P-2023-005
現代の科学技術政策は、個別技術の研究開発だけを対象とするのではなく、イノベーションという概念が強調されていることからもうかがえるように、さまざまな分野における社会変革との緊密な連携が求められている。このような方向性は、トランスフォーマティブ・イノベーションに言及している第6期科学技術・イノベーション基本計画(2021年~)においても明らかである。そのような中で、科学技術政策を担う政策システム自体の再構築が求められている。科学技術政策システムのあり方について、(1)分野間連携、(2)国際関係、(3)官民関係の、相互に関連する3つのレベルで、どのような変化が進行しつつあるのかを、国際比較も踏まえて検討し、日本の今後の科学技術政策システムのあり方を提言する。
トランスフォーマティブ・イノベーション政策への国際的関心が高まりつつある中、日本においても戦略的イノベーション創造プログラム(SIP: Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)、ムーンショット研究開発制度などといったミッション志向型イノベーション政策(MOIP: Mission Oriented Innovation Policy)に内閣府レベルで取り組んできた。また、各省が主導するプログラムの中にもMOIPの性格を持つものがある。このようなプログラムが機能するためには、内閣府のMOIP内部あるいは内閣府のMOIPと各省等のプログラムとの間、あるいは各省のプログラム相互間の実効的な分野間連携体制の構築とプロセスの整備が不可欠である。また、このような分野間連携が求められている分野としては、規制・競争政策と安全保障がある。科学技術政策と規制・競争政策、科学技術政策と安全保障の統合・調整が求められており、その必要性は近時のプラットフォームの受容性の増大や地政学的対立の激化によりさらに高まっている。
国際関係としては、安全保障環境、国際産業競争などといった複数の側面で、科学技術政策との調整が必要となる。その際、追求される目的は複数目的とならざるを得ず、国際協力を維持するのか否かについてもグレーな対応を求められることになる。このような複数目的をめぐるグレーな対応が不可避な国際対応に伴う調整は、国内の分野間調整と密接に関連することとなる。
技術進展のスピードの速い新興技術においては、政府だけが十分な知識・情報を持ち規制や対応を行うことは困難であり、民間の被規制者である研究開発側(企業、研究者等)が情報提供や課題設定に参加することが不可欠である。そのために、情報共有の透明性を確保しつつ、被規制者が公的観点を踏まえて課題設定を行い、一部関係者によるキャプチャー(規制の虜)を避けるためのメカニズムとして、「責任あるロビイング(responsible lobbying)」を確立することが必要である。
目次
- 序 文
- 第1章 トランスフォーマティブな科学技術イノベーション政策―ミッション志向型イノベーション政策の制度設計と運用
(東京財団政策研究所研究主幹/東京大学大学院法学政治学研究科教授 城山英明) - 第2章 科学技術政策と規制政策・競争政策の統合に向けて
(東京財団政策研究所研究主幹/大阪大学データビリティフロンティア機構・社会技術共創研究センター教授 岸本充生) - 第3章 新たな安全保障時代における科学技術政策の新次元
(東京財団政策研究所研究主幹/東京大学公共政策大学院教授 鈴木一人) - 第4章 科学技術政策における官民関係の変容―医療を事例として
(東京財団政策研究所主任研究員/神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科兼イノベーション政策研究センター講師 黒河昭雄) - 第5章 トランスフォーマティブなミッション志向の科学技術・イノベーション(STI)政策―プロセスデザインと従来のSTI政策への含意
(東京財団政策研究所主席研究員/東京大学公共政策大学院特任准教授 松尾真紀子)
提言全文
社会課題対応のための科学技術政策システムの再構築(PDF:2.03MB)