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11月11日研究会報告「財政・社会保障の再生プラン-財政の持続可能性と世代間公平の同時達成に向けて-」

November 30, 2010

11月11日、小黒一正 一橋大学経済研究所准教授より「財政・社会保障の再生プラン-財政の持続可能性と世代間公平の同時達成に向けて」に関して報告を受け,その後メンバーで議論を行った。

1.成長で財政再建はできない

ドーマー条件を使って、公的債務残高が改善するために必要な一人当たりの実質GDP成長率を計算すると、利子率1%・基礎的財政収支が4%の赤字という緩めの仮定であっても、3.7%という結果になる。経済成長論における収束仮説が正しいならば、日本で想定できるのは2%程度であり、3.7%にははるかに及ばない。しかも、これは金利が成長率より恒久的に低いという想定を設けた場合であって、実際には一定の確率で金利は成長率を上回る。また、金利が上昇する事態になり、例えば4倍程度になったとすればそれだけで30兆円の赤字が発生する。さらに、事業仕分けで明らかになった埋蔵借金や、顕在化していない社会保障の暗黙の債務も考慮に入れれば、成長だけの財政再建は明らかに無理であり、その先送りのツケは将来世代や若い世代に押し付けられることになる。

2.再生プラン

今の財政が悪化している原因は、社会保障予算の膨張という点に尽きる。現制度では、単純に現役から老齢世代への移転になっているため、資金が投資に回らず将来の成長を阻害することにもなっている。このような事態を防ぐためにも、第一に社会保障予算を他の予算と切り分ける(ハード化する)必要がある。この際、世代間格差を改善するために、高齢化の進展に備えた事前積立を導入するのが望ましい。その上で、管理競争を導入していき、社会保障についても民間によるゆるやかな市場メカニズムを導入していく。これにより、政府は保険料の幅や最低限の保険内容などについては規制をかけつつも、所得再分配・リスク調整・健全な保険市場の確立などの役割に特化することができる。保険者のリスク選択を防ぐためには、リスク構造調整プレミアムなどの制度が有益である。

3.改革を阻む「神話」への反論

社会保障安定化のための増税は、全てが負担になるわけではない。「真の負担」とは、「現役期に払った負担-老齢期に受け取る受益」である。現状の賦課方式の下では、社会保障安定化のための増税は若い世代の負担を増加させるだけなので、社会保障のハード化と事前積立の導入が必要となる。また社会保障改革は成長にマイナスという議論もあるが、事前積立の導入は現役世代にとっての強制貯蓄となるため、この改革によって成長は促進される可能性もある。また、財源として消費税を考えた場合は逆進性が問題となるが、これは適切な所得再分配を行えば解決できる問題である。

4.議論

・世代間格差を均そうとするときに、完全に積立方式に移行する必要はない。
・ドイツでも管理競争が導入されていたが、保険内容の差について国民の不満もあり、一元化されることとなった。
・事前積立を導入する段階で、「二重の負担」が発生するが、これは長期で均すことで、小さくすることができる。
・事前積立の導入は保険料の引き上げによるものと思われるが、社会保障は現状でも赤字で一般会計の役割が大きい。保険料の引き上げは難しいのでは。
・社会保障負担の引き上げは、将来的には戻ってくるもの。

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