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AI時代の先生を考える~ロボット教師はナンセンス
画像提供:Getty Images

AI時代の先生を考える~ロボット教師はナンセンス

February 19, 2025

学校教育現場へのAI活用が広がっています。教員の負担軽減や子どもの学びの質向上が期待される一方でAIに何を任せるのか、AIに任せることでどんな影響があるかについては、十分な議論がされていません。 

こうした現状を受け、20241221、座談会「AI時代の先生を考える~ロボット教師はナンセンス~」を開催いたしました。まずは当日の講演の様子をお伝えいたします(内田洋行教育総合研究所・東京財団政策研究所「AI時代の先生」共催)

R-2024-097

■ 教師は何の専門職なのか 松本美奈
■  AIさえあれば教育課題が解決するという考え方は誤り 安西祐一郎
■ 子どもにとって最適の学びの場をつくるために 堀田龍也


教師は何の専門職なのか 
 

東京財団政策研究所 研究主幹(「AI時代の先生」研究代表)松本美奈

長時間労働や、それに見合わない給与などが問題視され、学校はブラック職場と言われています。その結果、自治体の教員採用試験の倍率は低迷しています。 

これに対して、国が打ち出したのが、教師の仕事の「3分類」厳格化です。「学校以外が担うべき業務」「学校の業務だが必ずしも教師が担う必要がない業務」「教師の業務だが負担軽減が可能な業務」に分け、教師の負担を減らそう、という構想です。 

この政策には三つの問題があります。まず、教師の手を離れた仕事は、誰が、何が担うのか。学校現場で働く外部人材は毎年増え続け、2023年度は74000人でした。187億円の予算が投じられています。財務省は、AIによる合理化を求めています。 

AIによる合理化と並行して「ロボット教師待望」論が出されています。子どもの学習データを正確に記録できて、しかも24時間365日働けるロボットならば、より良い教育ができる、と期待しているようです。 

第2の問題点です。3分類厳格化は「教師だけが担える仕事とは何か」という問いを突きつけてきます。教師は何の専門職なのか、ということです。それは時代によって変わるものでしょうか。2022 年1月、国は「教育データの利活用ロードマップ」で、教師は学びのデザイナー、コーディネーターと書いています。AIを駆使したデータの利活用が前提です。さらに、その担い手は人間かロボットなのか、という問題も出てくるでしょう。 

最後に、3分類を含めた一連の政策は合意されているのか。教師自身や子どもたちが納得していなければ、政策は「絵に描いた餅」に過ぎません。 

今日は、中央教育審議会元会長の安西祐一郎先生、現在も中教審委員として政策づくりに携わっている堀田龍也先生をお招きし、お話を伺います。後半のワークショップでは、参加者の皆さんと一緒に、この三つの問いを考えていきます。 

AIさえあれば教育課題が解決するという考え方は誤り

(中央教育審議会元会長/東京財団政策研究所元所長 安西 祐一郎) 

 AI技術の進展によって、教育現場へのAI導入が注目されていますが、AIさえあれば教育課題が全て解決するという考え方は誤りです。AIを効果的に活用するためには、ソフトウェア、ネットワーク、データ基盤の整備が不可欠です。AIはピザのトッピングのようなものであり、土台がなければその機能を十分に発揮できません。GIGAスクール構想の推進は評価されていますが、ネットワークの整備や端末の更新、家庭での利用の可否など、現場には多くの課題が残っています。 

ロボット教師と人間の教師の役割分担 

AI時代における「ロボット教師」の導入は、教育現場の効率化に貢献する可能性があります。AIは学習評価、成績処理、統計調査などの「対物」業務を効率的に処理できます。特に、通信制高校では高度なシステムが導入され、AIの利活用が進んでいます。しかし、人間の教師にしかできない「対人」業務、特に生徒との対話や感情的なサポート、個々の学習ニーズに応じた柔軟な対応はAIには難しい領域です。教師は生徒のモチベーションを維持し、フェイクニュースの見極めなど批判的思考力を育成する重要な役割を担っています。教育におけるAIの役割はあくまで補助的なものであり、教師の存在が不可欠です。 

教育データは誰のものか 

AIの導入に伴い、教育データの管理と所有権が大きな課題となっています。デジタル庁の通達(2022年)で学習データ共有の推進が謳われましたが、教育分野に疎い人が書いた文章だったためか、「政府が全ての学習データを管理するのは危険だ」という懸念が広がってしまいました。学習データが生徒、教師、学校のいずれに属するのか、明確な基準はほとんど議論されていません。本来、学習データは生徒本人のものであるべきですが、未成年の場合は保護者の関与必要です。生徒の学習データの所有権を学校や教師が持つことはできないと考えていますが、どんな場合に学校あるいは教師が管理してよいのか、議論が必要です。 

教育データの適切な管理と活用は、個別最適化学習の推進に不可欠です。しかし、データの取り扱いを誤るとプライバシー侵害のリスクが伴います。例えば、生徒の学習状況を分析し、AIが最適な問題を提供するシステムは効果的ですが、どのデータをどのように蓄積・共有するかについてのガイドラインが不十分であれば、生徒のプライバシーが危険に晒される可能性があります。 

教育支援とその課題 

AIを活用した適応学習システムは、生徒の間違いを分析し、新たな問題を生成することで個別最適化を図ります。しかし、同じレベルの問題を繰り返し提供するだけでは生徒の関心は薄れます。教育においては、AIが提供する問題の質と、生徒の動機付けをどのように維持するかが重要な課題です。 

