R-2023-099
野村周平主席研究員を中心とする研究プログラムでは、ヘルス・メトリクス(定量的健康アウトカム指標)を用い、(1)「21世紀における国民健康づくり運動」における政策評価、(2)COVID-19流行期の超過死亡や死亡場所の動向(高齢者施設における死亡数等)、循環器疾患や自殺といった間接的な死亡リスク(3)超過死亡の迅速なモニタリング、(4) COVID-19と東京オリンピックにおける政策評価、など日々の暮らしに直結する慢性疾患・栄養課題からパンデミックがもたらした社会的・経済的影響まで、包括的に分析を行ってまいりました。
データに基づく意思決定を通じた、保健医療システムの透明化や効率性、そして人々の健康の向上に資するべく、このたび分析結果を提言書としてまとめ、公開いたします。
本成果は、少子高齢化、医療費の高騰などが、我が国の保健医療システムの持続可能性を脅かす中、科学的なモニタリングと評価に基づく政策立案に貢献することが期待されます。
提言書全文「ヘルス・メトリクスを用いた政策インパクトのモニタリングと評価に関する研究」(全26ページ)
要旨
昨今、少子高齢化の進行とCOVID-19のパンデミックにより、我が国の社会経済システムは未曾有の危機に直面している。特に、保健医療システムに求められる持続可能性とレジリエンスの向上は、我が国の喫緊の課題の一つであり、科学的なモニタリングと評価に基づく体系的な改革が必要である。こうした状況の中、本稿ではヘルス・メトリクスを活用した包括的な研究分析の事例と、そこから導き出される効果的な対策を提言する。
本稿では、主に以下の2つの平時と緊急時における主な保健医療における施策の分析を行った。
- 我が国の総合的な国民健康増進政策である「21世紀における国民健康づくり運動(通称、健康日本21)」における第二期(2013-2023年)の成果と課題を、ヘルス・メトリクスを用いて評価する。
- 新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによる健康危機における影響を、ヘルス・メトリクスを用いて定量的に捉え、社会的・経済的側面も含めた包括的な評価を行う。
これらの研究結果を踏まえ、次の具体的な政策を提言する:
(1)NCDs(非感染性疾患)の予防と管理強化のための全国的取り組みの推進
- 健康リスクに対する税政策と行動変容の促進
- 消費者データ等を活用した公衆衛生介入のPDCAサイクルの促進
- 先進的なデータ分析と個別化された予防策の開発
- 独立機関によるデータ分析と検証の促進
(2)健康危機に対応するための包括的戦略: 間接的な死亡リスクへの対応と社会的サポート体制の強化
- COVID-19における直接的・間接的死亡リスクへの対策強化
- 高齢者の医療・介護体制の見直しとの連携強化
(3)推計データ(例:超過死亡)活用によるリアルタイムモニタリングの推進
- リアルタイムでの死亡データの公開の推進
- データ収集プロセスの高速化と効率化
- 超過死亡モニタリングの継続的な運用と質の向上
- 超過死亡モニタリングの標準的なプロトコルの開発
(4)パンデミック下の大規模イベント開催:感染症リスクの再評価と予防策強化に向けた公衆教育の推進
- 大規模イベントの感染症リスク評価基準の見直しと実用的なガイドライン策定
- 予防策の強化と人々への啓発推進
(5)インターネット調査を含むボトムアップ型データ基盤の整備
- パンデミックなどの急性の事象に対するタイムリーなデータ基盤の整備・活用
- ボトムアップ型で自律し、分散化したデータの活用およびそれを推進する研究者の育成
提言書本文は【こちら】より、お読みいただけます。
「ヘルス・メトリクスを用いた政策インパクトのモニタリングと評価に関する研究」
「ポスト・コロナ時代における持続可能かつレジリエントな医療・看護・介護システムの構築に関する研究」
野村周平 主席研究員、慶應義塾大学医学部特任准教授
Md. Mizanur Rahman 主席研究員、一橋大学社会科学高等研究院(HIAS)准教授
大田えりか 研究主幹、聖路加国際大学大学院看護学研究科、国際看護学教授
尾谷仁美 研究員、大阪大学医学系研究科博士課程
田淵貴大 主席研究員、東北大学大学院医学系研究科 公衆衛生学分野准教授
益田果奈 研究プログラム・オフィサー
諸見里拓宏 主席研究員、沖縄県立南部医療センター・こども医療センター腎・リウマチ科部長
米岡大輔 主席研究員、国立感染症研究所室長(第12室)
渋谷健司 研究主幹
以下バナーより、これまで公開したReview(論考)の一覧や、プレスリリース記事、イベント動画・資料など、本プログラム関連成果がご覧いただけます。