2019年1月26-27日にかけて第114回東京財団政策研究所フォーラム「フューチャー・デザイン・ワークショップ 2019」が開催された。
2日間で91人の参加があり、経済学や環境学・哲学などの研究者や、自治体関係者などの実務家といった多様なバックグラウンドを持つ登壇者による発表や、参加者による活発な質疑応答が行われた。
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「フューチャー・デザイン:持続可能な自然と社会を将来世代に引き継ぐために」
西條辰義(上席研究員、高知工科大学フューチャー・デザイン研究所教授)
西條氏は社会性・相対性・近視性・楽観性というヒトの性質が将来世代を取り込まないシステムである民主主義や市場を形作ったと指摘した。そのうえで、ヒトの<将来可能性(今を犠牲にし、将来を良くする性質)>を生む社会の仕組みのデザインとその実践としてフューチャー・デザインを提唱し、一つの手法として将来仮想世代のアイデアと実験結果を紹介した。
発表資料はこちら(PDF3.92MB) 動画はこちら(35min.)
「思考への討議効果:時間的視野と社会的視野」
西村直子(信州大学経法部教授)
西村氏は、長野県松本市での新庁舎建設基本計画策定におけるフューチャー・デザインの事例を紹介し、仮想将来世代になることで討議内容にどのような変化が起きるか分析した。さらに、将来世代として討議を行うことで個人の将来価値に与える影響を、社会志向性や時間割引率を質問紙を用いて測定することで分析した結果について議論を行った。
発表資料はこちら(PDF2.91MB) 動画はこちら(40min.)
「矢巾町におけるフューチャー・デザインの実践」
吉岡律司(岩手県矢巾町企画財政課 課長補佐兼政策推進室長補佐)
吉岡氏は岩手県矢巾町の水道事業における住民参加・水道サポーターワークショップの様子と、総合計画策定におけるフューチャー・デザインの取り組みの結果、またそれによる「フューチャー・デザインタウンやはば」が目指す政策の好循環について実務家の立場から紹介した。
発表資料はこちら(PDF4.59MB) 動画はこちら(44min.)
「2040 年の未来市長になった中高生からの政策提言」
倉阪秀史(千葉大学大学院社会科学研究院教授)
倉阪氏は資本基盤の持続可能性が危ぶまれていることを示し、その問題を解決していくためにバックキャスティングにより政策形成の補助線としての役割を果たす未来シミュレータ・未来カルテを開発した。また、実践例として、中高生や若手社会人が未来市長として政策提言を考えるワークショップである未来ワークショップの様子を紹介した。
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「世代間協力における規範の役割」
廣光俊昭(財務総合政策研究所客員研究員)
廣光氏は、世代間協力における規範の役割を考察した。経済実験を通じ、先行規範に人々が同調することを見出した。その上で、世代間で公共的価値の共有があり、先行世代が後続世代による同調の事実を勘案するなら、世代間協力の程度が格段に高まる可能性を論じた。これらを踏まえ、最後に財政政策における含意を検討した。
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「個人的な行動選択と社会的な政策転換の関係 -移動手段を例として-」
松橋啓介(国立環境研究所社会環境システム研究センター)
松橋氏は、個人的な移動手段の選択と社会的な交通政策の選択の関係、またその選択の理由をインターネットモニター調査によるアンケートによる調査結果を報告した。また、その結果と道徳観との関係を分析することで、持続可能社会への転換につながる政策への合意を得るための方策についての知見を議論した。
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「子供たちの未来を助けろ:公衆衛生改善のための説得的コミュニケーション・ツールの評価」
横尾英史(国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター主任研究員)
横尾氏はフューチャー・デザイン研究の発展の可能性として大多数の個人・家庭の環境配慮行動を促す施策の研究へ応用することを提案した。その実践例として、インドネシアの廃棄物収集サービスにおいて将来世代に関するメッセージとチラシを使った勧誘が加入率に与える影響を測るRCT型フィールド実験の結果を紹介した。
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「ランドスケープ・プランニングの思想とフューチャー・デザインの共通性とそれぞれのオリジナリティについて」
上原三知(信州大学総合理工学研究科環境共生学分野准教授)
上原氏はランドスケープ・デザインとフューチャー・デザインは、2つの異なる視点(自然の保護と開発、現世代と将来世代)から新たな議論の方向性(ベクトル)を派生させる点にあると指摘した。関連分野との共同のメリットをいかに生み出せるのかを客観的に示すエビデンスを蓄積することが重要との指摘を行った。
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「吹田市におけるフューチャー・デザインの取組」
楠本直樹(吹田市環境部環境政策室)
楠本氏は大阪府吹田市においてなぜフューチャー・デザインに取り組めているのか、今までどのような取り組みが行われてきたか、また今後吹田市第三次環境総合計画策定においてフューチャー・デザインをどう利用していくかについて実務家の立場から紹介した。
発表資料はこちら(PDF1.79MB) 動画はこちら(45min.)
