合ではなく、社会システムの中にどのように組み込んでいくかを前提にして考えるべき。
■なぜ技術の実装が進まないのか
平沼:社会システムの中にどう組み込むかについて、今まで日本の中で色々な技術が、実証実験を行っていて、技術的には世界トップレベルである。再生可能エネルギーの特許も世界一である。それに拘わらず実装が進んでいないと思うが、この点について橘川先生いかがでしょうか。
橘川:エネルギーの分野だけでなく、日本の企業は試験が終わってしまうと、本当に投資が必要になる実装のところ、リスクを負うところになると引いてしまうところがある。この点は銭谷さんの方がイメージが良くわかると思う。
銭谷:技術的なことはわからないが、1つは我々投資家から見ていてよくお話するのは、世界の価値観が変わってきているということ。日本にいるとまず人口構成が世界の人口構成と異なっていて、いわゆるシニア層が多く、Z世代の比率が15%程度。世界ではZ世代、ミレニアル世代が半分近くになってきていて、彼らの商品志向が世の中の物に対するマーケティング戦略を立てるにあたって大きく影響している。企業が将来の事業戦略を考えるうえで、今どうかではなく、将来10年後、20年後に向けて投資をどこに向けるかという点が根本的に日本と違うと思う。
平沼:社会実装を進めるにはどうすれば良いか、瀬川さん、一言でお願いします。
瀬川:日本では、太陽光発電の導入がかなり進んでいるが、恐らくみなさんが問題にしているのは、事業者がどんどん逃げ出しているということもあると思う。一言で、というのは難しいが、技術は社会と共進化することが大事で、技術だけ良いものがあっても実装は進まない。そのきっかけを上手く作れるかというのが大事なところだと思う。
■原子力について
平沼:一方で、これまで社会実装を進めてきたもの、原子力がある。原子力についても様々ご質問をいただいている。先ほど橘川さんより原子力についてご発表いただいたが、改めて原子力の問題について、様々な課題への対処というのは、どういう風になる・していくものなのか。
橘川:きちんと答えるとすごく時間がかかってしまうが、質問された方は原子力で色々な問題があって、誰がどういう責任をもってどう解決するのかというところを聞きたいのではないかと思う。問題の本質というのは、そういう色々な問題に対して当事者能力を持って、責任を持って答える主体がいないこと。それこそが最大の問題なので、ある意味でこうすべきという議論はたくさんできるが、しても意味がないという非常に問題ある社会になっているというのが原子力をめぐる現在の姿。司令塔もいなければ戦略もない、漂流している状況。そんな中でまともな問いを立てられてまともなことを言っても意味がない、ということが起きていると思う。
平沼:この件に関して他にご意見がある方はいらっしゃるか。
瀬川:電力需給の観点では、非常に重要な問題が1つある。太陽光の導入拡大が進むと、揚水発電というのは昼間に貯めないといけない。一方で原子力を大量導入しようとすると、今度は夜に貯めないといけないため、揚水発電はどちらにするのかというのはとても重要なポイント。現状で考えると、原子力発電の稼働があまり進んでいない中、太陽光の方が進んでいるため、2030年以降、2050年を考えると、再生可能エネルギーとセットして運用する形になるべきだと考える。
橘川:絶望せざるを得ない状況だからこそ、原子力というファクターを、日本のエネルギー全体の中からなるだけ小さくしていくということが、原子力をマネージしていく方法だと思う。再生可能エネルギーが主力になる裏側で、原子力を副次電源にしていくのが一番賢い、原子力に対するマネジメントの仕方だと思う。
■カーボンニュートラルはメリットかデメリットか?
