このレビューのポイント
● 2022年9月27日現在の主要な都道府県(北海道、宮城、埼玉、東京、神奈川、愛知、大阪、京都、兵庫、広島、福岡、沖縄)におけるCOVID-19に対する集団免疫レベルの推計を行った。
● 第7波による多くの自然感染を経て、どの都道府県でも集団免疫レベルは高まっており、今後、数週間から最大で数ヶ月程度は新型コロナによる感染拡大を抑えることが可能と考えられる。
● 特に、人口に対する感染報告数の多い東京、大阪、沖縄などでは自然感染による免疫がワクチンによる免疫を大きく上回っており、全人口の50〜70%に達している。一方、北海道や宮城などではワクチンによる免疫が自然感染による免疫を上回っていることが示された。
● 社会経済活動を維持し、健康被害を最小限にするためには、定期的なワクチン接種と自然感染の組み合わせによる免疫獲得を維持していく必要がある。しかし、ワクチンによる免疫はどの都道府県でも減少傾向にあるため、免疫が低下したタイミングで第8波が起こる可能性は否定できない。シミュレーションによる将来予測は、高齢者や基礎疾患を有するハイリスク群における五回目の接種時期を検討する上で重要な意義をもつと考えられる。
R-2022-047
1.はじめに 2.モデル 3.結果 4.考察 |
1.はじめに
感染者報告数とワクチン接種実績[1]をもとに国内の集団免疫レベルを推計することは、今後の流行を予測する上で重要な意義があると考えられ、著者らはこれまで2022年3月時点[2]および7月時点[3]の国内全体の集団免疫レベルの推計を行ってきた。後者の予想通り、2022年9月27日現在、国内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第7波の感染者報告数は減少傾向となっており、8月中に全国的にピークアウトしたと考えられる[4]。本稿ではその流れを継続しながら、これまで行ってこなかった主要な都道府県に対する集団免疫レベルの推計を行う。
2.モデル
モデルは[3]と同様の、集団を感受性(Susceptible)、潜伏期(Exposed)、感染(Infectious)、回復(Recovered)の4種類に区分するSEIRモデルであり、ワクチンの接種回数に応じた免疫と、免疫の減衰およびブースター効果を考慮している。詳細については [3]およびその付録を参照されたい。流行曲線は各都道府県の日ごとの新規感染報告数のデータ [4]に当てはめることで求めている。また、ワクチン接種率は各都道府県の日ごとのワクチン接種回数のデータ [1]を利用して求めている。
3.結果
国内の主な都道府県(北海道、宮城、埼玉、東京、神奈川、愛知、大阪、京都、兵庫、広島、福岡、沖縄)に対する2020年1月16日から2022年9月14日までの集団免疫レベルの推移の推計結果を図1に示す(流行曲線の推計については付録[5] を参照)。赤は自然感染による免疫、紫はワクチン(減衰を含む)による免疫、黄緑は自然感染とワクチン(減衰を含む)による免疫、青は自然感染とワクチンの接種経験(1回以上)による部分免疫を表す。
図1 国内の主な都道府県の集団免疫レベルの推計結果(2020/1/16~2022/9/14)
4.考察
図1より、どの都道府県でも第7波による多くの自然感染により集団免疫レベルが高まっていることがわかる。今後、数週間から最大で数ヶ月程度は新型コロナによる感染拡大を抑えることが可能と考えられる。興味深い知見としては、人口に対する感染報告数の多い東京、大阪、沖縄などでは自然感染による免疫がワクチンによる免疫を大きく上回っており、全人口の50〜70%に達している。一方、人口に対する感染報告数の少ない北海道や宮城などではワクチンによる免疫が自然感染による免疫を上回っている。社会経済活動を維持し、健康被害を最小限にするためには、定期的なワクチン接種と自然感染の組み合わせによる免疫獲得を維持していく必要がある。
しかし、ワクチンによる免疫はどの都道府県でも減少傾向にあり、免疫が低下したタイミングで再流行が起こる可能性は否定できない。実際、第6波と第7波がそれぞれ起こった2022年1月と7月には、図1において紫の曲線で表されるワクチンによる免疫レベルが低下していることがわかる。また、その後の各波による自然感染の増加により、おおむねどの都道府県でも黄緑の曲線(自然感染とワクチンによる免疫)はくぼみが2つあるような特徴的な形をしている。
今後の再流行、特にこの秋冬に予想されるいわゆる第8波の時期を予測する上で、季節性や免疫の低下のタイミングを加味したシミュレーションを行うことが重要であり、特に高齢者や基礎疾患を有するハイリスク群における五回目の接種時期を検討する上ではこうした分析が欠かせない。実際、従来の接種間隔5か月では、接種時期が秋冬に予想される第8波に間に合わない可能性があるため、接種間隔を3か月に短縮することが現在政府によって検討されている。
本稿のモデルでは各都道府県の集団を考えているため、日本全体のモデルであった[2][3]よりも詳細なシミュレーションを実装できていると言える。一方で、モデルを簡易化するために、各都道府県間の相互作用は考慮していない。行動変容やウイルス変異の影響は、データへの当てはめにより時変の感染率を求める本稿の手法では非明示的に考慮されていると言えるが、今後の株の変異による免疫逃避は本稿のモデルでは予測できない。また、自然感染による免疫の減衰についても本稿のモデルでは考慮しておらず、より現実的と考えられる議論や予測を行うために、その効果を組み込むことが今後の課題であると考えられる。東京財団政策研究所では、現在こうした点も鑑み、集団免疫レベルの将来予測を推計中である。
参考文献
[1] デジタル庁, ワクチン接種記録システム, https://info.vrs.digital.go.jp/opendata/ 2022年9月18日閲覧.
[2] 國谷紀良, 渋谷健司, 徳田安春, 中村治代, 諸見里拓宏, 数理モデルによるCOVID-19の国内の集団免疫割合の推計, https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3954 2022年9月18日閲覧.
[3] 國谷紀良, 徳田安春, 中村治代, 諸見里拓宏, 第7波初頭での国内のCOVID-19の集団免疫割合の推計~パンデミック期からエンデミック期への転換に向けて~, https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4036 2022年9月18日閲覧.
[4] NHK, 特設サイト 新型コロナウイルス, https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/
[5] 付録, http://www2.kobe-u.ac.jp/~tkuniya/appendix220915 2022年9月20日閲覧.