「将来世代の視点取得の成功度合いを測定するための質問紙尺度の提案」
中川善典(高知工科大学社会マネジメント学部准教授)
中川氏は仮想的に将来世代の人間になりきるとはどのような体験であるかを明らかにするために、岩手県矢巾町でのワークショップ参加者にインタビュー調査を行い、その結果を紙芝居にまとめたことを報告した。またその内容を踏まえ、未来人になりきることの成否を図るための尺度を開発中であることを紹介した。
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「なぜ、現在世代は将来の制約を甘く見積もってしまうのか?:横断条件評価における歪みについて」
齊藤誠(一橋大学大学院経済学研究科教授)
齊藤氏は将来国債残高の評価において、長期金利による割引は物価と国債残高に相関がある状況では歪みをもたらすことを説明した。また、実際に物価と国債残高に相関がある状況で国債残高の現在価値が過少評価されてしまうような場合を設定し、そこから得られる将来の帰結についての議論を行った。
発表資料はこちら(PDF799KB) 動画はこちら(43min.)
「フューチャー・デザインにおける仮想将来世代導入の効果と意義 - 自治体での実践例から -」
原圭史郎(大阪大学大学院工学研究科附属オープンイノベーション教育研究センター准教授)
原氏はフューチャー・デザインの概論を解説しつつフューチャー・デザインにおける仮想将来世代導入の効果と意義について、岩手県矢巾町における将来プラン作成の実践例をもとにアンケートやワークシート分析の結果の紹介を行った。また、フューチャー・デザインの社会実装へ向けた今後の展開を述べた。
発表資料はこちら(PDF2.26MB) 動画はこちら(43min.)
「内生的な世代間利他性とフューチャー・デザイン研究」
小林慶一郎(研究主幹、慶應義塾大学経済学部教授)
小林氏は現在における深刻な世代間協調問題を指摘し、既存の政治制度の限界と新たな手法の必要性を示した。また、フューチャー・デザインをマクロ経済学の観点から世代間利他性を高めることと捉え、マクロ経済モデルにおいて利他性を高める政策が財政再建のタイミングについて消費者の賛否に与える影響のシミュレーション結果を紹介した。
発表資料はこちら(PDF798KB) 動画はこちら(41min.)
「『私たち』を問い直す フューチャー・デザインの哲学への一構想」
宮田晃碩(東京大学大学院総合文化研究科)
宮田氏はフューチャー・デザインの意義について、現象学における「将来」と「語り」の概念を用いて考察を行った。さらに、どのような点を重視してフューチャー・デザインの展開を行っていくべきかについての議論を行った。
発表資料はこちら(PDF1.40MB) 動画はこちら(1h.20min.)
「仮想将来世代の声 - フューチャー・デザインの機序の演劇論的検討」
太田和彦(大学共同利用機関法人総合地球環境学研究所)
太田氏は仮想将来世代について、仮想将来世代としての利害や視点の代弁と、人間以外の種としての利害や視点の代弁は、どの点において同じで、どの点において異なるのかという問いについて演劇論的検討から検討し、フォローすべき点についての議論を行った。
発表資料はこちら(PDF3.64MB) 動画はこちら(36min.)
「世界の未来洞察・予測関連機関とフューチャー・デザインの方法論的考察」
白川展之(文部科学省科学技術・学術政策研究所科学技術予測センター主任研究官)
白川氏は未来について予測・洞察する政府機関等における海外の最新状況を紹介しつつ、「フューチャー・デザイン」研究の未来洞察研究における方法論的位置づけを考察し、研究発展のロードマップを提案した。
発表資料はこちら(PDF1.32MB) 動画はこちら(37min.)
「母親のパラドックス:ドメイン投票制度は将来世代のための選択を促進するか?」
上條良夫(高知工科大経済マネジメント学群フューチャー・デザイン研究所教授)
上條氏は小さな子を持つ親が最も社会の持続可能性を気にかけるのか、また彼らの意見を強く反映できる制度は社会の持続可能性を高めることができるだろうかという問いを立てた。その検証として、参加者が社会の将来のための寄付額について集合的選択ルールにより決定するランダム化オンライン実験を行った。