収束気配なし、楽観は禁物
新型コロナウイルスの感染が全世界で猛威を振るっている。世界経済は前代未聞の落ち込みを喫するなか、危機がいつ収束するか、出口がまったくみえない状況にある。当初、科学者の一部は、気温が上昇すれば、ウイルスの感染がおのずと下火になると予想していたが、その気配はまったくみえない。
中国では、新型コロナ感染はピークアウトしたと宣言されているが、中国人を含めて、多くの人はウイルスの感染が収束していないとみている。とりわけ、中国政府の初動が遅れ、感染者数と死亡者数の信ぴょう性が疑われているのである。感染症危機について、科学的根拠に基づかない楽観論は禁物で、行き過ぎた慎重論こそリスク管理における鉄則である。
両立しない感染抑制と経済復興
感染症危機に対処するために、ヒトの流れを止める必要があるが、経済活動を回復させるためには、ヒトの流れを活性化させる必要がある。感染症危機への対応と経済復興はトレードオフの関係にある。その優先順位を考えれば、ウイルス感染をできるだけ短期間に抑える必要がある。
政府にとっての選択肢は、ウイルス感染を思い切って抑えるための緊急事態を宣言するか、緊急事態を宣言せず、経済活動を維持しつつ、緩やかにウイルス感染を抑えていくことである(7日夕発令)。
しかし、ウイルス感染を完全に抑制しないと、経済活動が全開することができない。なによりも、今回の感染症は、ある一国、あるいは一地域に限らず、全世界に広がっている。したがって、全世界でウイルス感染を完全に抑制しないと、世界経済は上向かないと思われる。
対中依存どう脱却するか
振り返れば、1997年アジア通貨危機のアジア諸国にとっての教訓は、アメリカへの輸出にもっぱら依存すると、リスクが大きくなることだった。今回の新型コロナ危機が世界主要国に与えた教訓は、中国経済に過度に依存すべきでないということである。コロナ危機が収束すれば、多国籍企業を中心に、サプライチェーンの再構築が考案されると思われる。
しかし、サプライチェーン再構築の総論は正しいが、中国への一極集中から東南アジアなどサプライチェーンを分散していく新たな形がまだ見えてこない。中国にとって代わる新たな器は現実的に存在しない。
問題の一つは、中国ほど大量な質の高い労働者をほかの国で確保することができないこと。もう一つの問題は、中国ほど完璧に整備された物流インフラを備えている国はない。そのうえ、中国はすでに世界の市場になりつつある。多国籍企業はこれらのメリットを無視して、生産ラインをむやみに東南アジアなどへ移転させることができない。
結局のところ、新たなサプライチェーンの形は、メインのサプライチェーンを中国に置きつつ、リスク管理のためのサブサプライチェーンをほかに作るしかない。その候補として、東南アジアとインドが有力になると思われる。
時事通信社「コメントライナー」(第6951号 2020年4月8日)に一部加筆して転載