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第二次トランプ政権で導入される規制改革はどのようなものになるだろうか
画像提供:Getty Images

第二次トランプ政権で導入される規制改革はどのようなものになるだろうか

December 26, 2024

R-2024-072

1.はじめに
2.第一次トランプ政権の規制改革
3.バイデン政権の規制改革
4.第二次トランプ政権の規制改革

※本稿は20241223日時点の情報を基に執筆しています。

1.はじめに

2025120日に第二次トランプ政権が発足する。大統領選挙での勝利を受けて、マスク氏とラマスワミ氏による政府効率化省(Department of Government Efficiency: DOGE)が立ち上げられ、政府の外から、しかし大統領府の行政管理予算局(Office of Management and Budget: OMB)と密に連携しながら小さな政府を目指すという[1]DOGEでは3種類の改革、すなわち規制撤廃、行政削減、費用節減が掲げられた。マスク氏らは、現在の米国の規制が選挙で選ばれたわけではない官僚に主導されていることが「建国者のビジョン」に反していると批判している。しかしながら、選挙で選ばれたとはいえ、大統領が何でも自由にできるわけではない。規制を策定するにしても、緩和・廃止するにしても、定められた手続きを踏む必要があり、その中心である規制影響分析(Regulatory Impact AnalysisRIA)は40年以上、幾度の政権交代を経ても維持され続けている、いわば民主主義のインフラである[2]。重要な規制が強化される場合には、その規制強化によって得られる便益が、規制遵守費用を「正当化する(justify)」必要がある。規制緩和・廃止の場合も同様である。RIAは、提案段階と最終段階の二度、作成・公表されることになっている。

本稿では規制改革に焦点を当てて、第二次トランプ政権の規制改革の展望を検討するために、第一次政権からの流れを振り返る。第2節では第一次トランプ政権の規制改革を振り返り、第3節ではそれに対するバイデン政権の規制改革をまとめる。そして第4節において第二次トランプ政権が実施するであろう規制改革のメニューを検討する。

2.第一次トランプ政権の規制改革[3]

トランプ大統領は就任直後の2017130日に大統領令13771号「規制を削減し、規制費用を抑制する(Reducing Regulation and Controlling Regulatory Costs)」を公布し、連邦行政機関が1つの新しい規制を公布する際には必ず、少なくとも2つの現行の規制を廃止するルール( “two for one”ルール)が導入された。また、規制の「数」に加えて、連邦行政機関ごとに、新規規制の規制遵守費用の増分が、現行規制を廃止することで生み出される規制遵守費用の削減分を上回ってはならないというルールも課された。さらには、連邦行政機関ごとに、通常の予算と同様に、規制遵守費用の年間上限をあらかじめ設ける「規制予算(regulatory budget)」を導入した。これらは長年、RIAが定着し、規制遵守費用の推計が行われてきたからこそ可能な制度である。こうした手続きに対しては、すでに定着しているRIAに屋上屋を架すものであるという批判も多く見られたし、実際に削減された規制は実質的に機能していない古い規制が多かったり、新規規制が抑制されたかどうかは分野によって大きな差が見られたりしたことも指摘されている。しかし、既存規制の見直しのための1つの手法として、当時はすでに英国でも実績があり、その後EUでも試行されている。また、同年224日には大統領令13777号「規制改革アジェンダを実施する(Enforcing the Regulatory Reform Agenda)」を公布し、不必要な規制負担を軽減するために、各省庁に規制改革オフィサー(regulatory reform officer)と規制改革タスクフォース(regulatory reform task force)を設置することを指示した。

他方で、RIAもきちんと運用されており、例えばオバマ政権時に成立した、既設の石炭火力発電所からのCO2排出削減規制(「クリーンパワー計画」)の廃止を提案する際にも、規制廃止のRIAが実施され、便益(=遵守費用の削減)が費用(=便益の喪失)を正当化することが定量的に示された[4]。もちろんオバマ政権での分析の前提とトランプ政権での分析の仮定やスコープが異なるために異なる結論が導かれたのであるが、それらの前提条件の違いもRIA文書に明示されており、政策決定の高い透明性が保たれていたと評価することができる。他にも、トラックからの排気ガスの規制を緩和する際に、実施すべきRIAを環境保護庁が実施していなかったケースで、同庁内の監察官室(Office of Inspector General : OIG)がその旨を適切に指摘し、実施を指示した事例もあった。

3.バイデン政権の規制改革[5]

2021120日、バイデン大統領は就任と同時に多数の大統領令(Executive Order)や覚書(Memorandum)を公布した。トランプ政権末期に駆け込みで成立した規制の施行を据え置くための覚書に加えて、規制政策に関してもいくつかの重要な大統領令を公布した。1つ目は “two for one”ルールや規制予算など、トランプ政権の目玉施策の根拠となった6つの大統領令を取り消す大統領令13992号である。2つ目は大統領令13990号「気候危機に取り組むために公衆衛生と環境を保護し、科学を取り戻す(Protecting Public Health and the Environment and Restoring Science To Tackle the Climate Crisis)」の公布であり、トランプ政権で導入されたすべての措置(規制、指針文書、政策、その他)を本大統領令の第1節で定義された環境正義(environmental justice)との整合性の観点から審査し、問題がある場合は停止・改訂・廃止を検討するよう省庁に要請した。3つ目が今後の規制審査の理念を提示した「規制審査を最新化する(modernize)」ための「情報及び規制問題室(Office of Information and Regulatory Affairs : OIRA)」[6]宛ての覚書[7]である。この覚書では、トランプ大統領が導入した規制改革をすべて廃止し、クリントン大統領以来の大統領令12866号とオバマ大統領が公布した大統領令13563号に立ち返ることが冒頭で宣言された。

