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教員不足への場当たり的対応は悪手   国は質担保の役割を担え【前編】
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教員不足への場当たり的対応は悪手   国は質担保の役割を担え【前編】

September 7, 2022

このレビューのポイント

教員不足の解消のため、文部科学省は特別免許状の制度を活用して社会人らを教壇に送り込もうとしている。しかし、これは教育の質を度外視した悪手ではないか。国は教員の質を担保する方策を講ずるべきだ。

R-2022-036-1

前文
深刻な教員不足を受け、文部科学省は今年4月、早急に教員確保の手立てを講じるよう、全国の教育委員会に対して緊急通知を出した。柱は、特別免許状や臨時免許状の積極活用により採用を拡大するというものだ。従来の姿勢を変え、教員の門戸を一般社会人にも大きく開くことになる。だが、今のところ、目立った動きや効果は見えない。現場を預かる校長らが二の足を踏んでいるからだ。根底には、教員の質の低下に苦しむ現状への不安感がある。

「誰でもいいから教員に」
お願いベースの緊急通知
「幅広い人材」が本来の目的
笛は聞こえども踊れない
自治体は「現場尊重」
欲しいのは「スペシャリストではなくオールマイティー」

1「誰でもいいから教員に」

お願いベースの緊急通知

4月20日付の文科省緊急通知の冒頭には「教師不足[2]への対応のため、特別免許状・臨時免許状の活用などを依頼するものです」と大書されている

日本の学校で教壇に立つには、文科省に教職課程を持つことを認定された大学で学び(大学における養成)、都道府県教育委員会から教員免許状(免許状主義)を授与されていることが必要だ。教育大学・学部でなくてもいい(開放制)。免許状は、有効期限と地域で「普通・特別・臨時」の3種類に分けられる。普通免許状は大学で教員になるための教育を受けた人に授与されるもので、免許更新制の廃止により今年度から効力は無期限となった。全国どの都道府県でも有効だ。

特別、臨時免許状は普通免許状を持たない人に授与され、取得した都道府県内のみで効力を持つ。特別免許状は中学校の「英語」に外国人講師を充てるなどといった場合に出され、一定のキャリアや経験、能力が求められる。こちらも免許更新制度の廃止で、普通免許状と同じく効力は無期限となった。臨時免許状は正規の教員が確保できない場合に「例外的に授与」される。「助教諭」の扱いで、有効期間は3年だ。

緊急通知では、特別免許状について「博士号取得者や、各種競技会、コンクールでの実績、教科に関する専門的な知識経験または技能を有すると認められる資格を有する者等」に対して、「積極的に授与が行えるよう基準の緩和」をするよう「お願い」している。特に教員不足が深刻化している小学校については「複数免許の授与」にまで踏み込んだ。

何とか人数の確保をという焦燥は、臨時免許状の「適切な授与」の記述にも感じられる。「申請から授与までの手続が速やかに処理されるよう、提出書類の効率化なども含め、改めて授与手続きの迅速化に向けた検討をお願い」しているのだ。わずか1文の中に「速やかに」「処理」「効率化」「迅速化」などの文言が矢継ぎ早に重ねられている。

この通知に、教育委員会関係者は一様に驚いた。特別免許状と臨時免許状を並べ、「積極的な活用を」と訴えているからだ。臨時免許状はもともと、正規の教員を確保できない場合の員数合わせの制度。一方の特別免許状は、多様な人材を教育現場に取り込むための制度で、子どもたちの学びの質向上に寄与すると期待されている。それが一緒くたにされているのだ。

いずれにせよ、大学での養成、免許状主義という大原則を踏み越えて教壇に人を立たせることになる。文科省が従来、慎重な授与を求めてきた方針の大転換と受け止められる。

「幅広い人材」が本来の目的

特別免許状が制度化されたのは1989年。学校現場の閉鎖性を解消するための手段として導入された。臨時教育審議会の答申というお墨付きを得たとはいえ、原則にこだわる文部省(当時)はあくまで「限定的」なものと国会で強調した。

「学校教育の現状とか多様化の状況に対応いたしまして、できるだけ幅の広い人材を教育界へ誘致したいという考え方に基づいた制度でありますけれども、(略)(大学における養成、免許状主義、開放制=筆者注)の原則との調和の限りにおいて極めて限定したものとして設けている制度でございまして」「常識的には(特別免許状の教員は)そんな多くなるような事柄ではない」)[3]

その当初方針に沿い、文部省が文部科学省となった後も、特別免許状は「極めて限定」した制度として運用されてきた。それは、累計人数にも現れている。文科省のまとめによると、1989年度から2020年度までの31年間で計1685人。教員全体約92万人のうちの約0.1%に過ぎないのだ。内訳を見ると、大半は私立も含めた高校に集中している。主に外国語や看護の担当者。教員不足が特に深刻な公立小学校を見ると、39人にとどまっていた。文科省の”お膝元”ともいえる国立の小学校や特別支援学校でいずれもゼロというのは、何を意味しているのだろうか。

