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新型コロナウイルス第7波における感染と予防・リスク行動との関連
写真提供:Getty Images

新型コロナウイルス第7波における感染と予防・リスク行動との関連

December 26, 2022

R-2022-090

1. はじめに
2. 方法
3. 結果
4. 考察

サマリー

  1. 2022年9月から10月にかけて全国28,630人(16歳から82歳)の男女を対象に実施されたアンケート調査データを用い、直近2カ月の新型コロナウイルスへの感染と感染予防・感染リスク行動との関連について解析を行った。
  2. 新型コロナ第7波において、25歳未満は65歳以上と比較して1.9倍感染リスクが高かった。さらに、医療従事者であること、家族と同居していること、基礎疾患があることが有意なリスク要因として確認された。 
  3. オミクロン株BA.5が主流であった第7波において、ワクチン接種を4回受けていた人と比べ、受けていなかった人(03回接種者)は感染リスクが1.7倍から2.5倍高かった。
  4. 感染リスクが有意に低かったのは、不要不急の外出を控えていた人と、清潔でない手で目・鼻・口を触ることを避けていた人達であった。月数回以上、居酒屋やバー、スポーツ観戦、性風俗店、縁日など地域の行事に出掛けていた人達は、出掛けなかった人達より、それぞれ1.2倍、1.3倍、1.8倍、1.3倍感染リスクが高かった。夕食時に店内を利用していた人達は、その頻度にかかわらず、利用しなかった人達より1.4倍から1.5倍感染リスクが高かった。
  5. これまで励行されてきたマスクの装着、手のアルコール消毒、手洗い、ソーシャルディスタンス等は、感染リスク回避に有意な差が見られなかった。オミクロン株の特性に合わせ、感染予防効果が限定的だとされる行動制限は徐々に解除していくべきだと考えられる。

1. はじめに

2020年115日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が国内で初めて確認されてから3年が過ぎようとしている。20221220日時点で、これまでに270万人以上が感染したと報告されている[1]。この報告感染者数は当然のことながら過小報告されており、我々の推計では、既に40%以上の人口が感染している[2]

この3年間、未知の感染症を封じ込めるため、専門家たちは調査研究と議論を重ね、様々な予防対策を講じてきた。その一方で、変異株の出現に伴い、重症化リスクの高さや感染予防対策の有効性は変化している。感染者は無症状であることも多く、同居する家族は症状がないまま感染している可能性も指摘されている[3]。近年流行しているオミクロン株は、従来型に比べ、感染者数の増加率は高いが、重症化リスクは低いことが分かってきている[4]

長きにわたる新型コロナウイルスとの共生で、心身に不調をきたしている者は少なくなく、また一方で経済活動の正常化も進められており、感染対策の一環として推奨してきた行動制限も緩和すべき時期に来ている。そのような状況下、オミクロン株に感染した個人がどのような行動を取っていたのか、またどのような感染予防行動が有効であったのかを明らかにすることは、今後の感染対策を考える上で極めて重要である。本稿では、新型コロナ第7波にあたる20227月から10月にかけてウイルスに感染した個人が取っていた行動およびその頻度と感染リスクとの関連について解析した結果を紹介し、考察する。

2. 方法

本稿の解析には、田淵貴大主席研究員らが47都道府県を対象に実施した「日本における新型コロナウイルス感染症問題による社会・健康格差評価研究(The Japan COVID-19 and Society Internet SurveyJACSIS)」のアンケート調査の結果を用いた。アンケート調査は、2020年から毎年行われている追跡調査である。本解析には、20229月から10月に実施された調査(JACSIS22)に回答した32,000人のデータのうち、不正回答(n=3,370)を除く28,630人のデータを用いた。解析の際には、インターネット調査であることのバイアスを調整するための重み(weight)を使用した。

アンケート回答者の性別、年齢、職業、世帯、ワクチン接種の回数、基礎疾患[a]の有無について調整した上で、新型コロナウイルスの感染と予防・リスク行動との関連に関し、多重ロジスティック回帰分析を行った。アウトカム変数は、直近2カ月間の新型コロナウイルスへの感染、説明変数は、感染予防および感染リスク行動とした。