平沼:視点を変えて違うご質問を紹介したいと思う。そもそもカーボンニュートラルは産業や経済にとってメリットがあるのか、デメリットなのかというご質問もいただいている。この点について、海外はどういう受け止め方なのか。
黒崎:それを疑問に思っている時間はないと思う。メリットと捉えて、自分にとって何がチャンスになるのかを考えなければならないし、先ほど銭谷さんのお話にもあったように、エクソンモービルさんの取締役の交代劇を見ていると、弊社で石油会社さんのランキングをつけているが、今どうかではなく、これからの脱炭素に対して前向きかどうか、チャンスとして捉えているかどうかについてのスコアが、エクソンさんは下の方だった。結果、このようなことになっていて、社会が評価する時というのがきたので、それに対して企業は前向きに、チャンスと捉えてやっていかなければならないし、それをしないとこれから取引ができなくなっていくのではないかと思う。
橘川:先ほど田辺さんが言われた産業構造の転換がすごく大事だと思っていて、日本の企業はもしカーボンニュートラルの問題がなくても、産業構造を変えなければいけないと思う。産業構造を変える上で、一番の難しさは雇用の在り方を変えること。日本を支えている自動車産業でも、ほとんど部品が電化してきており、モジュールとインテグラルとどうやってうまく組み合わせるか、作り方を大きく変えなければならないタイミング。それをなかなかできないというのが、日本の競争力が落ちてくるポイントだったが、今、やらざるを得ないタイミングでカーボンニュートラルが入ってくる非常に大きなチャンスだと思う。他国に比べて日本が欠けていたピースが、カーボンニュートラルによってはまる可能性がある。
平沼:投資という視点でも、カーボンニュートラルをポジティブに受け入れるようにすることが必要になってくると思うが、銭谷さんいかがでしょうか。
銭谷:みなさんが仰っている通り、日本の企業の中ではなかなかカーボンニュートラルに向けて動きが鈍いところが多い。その中で、投資の観点から言うと、産業や企業が新しいものに移っていくにあたって、当然コストがかかる。そこに対して、トランジションファイナンスをしようということで、お金をつけていくという動きが国内外で増えている。そのようなものも利用しながら、是非前向きに取り組んでほしいと考える。
■企業が取り組むべきことについて
平沼:投資となると、企業活動に大きな影響を及ぼすと思うが、企業の方からも多くご質問をいただいている。個別具体的なご質問として、企業の取り組みとして、再エネ発電、調達クレジット購入のほかに、何かやるべきことはあるかなどのご質問もいただいている。まさに田辺さんがお話された、需要削減やビルのマネジメントなどにもやるべきことがあるのではないかと思うが、いかがでしょうか。
田辺:供給側を変えるということと、自分たちも変わるということが重要。東京の中には大丸有や日本橋などで大きな開発が行われていて、ここがある意味、カーボンニュートラルの実験場になる可能性がある。そこの技術は供給サイドだけではなく、どうマネージメントエリアをしていけるか、エネルギーだけではなく、どれだけ働けるか、あるいは健康に幸福にいられるか。そういうものを、エネルギーの革命がおこった後に、我々がどう生きていけるかを先読みして考える必要があるのではないか。企業の方には特に、革命が起きた時に、前にしがみついている人がいいのか、先読みして自分がどうなるか考えた方が良いのかというのを理解していただくと、わかりやすいのではないかと思う。
平沼:需要側の対応が、これから未来を創っていくという意識を持つべきということですね。その点、企業がやるとすると、それに投資する側もやはりそちらの方向に進むのではないかと思うが、投資的に見ても、そちらの方向に進んでほしいとお考えか。
銭谷:既に当社でもグリーンビルディングに対して投資を積極的に行っており、これからの地域との連携による地域開発においてもそのような視点を積極的に取り入れてゆく方針だ。例えば海外でも、いい企業ほどグリーン認証を取っているビルに入っている。これから働く人のことを考えると、若手の優秀な方を採用したければ、そういうビルに入っていることも一つの企業選択の条件になってくるのではないかと考える。
■望ましい経済的手法のあり方について
平沼:投資や企業の活動について議論をしてきたが、カーボンニュートラルの動きを早める意味においては、経済的手法も大きなドライビングフォースになると思う。カーボンプライシングの検討が始まっているが、望ましい経済手法の在り方はどのように考えたらよいか。
杉本:財団ホームページにも論考で書きましたが、エネルギーの研究者は、どれくらいのカーボンプライシングがあればカーボンニュートラルを達成できるかを推計している。それらの研究の多くは、大体1トンあたり数万円が必要という研究結果を出している。ただ、やはり高いカーボンプライシングは反対も多く、懸念も大きいため、現実に存在する世界のカーボンプライシングは、そこまで高くはない。カナダやヨーロッパが行っているように、カーボンプライシングは低い価格から初めて、人々の受容性を得ながら、悪影響が出ているかをチェックしつつ、少しずつ上げていくのが1つのやり方ではないかと思う。環境経済学の研究者は、今あるカーボンプライシングが経済にどう影響があるかを分析しているが、幸いにも、数千円程度のカーボンプライシングが、経済成長率にマイナスとなったり、国際競争力を悪化させたりするという結果は出ていない。したがって、それらの論文が提供するエビデンスに基づけば、トン当たり数千円程度の水準のカーボンプライシングであれば、悪影響を心配する必要はないと思う。