限定的な取り扱いは、2021年5月の改訂[4]でも踏襲されていた。特別免許状を希望する申請者をいつでも受け入れられるようにすることや、自治体側の手続きの迅速化など、「教員になりたい人」に対する便宜は図りつつ、質の担保を求める姿勢も同時に示している。「授与候補者の教員としての資質の確認」で、最初に「外国の教員資格の保有」を例示したのは、その証左だろう。しかし、今回の緊急通知に「外国の教員資格」は例示にもなかった。

ある文科省幹部は「応急処置」「絆創膏みたいなもの」と説明した。うがってみれば、長い間こだわってきた制度の趣旨を度外視してまで数の確保に乗り出した、という見方もできる。

2笛は聞こえども踊れない

自治体は「現場尊重」

NHKの調査によると、全国の公立学校での教員の欠員は2022年5月現在、2800人に上った。1年前の文科省調査より735人、38%も増えたことになる[5]。千葉県松戸市立古ヶ崎小学校では、必要な26人のうち3人の欠員が出たまま新学期を迎えたと報じられた。その結果、学校全体を見渡してカリキュラムを設計する「教務主任」が、本来はしなくてもいい学級担任も引き受け、午前7時半から午後11時まで校内を駆けずり回って勤務する状態が生じているという。

教員不足は確実に深刻度を増している。ところが、緊急通知を受けて特別免許状を出す動きは今のところ見えていない。

東京都はその一例だ(2参照)。2022年4月初め、都内の小学校1274校の4%に当たる約50校で教員配置が間に合わなかった。都教育庁選考課によると、欠員を埋めようとしたが、採用試験で補欠合格となった「名簿登載者」がすでに企業に就職していたり、他県で正規教員として勤めていたりした。こうなると当該学校で対応するしかなく、習熟度別クラスを担当している専科教員らが学級担任になるなどしている。それでも、緊急通知を受けた動きをしていない。

特別免許状の授与の手続きは、校長の推薦から始まる。「◯◯さんをうちの学校で採用したい」という推薦状が任命権者の自治体に出される。都の場合、2度の書類審査の後、面接を経て、約1か月で特別免許状が交付される段取りだ。都も含め自治体自体が推薦書を出すことは可能だが、「現場から求められてもいないのに、免許状主義を曲げて押し込むことはできない」(都教育庁選考課)。現場のニーズがなければ、何も始まらないのだ。

欲しいのは「スペシャリストではなくオールマイティー」

その現場は、緊急通知をどう受け止めているのか。喉から手が出るほど教員は欲しいはずだが、反応は厳しい。校長たちは異口同音に「免許状のない人に子どもたちを任せるのは怖い」と話す。

これまでも、理科や数学、実技系の教員確保にたびたび頭を抱えてきたという都内の中学校長は、特別免許状の前提からして否定的だ。「特別免許状は人材供給の(量的)手段ではないはず」とキッパリ。欠員補充には、退職教員に電話をしたり、教員養成系大学に追加で求人を出したりするなど、一般的な方法しかないとする。

学生や地域住民らが毎日のようにボランティアとして出入りしている都内の小学校の校長も、教員数確保のための特別免許状活用は視野にないという。かつて臨時免許状の教員で苦い経験をしたことがあり、より慎重になっているとか。「人としてのよさと、教員として教壇に立たせられるかどうかは別問題」「小学校でほしいのは、担任を任せられるオールマイティー。スペシャリストではない」と話す。

とはいえ、教員免許状に対する絶対的な信頼があるわけではない。「いま以上のリスクを抱えられないから」と別の小学校長は本音を漏らす。「免許状があって採用選考を通っていても、どうにもならない教員がいっぱいいる。このうえ免許状のない人なんて……」。

同校長によると、校長たちの集まりの場で必ず話題になるのは、「教員の能力の低下」だ。校長や他教員が見学に来る研究授業でさえも、誤字脱字や、誤った書き順で漢字を書くのはザラ。基礎学力だけでなく、子どもたちと目を合わせられない、一人ひとりに柔軟な対応ができず、一律の教え方をゴリ押しする教員も目立つらしい。その結果、保護者とのトラブルに発展したりする。校長たちは質の問題にも頭を抱えているのだ。

「教員不足への場当たり的対応は悪手 国は質担保の役割を担え【後編】」に続く)


[1] 本稿は拙稿「文科省緊急通知の衝撃」(月刊誌『FACTA』2022年7月号)に加筆した。

[2] 文部科学省.「教師不足」に関する実態調査.令和41
https://www.mext.go.jp/content/20220128-mxt_kyoikujinzai01-000020293-1.pdf

[3]文部省教育助成局長=当時、第113回国会 衆議院文教委員会1988112
https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=111305077X00719881102&spkNum=11#s11

[4]「特別免許状の授与に係る教育職員検定等に関する指針」 文部科学大臣の諮問機関、中央教育審議会の答申を受けて、2021511日に改訂した。

[5]NHK NEWSWEB「残業月90時間 学校がもう回らない 教員不足全国2800人の現実」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220802/k10013747241000.html, (202282)

 

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