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急増する貧困高齢者と生活保護費の簡易推計

September 21, 2018

財政が担う機能の一つに「所得再分配」機能があるが、財政が破綻すれば、この最も重要な「所得再分配」機能が著しく低下してしまう可能性も否定できない。憲法25条では、「(1)すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 (2)国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とし、最低限のセーフティーネットとして生活保護を張っているが、そのときの急激な歳出削減などで最も被害を受けるのは、このような生活保護を受けている「弱い立場」の国民(その両親をもつ子供も含む)であろう。そのような事態にけっして陥らないよう、最悪の状況も想定しつつ、いまから社会保障・税一体改革をしっかり進めて、財政を再建しておく必要がある。

一般的に「生活保護」というと、他人事のように思われがちだが、データを精査すると、貧困高齢者等が急増している。例えば厚労省「被保護者調査」によると、2015年において、65歳以上の高齢者は約3380万人いたが、そのうち2.9%の約97万人が生活保護の受給者である。すなわち、100人の高齢者のうち3人が生活保護を受ける貧困高齢者である。1996年では、約1900万人の高齢者のうち、1.5%の約29万人しか生活保護を受給していなかったので、貧困高齢者は毎年3.5万人の勢いで増え、20年間で約70万人も増加したことを意味する。

高齢者の貧困化が進んでいる背景には、低年金・無年金が関係していることは明らかだが、50歳代の約5割が年金未納であり、今後も増加する可能性が高い。

では、今後、貧困高齢者はどう推移するのか。正確な予測は難しいため、一定の前提を置き、簡易推計を行ってみよう。まず一つは「高リスクケース」である。65歳以上高齢者の「保護率」(65歳以上人口のうち生活保護の受給者が占める割合)は、1996年の1.5%から2015年で2.9%に上昇しており、その上昇トレンドが今後も継続するというケースである。

もう一つのケースは「低リスクケース」で、65歳以上高齢者の「保護率」が2015年の値と変わらずに一定で推移するというケースである。

以上の前提の下で、国立社会保障・人口問題研究所の「将来人口推計」(平成29年推計、出生中位・死亡中位)を利用し、65歳以上の被保護人員(生活保護を受給する高齢者)の予測したものが、上記の図1「貧困高齢者数の予測と生活保護費の簡易推計」である。

低リスクケースでは、65歳以上の被保護人員は、2015年の約97万人から2050年に約110万人に微増するだけだが、高リスクケースでは2048年に200万人を突破し、2065年には215万人にも急増する。2065年の65歳以上人口は約3380万人であるから、215万人は6.4%で、100人の高齢者のうち6人が生活保護を受けている状況を意味する。

しかも、現実はもっと厳しい可能性もある。現在、現役世代の3人に1人は非正規労働者であり、65歳未満の「保護率」(65歳未満人口のうち生活保護の受給者が占める割合)についても、1996年の0.5%から2015年で1.2%に上昇している。このため、65歳以上の高齢者と同様、65歳未満についても2つのケースが考えられる。

まず一つは「高リスクケース」で、65歳未満の保護率の上昇トレンドが今後も継続するケースである。もう一つは「低リスクケース」で、65歳未満の「保護率」が2015年の値と変わらずに一定で推移するケースである。このうち、高リスクケースでは、2015年の約115万人であった「64歳未満の被保護人員」は、2030年に150万人を突破し、2065年には176万人にも急増する。2065年の64歳未満人口は約5400万人であるから、176万人は3%で、100人の64歳未満人口のうち3人が生活保護を受けている状況を意味する。

では、生活保護費はどう推移するか。2017年度における生活保護費の総額は約3.8兆円で、約214万人が生活保護を受給している。一人当たり平均の生活保護受給額(名目)が一定で変わらないという前提の下、既述の「高リスクケース」と「低リスクケース」で生活保護費の総額を簡易推計したものについても上記の図表に描いている。低リスクケースでは2025年頃までは概ね4兆円弱であるものの、それ以降では緩やかに減少し、2065年には2.9兆円になる。だが、高リスクケースでは、2029年に5兆円を突破し、2067年には6.7兆円にまで増加する。

なお、この簡易推計は、年金のマクロ経済スライドの影響は一切考慮していない。年金のマクロ経済スライドは、2015年度に一度しか発動されていないが、これが継続的に発動されれば、低年金の高齢者が増加する可能性がある。年金のマクロ経済スライドは年金財政の持続可能性を高めるために必要な措置で早急に実施することが望ましいが、将来(例:2030年・40年)の年金分布を予測しながら、年金制度・生活保護との役割分担やその財源のあり方を含め、社会保障改革の「哲学」を再検討する必要はないだろうか。

その上で、財政の再建をしっかり進める必要がある。財政再建の本当の目的は、財政の持続可能性のためにあるのではなく、本当に困った将来の人々を救済できる余力を残すことこそにある。

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