ところがその後のバイデン政権の動きは遅く、OIRA室長が任命されたのは就任から1年半経過した20229月(議会承認が得られたのは年末)であった。20234月にようやく大統領令14094号「規制審査を最新化する(Modernizing Regulatory Review)」を公布し、多様なステークホルダーの包摂や彼らの規制策定プロセスへの参加、また分配的側面への考慮が強調された。そして、それらを具体的に実施するため、連邦省庁向けのRIAガイダンス(Circular A-4)を20年ぶりに改訂する提案を行い、パブリックコメントを経て、202311月に改訂された[8]。しかしこの改訂に対しては、客観的で非党派的な原則に基づいているからこそ大統領や政党が変わっても政策決定のための重要なインフラとして40年以上重宝されてきたのであり、特定の価値観を反映させてしまってはこれまで築いてきた安定を損なってしまうという批判が、経済学者を中心に続出した[9]

4.第二次トランプ政権の規制改革

2025120日の就任式直後に、前政権の大統領令をことごとく廃止し、新たな大統領令を多数公布することが予想される。トランプ次期大統領はすでに規制を削減することを公言しているため、規制政策関連のものも多数含まれているだろう。ただし、大統領令は宛先が行政機関に限られるためできることは限られている。初日にすべての規制活動を一時停止し、まだ連邦官報に掲載されていない規制を停止させ、再審査されることが慣例となっている。また、第一次政権時の “two for one”ルールと同様であるが、数字が2よりも大きくなるルールが導入されると想定される。すでにトランプ氏は、新しい規制が1つ導入されるたびに既存規制を10個廃止する(“ten for one”)という発言をたびたび行っている。ただし実際に規制を廃止するためにも手続きに従う必要があることは先にも述べたとおりであり、影響の大きな既存規制の廃止はそれほど容易ではない。規制予算の制度も再び導入される可能性が高い。規制審査の長であるOIRA室長に誰が任命されるのかも注目される。バイデン政権が改訂したばかりのガイダンス(Circular A-4)の再改訂も十分に考えられる。

 


[1] Musk E and Ramaswamy V (2024). The DOGE plan to reform government. The Wall Street Journal, 20 November. https://www.wsj.com/opinion/musk-and-ramaswamy-the-doge-plan-to-reform-government-supreme-court-guidance-end-executive-power-grab-fa51c020

[2] 米国をはじめとする各国のRIAの歴史と現状については、岸本充生「規制影響評価(RIA)の活用に向けて:国際的な動向と日本の現状と課題」経済系 : 関東学院大学経済経営学会研究論集 275, pp.26 – 44, 201811月.に詳しい。

[3] 第一次トランプ政権の3年目までの規制改革の内容については、岸本充生「トランプ政権における規制改革規制影響分析(RIA)とレギュラトリーサイエンスの役割」季刊評価クォータリー 53, pp.3-13, 20204月.にまとめられている。詳しくは米国Competitive Enterprise Instituteによる年次レポートである、Crews Jr., C. W. Ten Thousand Commandments: An Annual Snapshot of the Federal Regulatory State, 2021 Edition. Competitive Enterprise Institute. https://cei.org/wp-content/uploads/2021/06/Ten_Thousand_Commandments_2021.pdf を参照。

[4] オバマ政権での規制導入のRIAとトランプ政権での規制廃止のRIAの比較については、岸本充生「環境規制における規制影響分析(RIA)の進展と課題:米国の石炭火力発電所規制を例に」環境情報科学 48(1), pp. 49 – 54, 20193月.を参照。

[5] 2021年初頭の状況については、岸本充生「米国バイデン政権が打ち出した規制改革の方向性」(2021326日)https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/397046/a85f52249ab4cc8cf5ee956f9d58f2c3?frame_id=858046 を参照。2023年に入ってからは、岸本充生「米国バイデン-ハリス政権による規制システムの最新化の提案(202346日)についてのメモ」(2023416日)https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/397046/3d580017e180eea0b465c68181e4ef46?frame_id=858046 を参照。

[6] 大統領府にある行政予算管理局(OMB)の中にあり、すべての規制とそれらのRIAを審査する機関である。オバマ政権時代、その室長をキャス・サンスティーン氏が務めた。

[7] Memorandum for the Heads of Executive Departments and Agencies, Modernizing Regulatory Review, January 20, 2021.https://www.whitehouse.gov/briefing-room/presidential-actions/2021/01/20/modernizing-regulatory-review/

[8] パブリックコメントを受けて修正された最終版が大統領府のサイトに掲載されている。U.S. Office of Management and Budget, Circular No. A-4 (November 9, 2023) https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2023/11/CircularA-4.pdf

[9] 費用便益分析学会の歴代会長が連名で草稿に対してコメントを発表した。Former SBCA presidents on Circular A-4 (August 28, 2023https://www.benefitcostanalysis.org/assets/docs/Letter%20from%20former%20SBCA%20Presidents%20and%20JBCA%20editors.pdf を参照。

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