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「診療報酬の自動調整メカニズム」の具体的なイメージについて

April 19, 2018

先般、日本経済新聞(2018年3月30日・朝刊)で、「自民党の財政構造のあり方検討小委員会(小委員長・小渕優子元経済産業相)は29日、財政健全化に向けた中間報告書を発表した。「国民皆保険を次世代に引き渡さなければならない」とし、現役世代の人口減少に応じて患者への医療給付を自動的に抑える新制度の導入などを提言した」旨の報道があった。

この提言の詳細は不明であるが、前回のコラムで筆者が提言した「診療報酬の自動調整メカニズム」に近い制度である可能性もある。そこで、今回のコラムでは、診療報酬の自動調整メカニズムについて、もう少し考察してみたい。

まず、前回のコラムでも説明したが、診療報酬の自動調整メカニズムとは、「マクロ経済スライドと同様、例えば、現役世代の人口減や平均余命の伸び等を勘案した調整率を定めて、その分だけ、全体の総額の伸びを抑制する」というものであった。

具体的には、ある診療行為を行った場合に前年度Z点と定めている全ての診療報酬項目の点数を、今年度では「Z・(1-調整率)点」と改定するというものである。

では、調整率のイメージはどうか。財務省の財政制度等審議会財政制度分科会が起草検討委員の提出という形で公表した「我が国の財政に関する長期推計」(平成27年10月9日)によると、医療給付・介護給付費(対GDP)は、2020年度頃に約10%(医療約8%、介護約2%)であったものが、2060年度頃には約16%(医療約10%、介護約6%)に上昇する。

40年間で医療・介護合計では約6%(医療のみでは約2%)の上昇のため、1年間の上昇は平均で0.15%(0.05%)であるから、その上昇を抑制する調整率は0.15%(医療のみでは0.05%)に過ぎない。

なお、厳密には、上記調整以外の診療報酬等の改定がある場合、医療給付・介護給付費(対GDP)の伸びは「高齢化等の要因による需要の伸び-経済成長率+診療報酬等の改定による伸び」となる。

例えば、医療保険制度おいて、実質的な自己負担率をθ、各々の診療報酬をpj、それに対する医療サービス量をqjとするとき、医療給付費の総額は概ね以下となる。

その際、診療報酬の改定を行い、 pjpj´pjΔpjとし、高齢化の進展等で医療サービス量がqj からqj ´=qjΔqjに増加する一方、実質的な自己負担率θが変化しないとすると、医療給付費総額の伸び率は以下となる。

その期間、国内総生産(GDP)がYからY+ΔY(1+g)に増加すると、医療給付費総額(対GDP)は以下となる。

この式は、医療給付費(対GDP)の伸びは「高齢化等の要因による需要の伸び-経済成長率+診療報酬等の改定による伸び」となることを表し、それは介護給付費(対GDP)も同様である。括弧内の第2項が「高齢化等の要因による需要の伸び」、第3項が「経済成長率の影響」、第4項が「診療報酬等の改定による伸び」を意味する。

このため、「高齢化等の要因による需要の伸び-経済成長率」のみでなく、「診療報酬等の改定による伸び」も制御する必要があるが、この問題については、次のようなルールを導入することで解決できよう。そのルールとは、「医療・介護サービスの需要が変化しないという条件の下で、医療給付・介護給付費の総額が増加しないように診療報酬等の改定を行う」というものである。

これはかなり緩い条件であるが、このようなルールを導入すれば、括弧内の第4項の影響は存在しなくなる。このルールの下では、医療給付・介護給付費(対GDP)の伸びは「高齢化等の要因による需要の伸び-経済成長率」のみとなり、この年間平均の値が0.15%であるから、調整率を0.15%とすればその伸びを抑制できる可能性がある。

もっとも、経済成長率の前提も重要である。財務省の「我が国の財政に関する長期推計」では、2024年度以降の成長率は、年金の財政検証(2014年6月)におけるシナリオA~Eの成長率を前提にしており、その実質GDP成長率は2024年度以降20~30年で1.4%~0.4%となっている。このため、実質GDP成長率が0.4%を下回ると、診療報酬に対する調整率は0.15%から若干乖離するはずである。2060年度に向けて、いまの生産性のままでは、人口減少などの影響で実質GDP成長率がマイナスの値をとる可能性もある。

このようなリスクも念頭に置き、制度設計を行う必要があることは言うまでもないが、ある程度の経済成長があれば、一定程度の調整率を診療報酬に掛けることで、医療給付・介護給付費(対GDP)の伸びを抑制できる可能性があることは確かであり、経済財政諮問会議や財務省・厚労省などにおいても、診療報酬の自動調整メカニズムについて本格的な議論を開始してみてはどうだろうか。

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