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【特別企画:研究員に訊く!】新型コロナウイルス感染症拡大が与える世界経済・中国経済への影響(後編)
写真提供:GettyImages

【特別企画:研究員に訊く!】新型コロナウイルス感染症拡大が与える世界経済・中国経済への影響(後編)

March 25, 2020

中国経済が、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて大きな打撃を受けている。中国国家統計局が316日に発表した202012月の工業生産など主な経済統計は、いずれも統計を遡れる範囲で初めて伸び率がマイナスであった。13月の国内総生産(GDP) の成長率もマイナスの公算が大きくなっている。

今回も特別企画として、中国経済やグローバルサプライチェーンに詳しい、対中国戦略研究ユニットの柯隆主席研究員に、新型コロナウイルスの感染拡大が主に中国経済へ与える影響について訊ねてみた。

後編:中国経済への影響について

― 3月16日に中国国家統計局が発表した主な経済統計(2020年1~2月「工業生産」「小売売上高」「固定資産投資」)で、統計を遡れる範囲で初めて伸び率がマイナスとなりました。また、1~3月の国内総生産(GDP)の成長率もマイナスの公算が大きくなりましたが、この状況についてどのように捉えていらっしゃいますか?

新型コロナウイルスの感染拡大による問題は、中国が起点となり世界中へと広がった。そのため、中国経済が今後実際にどれだけの影響を受けるのか、世界各国が注目している。

中国経済の減速自体はある程度想定されていたが、今回発表された主要統計でここまでの大きな落ち込みになったことは、想定外といえるだろう。逆に言うと、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした傷の深刻さを改めて認識させられたと感じている。 

― 中国では新型コロナウイルスの感染は既にピークアウトしたと言われていますが 、中国経済はこれから V 字回復していくのでしょうか?

中国政府は、中国ではコロナウイルスの感染拡大がピークアウトしたと発表している。しかしながら、WHOによる検証はまだされていない。本当にピークアウトしたのであれば、WHOの専門家が中国に入り、確認や検査をしなければならないと私は考えている。

では、本当にピークアウトしたかどうかは別として、中国政府がなぜ慌ててピークアウトを発表しなければならなかったのか。それは、このまま街を封鎖し続けて企業や工場が稼働できない状況を早急に脱したかったためである。これ以上、稼働が出来ない状況が続くと、更に沢山の企業が倒産するだろう。企業の倒産が相次ぎ、従業員の失業が増え、社会不安が深刻化すると中国共産党にとって国を統治していくのが難しくなる。政権を揺るがす事態だけは避けたいというのが、今回のピークアウトを発表した真意であろう。

しかし、ピークアウトを発表して人々が動き出した場合、新型コロナウイルスの感染拡大抑止という観点ではジレンマに陥る。新型コロナウイルスの一つの特徴として、感染後に一度完治しても再度感染するという報告もある。徹底的にウイルスが抑え込まれるのを待ってから企業や工場を再稼働させるか、再稼働させながらウイルス撲滅の対策を打つのかの2択で、中国政府はリスクを取って後者を選択したのである。

このような文脈を踏まえると、企業活動や工場を再稼働したことで、中国経済が本当にV字回復していけるかどうかは、もう少し冷静に見る必要があると考えている。

― 中国経済のさらなる減速というのは 、世界経済へ大きな影響を与えると思うのですが、いかがでしょうか?

前述のように中国は「世界の工場」の役割を果たしており、世界の多国籍企業のほとんどが中国に工場を持っている。安い人件費が中国の投資環境としての魅力であり、それを享受するために各国は中国に投資をしてきた背景がある。中国の投資環境としての魅力はもう一つ、「世界の市場」としての可能性だ。2019年中国の一人当たりGDPは初めて1万ドルを超えた。これはつまり、中国は今後「世界の工場」であると同時に「世界の市場」にもなっていくと考えられているのである。

このようにグローバルな経済圏における中国の位置づけを鑑みると、今回の新型コロナウイルス感染症による危機が引き起こした中国の景気減速は世界経済、特に東アジアでは日本や韓国の経済に深刻なダメージを与えると考えられる。

中国に依存したグローバルサプライチェーンの構造はリスクが高いことが明らかである。しかし、中国の工場としての魅力やこれからの市場としての魅力に、取って代わるような国が見つからないのも現状だ。これから世界経済が受ける影響も当然大きいであろうが、中国と今後どういった付き合い方をしていくのか、改めて考える必要があるだろう。

― 日本も中国と深い結びつきがありますが、今後日本はどのように対応していけばよいのでしょうか?

おそらく今、日本の経営者やビジネスパーソンの頭の中を毎日よぎるのが、チャイナリスクにどう対応するかだろう。中国に魅力があるのは事実であるが、同時に高いリスクがあることが、此度の事態で浮き彫りになったともいえる。今回の危機はウイルスという天災がきっかけではあるが、天災としてだけでは事態の深刻化の説明がつかず、実際のところは人災とも言って過言ではない中国国内の対応により、状況が悪化したとみている。その一つに、正しい情報の適時開示がなされていなかったことが挙げられる。中国国内で突然に街が封鎖された際に、周辺諸国、例えば繋がりが深い日本などへの事前の周知はなく、何の備えも出来ない状況であった。このような点もいざという時に中国が孕んでいるリスクと言えよう。

新型コロナウイルスの感染拡大が治まれば、おそらく習近平国家主席は日本を訪れるだろう。安倍首相と習近平国家主席の間で、有事の際の連携などについて対話をし、今後このようなトラブルや危機を解決するメカニズムについて日中間で取り決め、有事に備えていく必要があると私は考えている。

 

前編はこちら(世界経済への影響について)

2020年3月19日時点(聞き手:東京財団政策研究所 広報)

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