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全世代型社会保障検討会議中間報告を検証する その2:介護の生産性をどうするか?
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全世代型社会保障検討会議中間報告を検証する その2:介護の生産性をどうするか?

March 3, 2020

はじめに

昨年末、全世代型社会保障の中間報告が取りまとめられた。少子高齢化の進む我が国において「これまでの社会保障システムの改善にとどまることなく、システム自体の改革を進めていくことが不可欠」とする。「大きなリスクに備えるという社会保険制度の重要な役割も踏まえ、年齢ではなく負担能力に応じた負担」への転換もその一環である。医療・介護については「社会全体で予防・健康づくりへの支援を強化する必要」を訴えつつ、「介護分野の人材不足や今後の介護サービス需要の伸びに対応」するよう「介護現場におけるロボット・ICTの導入加速化、ペーパーレス化・効率化(簡素化・標準化・ICT活用)の推進」などを図る。以って「効果的・効率的、健全で持続可能性の高い介護提供体制の構築を進める」とする。実際、介護分野の人材不足は深刻さを増している。「2016 年度の約 190 万人に加え、2020 年度末には約 26 万人、2025 年度末までに約 55 万人、年間6万人程度の介護人材を確保することが必要とされている」(社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見 」)。

事業者の大規模化・連携の推進

とはいえ今後、我が国の労働人口の減少が見込まれる中、介護人材の確保は容易ではない。「人手不足の中でも介護サービスの質の維持・向上を実現するマネジメントモデルの構築」に向けて量=人員数ではなく、質=有効利用が求められる。そのためには「介護の経営の大規模化・協働化」が必須といえる。実際、「介護サービス事業者の事業所別の規模と経営状況との関係をみると、規模が大きいほど経費の効率化余地が高いこと等から、経営状況も良好な傾向にある」(財政制度等審議会建議)。しかし、「依然として介護サービス事業全体でみた場合、経営主体は小規模な法人が多い」。図表は通所介護(予防を含む)の1施設・事業所当たり収支額、及び常勤換算職員一人当たり介護事業収益を延べ利用者数別に示している。「延べ利用者数」が300人以下の事業者は10万円の収支赤字である一方、901人以上であれば、収支は985千円あまりの黒字になる。総じて延べ利用者数が増えるほど収支(収益マイナス費用)は改善することが分かる。「常勤換算職員一人当たり介護事業収益」を事業者の生産性の指標とすると、こちらも延べ利用者数とともに上昇する。この延べ利用者数は事業者の規模に応じるから、規模の経済が働くことが伺えるだろう。しかし、介護事業所・施設の4割程度が1法人1事業所・1施設に留まるのが現状だ。従業員が100人に満たない事業者は7割に上る(「平成28年度介護労働実態調査」)。こうした小規模な事業所では低収益・低生産性に留まるため、介護ロボットの活用を含む介護事業のICT化や介護人材の確保・育成は進みにくい。少なくとも「事業所の連携によるロボット・ICT 等の共同購入、人材確保・育成、事務処理の共同化・プラットフォーム化を進めること」(社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見 」)が望ましい。

図表:介護事業者の規模と収益率・生産性


データの出所:厚生労働省 介護事業経営実態調査(2017年度)

ではどうするか?「社会福祉連携推進法人(仮称)」は、介護事業者の連携の受け皿(プラットフォーム)になりうるだろう。社会福祉連携推進法人は「合併、事業譲渡」に代えて、「社会福祉法人の自主性を確保しつつ、連携を強化できる新たな選択肢の一つ」と位置付けられる。業務としては福祉人材確保・育成・生産性向上のための共同購入などが挙げられる。「社会福祉法人を中核とする非営利連携法人制度」であるが営利(株式会社)の介護事業者の参加も排除しない。連携法人内での資金の貸し付けも一定程度可能になる。構成法人が実証実験した生産性向上の取組の横展開も期待できよう。この社会福祉連携推進法人のモデルになったのが地域医療連携推進法人である。参加法人は独立性を保ちつつ、医薬品の共同購入や病床融通、医療従事者の共同研修などを享受できる。事例としては山形県の「北庄内」で展開する「日本海ヘルスケアネット」が知られている。

ただし、社会福祉連携推進法人や地域医療連携推進法人は全ての構成員を同等に扱う(「一社員一議決権」)一般社団法人の形態をとっている。先進的な事業者がリーダーシップを取るには制約がある。更に一歩進めるなら、「経営主体の統合・再編等を促すための施策を講じていく」(財政制度等審議会建議)ことだ。あるいは「フランチャイズ化」が一案だろう。ここでフランチャイズとは中核となる事業者が「本部」機能を果たし、その業務システムや経営ノウハウなどを加盟する事業者に提供する。高度専門人材の育成の他、加盟事業者間でこうした人材を共有する仕組みがあっても良い。各事業者は一定の独立性を確保しつつ、経営効率を改善できる。生産性が高まれば職員の給与も上げやすくなり、安定的な人材の確保にも繋がる。

ローカルルールの排除を

事業所間の連携等を進めるには、「事業所や自治体の業務の標準化」が前提になる。業務の標準化・ICTの活用に向けては行政サイドにも課題が残されている。それが自治体毎の提出書類の様式や解釈等に係るローカルルールの存在だ。「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」によれば、介護予防サービス、地域密着型サービス及び介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)の創設に伴い、サービスの種類が増えた結果、「従来は一件の申請で足りたサービス事業所が複数の申請及び提出先に分かれたこと」及び「介護職員処遇改善加算のような新たな加算が創設されたこと」などから、「事業所と自治体の双方で文書負担が増している」という。例えば、介護職員処遇改善加算については、「確実な処遇改善を担保するため」、計画書及び実績報告を提出することになっているが、自治体によって計画書等の様式に差異がある上、その内容を確認するため、別途添付書類の提出も求めているという。これに関連して、半数程度の都道府県で国の様式を変更した書類を用いているとされる。その背景には「解釈の余地がある部分についてどこまで文書を求めるべきか苦慮してきた」ほか、「過去の不正やトラブルの事例を踏まえて厳格化してきた経緯がある」などとされる。しかし、こうしたローカルルールの存在はICT の活用等の取組にとっても障害となる。介護保険部会は「介護分野の文書の削減・標準化等を進め、現場の事務作業量を削減」すること、具体的には「指定申請関連文書、報酬請求関連文書、指導監査関連文書等に関して、①個々の申請様式・添付書類や手続きに関する簡素化、②自治体毎のローカルルール解消による標準化、③共通して更なる効率化に繋がる可能性のあるICT 等の活用等の取組を着実に進めること」を提言している。

我が国は、国が政策を企画、財源を確保して、地方自治体が執行を担う体制(「集権的分散システム」とも呼ばれる)をとってきた。執行の手法=業務については地方に丸投げしてきた感は否めない。結果、介護に限らず、規制・許認可等様々な分野でローカルルールが拡がってきた。自治体の主体性を尊重する地方分権の観点から、こうしたローカルルールを擁護する向きもあるが、業務手法とは政策体系における部品であり、「規格」に等しい。規格=業務は標準化した上で、自治体は中身=サービス提供の仕方・質で競うべきだろう。政府は国の行政手続きに係る事業者の負担を2割削減することを目標に掲げている。介護についても同様のKPI(数値目標)を設け、自治体にその実現を促すことも選択肢だ。

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