現在の衆議院議員の任期は2021年10月21日で切れるため、11月までに解散総選挙が必ずある。日本国憲法43条2項に基づき、衆議院議員の定数は公職選挙法4条1項が定めており、現在のところ、小選挙区289と比例代表176の合計465議席である。
コロナ禍が続くなか、今回の選挙結果の行方に注目が集まるが、それと同時に、人口減少が急速に進むなか、選挙制度で最も大きな懸案になっているのが「一票の格差の是正」であろう。2014年12月の第47回衆議院選挙では一票の格差が2倍以上であったことから、最高裁は2015年11月に違憲判決を下した。
このような状況のなか、衆議院の議席配分につき、「衆議院選挙制度に関する調査会」(衆院議長の諮問機関)は2016年1月に「アダムズ方式」の採用を求めた。
アダムズ方式とは、従来の「1人別枠方式」とは異なり、都道府県の人口比率を反映しやすい議席配分方法であり、2016年の選挙制度改革(例:公職選挙法の改正)により、その適用は2022年以降となることが決まっている(注:総務省・衆議院議員選挙区画定審議会は、2020年の国勢調査人口に基づき、小選挙区の区割り改定案の議論を行っており、2022年6月までに首相に勧告する改定案を取りまとめる予定)。
すなわち、2021年の衆議院議員選挙は従来の定数配分で行われるが、2022年以降、アダムズ方式の導入で衆議院の議席配分はどう変わるのか。簡単なシミュレーション分析を行ってみたい。
まず利用するデータだが、2010年と2015年の国勢調査人口のほか、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(2018年推計)」を用いる。後者のデータは2045年までの推計しかないため、2015年と2045年における都道府県別の人口減少率に基づき筆者が簡易試算した2075年における都道府県の人口も利用する。
また、アダムズ方式は都道府県の人口比率を反映した議席配分方法だが、具体的には以下の手順で計算する。
1)1議席当たり人口を定める。
2)定めた1議席当たり人口で各都道府県の人口を割った値(小数点は切り上げ)を各都道府県の議席配分案とする。
3)都道府県の議席配分案の合計が小選挙区の議席合計に一致した場合は終了するが、一致しない場合は1)の手順に戻り、1議席当たり人口を修正して2)を再計算する。
以上の前提で試算した結果が図表である。この図表では、都道府県に対する小選挙区289議席の現行の議席配分が、アダムズ方式を適用するとき、2010年と2015年の国勢調査人口や、2030年・2045年・2075年の将来人口を利用した場合にどう変化するかを示している。
図表中の「増減」は、現行の議席配分と比較して、各配分の増減の変化を表すもので、例えば、「将来推計人口(2030年)」の東京都における「増減」は6となっているが、これは小選挙区制で現行25議席の東京都は2030年に31議席となり、6議席増加することを意味する。
この図表から、2010年の国勢調査人口では「7増7減」、2015年の国勢調査人口では「9増9減」、2030年の将来推計人口では「13増13減」、2045年の将来推計人口では「19増19減」、2075年の簡易推計では「30増30減」となることが分かる。
議席配分が増加するのは日本の全人口に占める人口割合が多い、あるいは増えると見込まれる東京都や神奈川県・愛知県などであり、人口が減少する地域の議席は減少するケースが多い。
この変化は、一票の格差を是正するための「痛み」であり基本的に望ましいものだが、愛知県などの中部圏と異なり、京都府・大阪府・兵庫県・奈良県などの関西圏の議席数が増加しないという試算結果は興味深い。むしろ、2075年までに大阪府や兵庫県の議席配分は各々1減少する可能性がある。
一方で、東京都は2075年までに15議席も増加させ、現行の25議席から40議席に変更する必要性があることが示唆されているが、小選挙区289議席のうち約14%が東京都から選出の議員となる。また、2075年における首都圏(東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県)の議席配分は95であり、約33%がこの地域から選出の議員となる。現行の首都圏の議席配分は71で全体の約25%であることから、約8%上昇することを意味するが、この時、日本の政治はどのような姿になっているのだろうか。
選挙制度における投票は民主主義の正統性を維持する根幹であり、一票の重みに著しい不平等があってはならず、一票の格差の是正は喫緊の課題であるが、このような試算結果をみる限り、いずれ選挙制度が前提とする都道府県の枠組みを見直す必要性はないだろうか。
図表:小選挙区・議席配分の試算結果
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