平沼:カーボンプライシングについては欧州が先行している中で、日本の状況と比べる段階にはないと思うが、欧州の、国際的な視点からみて何か示唆できることはあるか。
黒崎:欧州で良いなと思っていること、そして先ほど杉本さんが仰っていたことだが、ややはり低く始めて、フリーアローアンスを少しずつ外していく、もしくは厳しくしていくというアプローチ。エンドゴールは皆さんわかっているので、ネットゼロ、カーボンニュートラルに参画していく。それに向かっていきなりは難しいので、段階的な措置をとっていくことによる企業へのメリットというのは、ある程度、目標年、アローアンスというのが見えるため、経済的インセンティブが働きやすいこと。例えばグリーンセメントの場合、プロダクトを作るためには時間がかかるので、それをやるためのお金が必要であり、アローアンスがなくなっていくのが見えていればその年を目標にしようということで、ある程度設備投資期間が見える。これは、経済学的にもいいという話であったと思うが、企業にとっても計画・戦略の立てやすいやり方なのではないかと思う。逆にチャンスであると思う。
平沼:今、経済学的にも企業にも良いというお話があったが、投資から見ていかがでしょうか。
銭谷:我々も企業として悩ましいのはどうやってカーボンニュートラルに向けて企業が進捗しているか、モニタリングが今の開示情報では把握が難しいこと。例えばカーボンプライシングが入れば、仮であっても、他社・海外との比較が可能になっていくので、数値に換算するという意味では歓迎されることであると思う。
■木材バイオマスの可能性・果たすべき役割について
平沼:今日の議論の中で入っていなかった分野、木材バイオマスについてもご質問をいただいた。30年目標、50年目標の観点から、木材バイオマスの可能性、注意すべき点、果たすべき役割についてご意見をいただきたい。
田辺:まず日本の森林は、このまま放っておくと歳を取って、CO2の吸収量が減る。木材をきちんと使っていくというのは非常に重要で、建築の中でも小さな住宅だけだと難しいため、大規模なもので定量的に使っていくことが非常に重要。一方で、バイオマスは地域に非常に根差すため、地域でよく考えて使うこと、地域と結びついていくということが重要。
平沼:再生可能エネルギーは地域由来のものであるため、どう地域を取り入れるかということが重要な視点であるということを改めて感じた。
■政策のプロセスについて
平沼:政策のプロセス、決め方についてのご質問も多くいただいている。今までエネルギー基本計画が何度も作られてきているが、これから実践をする意味において、エネルギー資源すべての政策に関して、政策のプロセスとして、今のやり方で良いのかについて、橘川さんいかがでしょうか。
橘川:エネルギー基本計画というが、コアは何十年か先の電源ミックス、一次エネルギーミックスを決めるということ。それを決める理由は、きちんとした投資計画を持てるようにするということであり、その投資計画に意味がなかったり、歪めたりするようなものであれば必要ない。プラスならば、作った方が良いということになる。踏み込んでいくと、2002年にできたエネルギー基本法に基づき3~4年に1回今までエネルギー基本計画が出てきているが、基本は原子力の扱いであった。原子力の部分が、きちんとした議論で決められるのではなく、政治的配慮で決められてくる、与えられた与件のような数字が出てきてしまうので、原子力を外して考えた方が良いのではないかと思う。原子力をやめろという意味ではなく、原子力以外のベストミックスをきちんと考える方向で決め方を変えていくという方法があるのではないかと思う。
田辺:S+3E(「安全性(Safety)」「自給率(Energy Security)」「経済効率性(Economic Efficiency)」「環境適合(Environment)」からなるエネルギー政策の基本方針)というのは非常に優れているが、議論が供給サイドに偏っている気がする。特に2050年に向けては、需要の話を良くした方が良いと思う。予測も各機関によって大きく異なっていて、我々の生活やモノづくり、産業がどうなるか、日本がどうなるかをエネルギー基本計画に昔は書き込んでいただいたため、このおかげでやはり変わったという印象がある。先の物の姿を少し取り込んでいくような、特に産業構造とよく連携する必要があると思う。
■資源循環について
平沼:今の政策の決め方にも関係してくると思うが、資源循環という視点も入ってくるのではないかと思う。太陽光パネルなどが増えると、リサイクルは大丈夫なのか、それによる影響はどうなのか、といったご質問もいただいている。例えばフランスのヴェオリアなどは色々なことをやっているが、そういった点はいかがでしょうか。
黒崎:太陽光パネルだけの話ではなく、風力に使われている鉄や、それ以外に使われているレアアースなどすべて含めた資源循環について、再エネを主力化していくことで出てくるリサイクル需要を考えなければならないと思う。先ほど発表でもお話したが、スクラップ需要、二次原料の需要が今後高まってくる。また、足りなくなるのではないかという話まで出てきている。この資源使用というのは非常に大事な考え方であるし、産業構造の話にも繋がってくるため、それを含めた、全体としてどう産業を変えていけるのか、二次利用を含めた形でのエネルギー基本計画であるといいな、と思っている。
主催:公益財団法人東京財団政策研究所 共催:東京大学未来ビジョン研究センター 後援:東京大学教養学部附属教養教育高度化機構 |