教育現場では、どの業務をAIに任せるか、どの業務を人間の教師が担うかを明確に分ける必要があります。学習評価や成績処理のような業務はAIに任せられますが、生徒の個別指導や対人関係の構築は、今のAI技術では人間の教師にしかできません。さらに、部活動や校内清掃のような業務については、アウトソーシングが進んでいますが、これは地域社会との関係や財源の問題が関わっており、AIやITの導入とは別の社会的な課題を含んでいます。 

教育インフラの整備と課題 

AIを活用するためには、ITシステム、データプラットフォーム、ネットワークシステムの整備が不可欠です。しかし、現状ではこれらのインフラ整備が遅れており、教育現場のデジタル化が思うように進んでいません。AI時代における教育の質を向上させるためには、これらの基盤整備が急務です。また、教員研修やデータの標準化も重要な課題です。特に、免許更新制が廃止され、教員研修の内容も時代に合わない中で、AI時代に合わせた教員研修の在り方を構築することが重要です。2022年にデジタル庁はロードマップを公表、さらに2024年度内に改定を目指しています、デジタル庁の議論と教育の現実はまだかけ離れている部分が多く、実現には時間とリソースだけでなく、デジタル技術の世界と教育界の相互理解が必要です。 

AI時代の教育は、AI技術の進展によって大きな変革を迎えています。ロボット教師やAIシステムが教育現場の効率化に貢献する一方で、人間の教師にしかできない役割も多く存在します。AIと人間の教師の役割を明確に分け、両者の強みを活かした教育環境の構築が求められています。教育データの管理と所有権についても明確なガイドラインが必要であり、プライバシー保護とデータ活用のバランスを取ることが今後の重要な課題です。 

子どもにとって最適の学びの場をつくるために

東京学芸大学教職大学院教授/学長特別補佐 堀田龍也 

AI時代単にAIを使用できる時代という単純な意味ではなく、相当のことを対応できるようになったAIが存在する時代に人々は何をすべきかという問いが突きつけられている時代なのだと思っています。 

AIが効果的に機能するためのデータ基盤やネットワーク基盤の整備が重要です。安西先生も指摘したように、教育分野ではこれらの整備が遅れており、課題が多く残っています。このような中で、教師が一部の役割をテクノロジーに任せる可能性が議論されていますが、「ロボット教師」という概念には多くの抵抗感があります。 

生成AI(例:ChatGPT)は迅速にイラストを作成したり、問題を生成したりする能力を持っていますが、その成果物が理想的かどうかは別問題です。AI技術の活用は教育現場の負担を軽減する可能性を秘めていますが、教育委員会によってはその使用を禁止するところもあり、導入には慎重な議論が求められています。 

ロボット教師の導入事例とその課題 

実際に、広島県三次市では「ユニボ先生」というAIロボットが複式学級で導入されました。ロボット教師は授業のポイント解説や問題の出題、答え合わせを行うことができます。特に僻地校では教師の負担軽減として期待されていますが、ロボットの形状が子どもたちに与える影響や、GIGA端末でも代替可能な機能の範囲についてはさらなる検討が必要です。このような取り組みはまだ初期段階であり、実際の効果や費用対効果についての評価は今後の課題です。 

AIとロボットでは代替できない人間教師の役割 

AIやロボットが教育現場で果たす役割が増える一方で、人間の教師にしかできないことも明確です。例えば、子どもたちの感情に寄り添い、モチベーションを引き出すことや、対人関係の構築、個々の生徒の成長に応じた柔軟な対応はAIには難しい課題です。さらに、AIが最適な問題を提供しても、生徒自身が学びを主体的に進める意欲を持たなければ、学習効果は限定的です。これは、AIドリルが一時的な興味を引いても、長期間の学習継続には限界があることからも明らかです。 

また、AIが生成する問題や情報の質を見極める力、特にフェイクニュースの識別能力などは、教師の指導が不可欠です。教育は単なる知識の伝達ではなく、批判的思考力や創造性を育む場でもあります。これらはAIが模倣しにくい領域であり、人間の教師の重要な役割です。 

AI時代の教育インフラと未来への課題 

GIGAスクール構想により全国の学校に端末が配布されましたが、ネットワーク環境の不備が授業の質に影響しています。文部科学省の調査によると、必要なネットワーク速度を満たしている学校はわずか20%に過ぎません。インフラの整備は、AI技術の利活用と直結しており、教育委員会や自治体の責任が問われています。 

AI技術の進展は、個別最適な学びの実現に大きな可能性がありますが、最終的には生徒自身が主体的に学ぶ力を育むことが求められます。AIはあくまで学びを支援するツールであり、学びの主体は生徒自身です。そのため、教師はAIを効果的に活用しつつ、生徒が自らの学びを深めるためのサポートを行う役割が重要です。 

AI時代における教育は、AIやロボット技術の導入によって効率化が進む一方で、人間の教師が果たすべき役割も再定義されています。AIが得意とするデータ処理や問題生成と、人間教師の強みである対人関係の構築や生徒の動機付けをバランスよく融合させることが、これからの教育の鍵となるでしょう。教育の本質を見失わず、子どもたちにとって最適な学びの環境を整備することが求められています。 


当日は、安西祐一郎先生(中央教育審議会元会長/東京財団政策研究所元所長)、 堀田 龍也先生(東京学芸大学教職大学院教授/学長特別補佐)による講演の後、対談やワークショップ、パネルディスカッションも開催されました。イベントの後半部分は後日、掲載予定です 

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