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在宅医療に先駆的に取り組む東京都武蔵野市における訪問看護支援事業について聞く
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在宅医療に先駆的に取り組む東京都武蔵野市における訪問看護支援事業について聞く  

August 31, 2023

R-2023-042

20004月に介護保険制度が創設されて以来、訪問看護ステーションの数は増加傾向を続け、一般社団法人全国訪問看護事業協会の調査によれば202241日時点において全国で14,304か所の訪問看護ステーションが稼働している。利用者が介護保険制度の枠組みで訪問看護ステーションを利用する場合には、ケアプランの中に訪問看護の利用を位置づけることが必要となるが、ケアプランの作成主体であるケアマネジャー(居宅介護支援事業所)と訪問看護ステーションの情報共有や連携はなかなか進んでおらず、そうした動きを後押しする自治体も少ないのが現状である。そのような中にあって、おそらく全国で唯一、東京都武蔵野市は自治体の単独予算を活用して、訪問看護ステーションと居宅介護支援事業所の情報共有・連携を図る取り組みを進めている。

2023224日、武蔵野市役所において同市が取り組んでいる訪問看護支援事業(特に訪問看護と介護の連携強化事業)について、同市の健康福祉部の主要メンバーにインタビューを行った。

冒頭、介護保険係の高田係長から「武蔵野市訪問看護と介護の連携強化事業」について、概要を説明していただいた。次いで、トータルな仕組み作りを主導してきた武蔵野市前副市長の笹井顧問から「武蔵野市の福祉施策の歴史と地域包括ケアシステムの特徴」として、同市の地域包括ケアシステムの歴史や理念、近未来に向けての取り組みを解説していただいた。

両氏の説明で明らかになったのは、武蔵野市では基幹病院の在院日数の短縮により医療ニーズが高い高齢者が増加していることと、市内の医療機関はいわゆる「ビル診療」が多く、勤務する医師は市内在住者が少なく、勤務後は市外に移動してしまうため、早朝夜間に往診や緊急時対応が困難な場合が増えているという点である。そのような状況を24時間対応の訪問看護でカバーできないかと武蔵野市は発想したという。もともと平成27(2015)年度から訪問看護ステーションがケアマネジャーに医療情報を提供した場合、「訪問看護と介護の連携強化事業」の一環として1件につき一律1,500円を支給していた。これを平成30(2018)年以降、訪問看護の24時間体制をとる事業所への支援を1,500円から2,000円に上げ、それ以外の事業所は1,500円から1,000円とし、24時間対応へのインセンティブとした。これを可能にしたのは、他の事業に振り向けていた財源(通所サービスの低所得者向け食事代補助等)を流用できたことが背景にある。また、医師会も介護保険導入時から、いち早く地域包括ケアアシステム構築に取り組み、地域別ケース検討会等で講師を務めるなど、多職種の情報共有に前向きであったことが下地としてあった。この連携をさらに強化したのが、平成20(2008)年の「脳卒中地域連携パス」の導入である。これは、脳卒中に罹患した患者さんを中心として、急性期・回復期から維持期(在宅介護)まで、地域で医療・介護に関わる人々がそれぞれの役割分担を行い、お互いに情報共有をすることにより、今後の診療の目標や注意点を明確にし、チームで患者さんを支えてゆくための仕組みである。このような地域における「脳卒中連携ネットワーク」の形成は、医師・看護師・理学療法士・作業療法士など多職種連携の重要性を多くの人に認識させる契機となった。

武蔵野市の医療の特徴の一つは、地域を担う医師会と武蔵野赤十字病院・杏林大学病院などの急性期病院との関係が良好なことである。急性期病院は、在院日数短縮に伴い、早く地域に患者を返さなければならず、地域の医師や訪問看護・介護の協力でそれを実現しており、三者は、win-winの関係を維持している。

また、多職種(医師・薬剤師・ケアマネジャー・歯科医師・訪問看護師・訪問介護・地域包括支援センター・在宅介護支援センター)が情報共有のツールとしてICTネットワーク(MCS;メディカル・ケア・ネットワーク)を有効に活用されている様子であった。訪問看護と医師が高頻度でICTネットワークを利用しているが、訪問介護など介護サービス事業所による利用も徐々に増えている。

こうした施策の結果、24時間対応の「訪問看護と介護の連携強化事業」の連携費支給件数と構成比は、平成30(2018)年度に3,899(44.6%)であったものが、令和元(2019)年には4,761(54.5%)に増加している。もちろん、こうした取り組みができるのは、武蔵野市が財政的に恵まれた自治体であることが根底にある。しかし、訪問看護ステーション、ケアマネジャー、行政の定期的な会議や勉強会の開催による各職種のレベルアップなど、介護・看護・医療との垣根が低くなるような試みは、他の自治体にとっても訪問看護へのアクセシビリティを高める上で、参考になりそうである。

今回紹介した「武蔵野市訪問看護と介護の連携強化事業」の令和32021)年度決算額は15,151万円、令和42022)年度の予算額は16,000万円とのことであった。令和52023)年3月末時点の武蔵野市における要介護高齢者数は6,043人であり、必要となる財源はおおむね要介護高齢者1人当たり年間2,500円程度ということになる。武蔵野市のような取り組みを全国の他市町村に拡大していくことを考えると、必要となる財源(要介護高齢者1人当たり2,500円程度)については、介護保険の中の地域支援事業のメニューの1つとして追加して、自治体の裁量で活用できるようにしてはどうだろうか。地域支援事業の趣旨は、「介護保険制度の円滑な実施を後押しすること」、「要介護状態等となった場合においても、可能な限り地域において自立した日常生活を営むことができるよう支援すること」とされており、武蔵野市のような取り組みは、地域支援事業の趣旨とも合致していると考えられるのではないか。

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