
E-2024-029
◆開催要旨
■テーマ:「科学技術イノベーション政策を担う『つなぐ』人材とその能力育成」
■日時:2025年3月14日(金)16:00~18:20
■会場:東京財団政策研究所/Zoomウェビナーによる同時配信
近年の科学技術イノベーション政策においては、イノベーションという概念が強調されることからもわかるように、様々な分野における社会変革との密接な連携というものが求められている。ミッション志向型イノベーション政策のプログラムでは、科学技術政策と各分野の縦割り政策のつなぎが求められている。また、科学技術政策と各分野の縦割り政策のつなぎに加えて、科学技術政策と安全保障政策、あるいは競争政策、地域政策といった横割り政策間のつなぎも重要になってきている。さらに、宇宙とサイバーといったような複数の個別科学技術領域のつなぎというものも、新たなフロンティアであることが認識されるようになってきている。さらに、科学技術の実質的な担い手は民間セクターであるということもあり、政府部門と民間セクターをどうつなぐか、こういうつなぎも重要になってきている。以上のような様々な次元におけるつなぎを確保していくためには、もちろん公式的な制度の仕組みというものも重要であるが、それだけではなくて、その運営の仕組みを担う、つなぐ人材の確保と能力育成が重要になってきている。
本国際ワークショップでは、まず研究代表者の城山研究主幹から、これまでの研究に基づく総括報告が行われた。その上で、科学技術イノベーション政策の現場で、まさにこのようなつなぐ役割を実践してこられた内閣府の永澤氏、また航空宇宙研究開発機構の伊奈氏から、現場の事例について紹介が行われた。その上で、研究メンバーの鈴木研究主幹、松尾主席研究員から、様々な分野においてこのようなつなぐ人材を育成し、活かしていくための具体的な仕組みのあり方、あるいは課題について、戦略的インテリジェンスというキーワードをめぐって、問題提起・提案があった。最後に、国際的な実践も踏まえて、OECDのTõnurist氏、パリ経営大学院のAlemanno氏から、このようなつなぐ人材を育成・活用していくための公共管理、あるいはアカデミック・エンゲージメントのあり方という観点から、コメントをいただいた。その上で、研究プログラムメンバーの岸本研究主幹、黒河主任研究員、中澤主任研究員も含めて、議論を行った。
以上のような国際ワークショップを通じて、以下のような示唆が得られた。
第1に、「つなぎ」の類型として、横割り政策と縦割り政策間のつなぎ、横割り政策間のつなぎ、個別科学技術領域間のつなぎという3つの類型を提示したが、個別科学技術領域については、宇宙やサイバーといった技術領域に対して内閣官房・内閣府レベルで組織が設置されていることからもわかるように、横割り政策としての側面を持っていることが明らかになった。従って、「つなぎ」の類型は横割り政策と縦割り政策間のつなぎ、横割り政策間のつなぎの2つで十分なように思われる。
第2に、「つなぐ」能力には、政策の段階に応じて、若干異なる能力が必要であることが明らかになった。一方では、政策サイクルの上流段階での「つなぐ」能力、すなわち、ある種の政策企画力、すなわち、問題を定義して、関係者と連携するという能力がある。他方、最近では総合科学技術・イノベーション会議が具体的なプロジェクトの実施を担っていることからもわかるように、下流段階における実施能力も重要になってきている。従来は、政策サイクルの上流で求められる能力と下流で求められる能力が分離していた面もあったが、近年はセットでマネジメントする能力が求められているようである。
第3に、OECDのTõnurist氏が紹介した、ミッションを実施していくためのガバナンスなり仕組みがきちんとしているのかどうか、あるいは担い手となる人材に能力があるかどうかをチェックするメタレベルのメカニズムの必要性が示唆されたように思われる。個々のミッションを達成するシステムが適切か否かは個々のミッションごとにチェックすればいいのだが、人材育成という観点からは個々のミッションごとにどうするかというだけではなく、ミッション横断的な仕組みを構築する必要がある。本研究において焦点を当てた教育や人事管理・人事政策のあり方はまさにそのレベルの話となるといえる。
第4に、Alemanno氏の言うように、「つなぐ」場としての大学の役割、他方、そのような機能を果たすためにアカデミクス自身が変化する必要があるという論点も、今後検討していく必要があることが示唆された。今回の研究においては、主として政府部門内部における「つなぐ」人材に注目したが、社会全体としてはこのような人材をより幅広い形で確保できる可能性がある。
第5に、今回は比較的大きな政策課題における「つなぐ」課題について焦点を当てたが、岸本研究主幹が議論の中で指摘したように、「つなぐ」課題は、日々のミクロレベルでの実践の中にも存在することを改めて認識する機会となった。例えば、個別分野におけるリスクを評価するという活動と、リスク低減策のオプションを設定しそのオプションを評価するという活動は活動の性格としては異なるが、現実社会においてはこれらをつないで実践が行われている。その点では、「つなぐ」能力は特異領域で求められる能力ではなく、日常的に求められる能力であるという側面があることが明らかになったといえる。
以上のような国際ワークショップにおける議論を通して、研究会における検討が精緻化されるとともに、今後の研究課題の展開についても様々な示唆を得ることができた。
◆登壇者(敬称略・順不同)
<ゲスト登壇者>
永澤 剛 |
内閣府科学技術・イノベーション推進事務局 参事官 |
伊奈 康二 |
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構宇宙戦略基金事業部企画推進課 課長 |
Dr Piret Tõnurist |
OECD Mission Action Lab |
Alberto Alemanno |
HEC Paris |
<研究プログラムメンバー>
城山 英明 |
東京財団政策研究所 研究主幹(研究代表者)/ 東京大学大学院法学政治学研究科 教授 |
岸本 充生 |
東京財団政策研究所 研究主幹/ 大阪大学データビリティフロンティア機構・ 社会技術共創センター 教授 |
鈴木 一人 |
東京財団政策研究所 研究主幹/東京大学公共政策大学院 教授 |
松尾 真紀子 |
東京財団政策研究所 主席研究員/ 東京大学公共政策大学院 特任准教授 |
黒河 昭雄 |
東京財団政策研究所 主任研究員/ 神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科 兼 イノベーション政策研究センター 講師 |
中澤 柊子 |
東京財団政策研究所 主任研究員/ 東京大学公共政策大学院 特任准教授 |
◆動画
※Dr Piret Tõnurist、Alberto Alemanno氏の発言部分については、当日の同時通訳者による通訳音声を使用しております。(通訳者より二次使用の許諾を得ております)
◆発表資料
・城山英明研究主幹/中澤柊子主任研究員
科学技術イノベーション政策を担う「つなぐ人材」とその能力育成
・内閣府 永澤剛参事官
科学技術政策とセクター別政策・経済安全保障のつなぎ
・宇宙航空研究開発機構 伊奈課長
宇宙産業政策への関わりを事例とした「つなぐ人材」についての考察
・鈴木研究主幹
経済安全保障における戦略的インテリジェンスプラットフォーム
・松尾主席研究員
社会課題解決・科学技術ガバナンスにおけるStrateg5.20250314_matuo.pdfic Intelligence(戦略的知性)のエコシステム形成における「つなぐ」能力の必要性
・Dr Piret Tõnurist (OECD Mission Action Lab)
Science and Technology Innovation Policy and Next Generation Public Management
・Alberto Alemanno (HEC Paris)
Expanding the 'Academic Impact Cycie'