上述の通り、同居する家族が感染した場合、無症状のまま感染していることも多いため、本解析では、JACSIS22への回答時、直近2カ月の間に回答者、もしくは同居する家族が(1)新型コロナウイルスに感染したと診断された、(2)新型コロナウイルスに感染し、酸素投与を受けた、(3)新型コロナウイルスに感染し、入院した、または(4)新型コロナウイルスに感染し、人工呼吸器による治療を受けたと回答した人を感染者とみなした。感染予防・リスク行動の詳細は表1に示す。回帰分析モデルに投入する説明変数は、ステップワイズ減少法[b]を用いて選択した。解析結果は、P値が0.05未満の場合に有意であると解釈した。

3. 結果

ステップワイズ減少法で変数選択を行った結果、41の感染予防・リスク行動に関する109のダミー変数のうち、46の変数が回帰分析モデルに投入された。解析結果の詳細については表2を参照されたい。アンケート回答者28,630人のうち、3,243人(11.3%)が20227月から10月までの間に新型コロナウイルスに感染していた。感染リスクは、65歳以上の人と比較して、19歳から24歳は1.92倍、25歳から64歳は1.58倍高かった。

さらに、医療従事者は、他の職業に従事する人より1.83倍、家族と同居する人は単身者より1.72倍、基礎疾患のある人は健康な人より1.20倍感染するリスクが高かった。また、ワクチン接種を4回受けていた人と比較して、3回接種していた人は1.73倍、12回接種していた人は2.52倍、ワクチン接種をしていない人は2.00倍感染リスクが高かった。

感染予防・リスク行動については、直近1カ月の間、常に洗っていない手で目・鼻・口に触らないようにしていた人と比較し、時々触らないようにしていた人は1.18倍、ほとんど意識していなかった人は1.26倍感染リスクが高かった。また、常に外出を控えていた人と比較して、時々外出を控えた人は1.25倍、ほとんど意識していなかった人は1.30倍、全く意識していなかった人は1.63倍リスクが高かった。

職場の上司や同僚と対面で全く会っていなかった人と比較し、月1回程度会った人は1.44倍、週1回程度会った人は1.25倍感染リスクが高かった。同様に、友人・知人に対面で月1回程度会っていた人は、全く会わなかった人より1.44倍感染リスクが高かった。直近2カ月の間に、月数回以上、居酒屋やバー、スポーツ観戦、性風俗店、縁日などの地域の行事に出掛けていた人は、全く出掛けなかった人より、それぞれ1.24倍、1.31倍、1.79倍、1.34倍リスクが高かった。また、夕食時に店内を利用していなかった人に比べ、直近2カ月の間に1度でも利用した人は1.54倍、月1回程度の人は1.42倍、月23回程度の人は1.51倍、週1回以上利用していた人は1.43倍感染リスクが高かった。

4. 考察

本解析結果からは、これまでわが国で推奨されてきた感染予防策のうち、不要不急の外出を控えることと、洗っていない手で目・鼻・口を触らないという行動が、20227月から10月にかけて感染リスクを軽減した可能性があることが示唆された。

緊急事態宣言時に利用が制限されていた外食に関し、本解析では、特に夕食時に店内を利用する人は、その頻度にかかわらず、新型コロナウイルスに感染するリスクが高かったという結果が得られた。その他、感染リスクと有意な関連があったのは、月に数回以上、居酒屋・バー、性風俗店、スポーツ観戦、縁日などの地域の行事に月数回以上出掛けるという行動である。大きな声を出す、飲酒を伴う、近距離で人と接触するような行動は、感染リスクが高い。

新型コロナウイルスの感染経路は、主にウイルスを含むエアロゾルを吸い込むこと(エアロゾル感染)、ウイルスを含む飛沫が口、鼻、目などの露出した粘膜に付着すること(飛沫感染)とウイルスを含む飛沫を直接触るかウイルスが付着したものを触った手で露出した粘膜を触ること(接触感染)であるが [5][6]、洗っていない手で目・鼻・口を触らないことは接触感染を予防し、外出を控えることは、すべての感染経路を遮断することに寄与したと考えられる。

本解析の結果からはワクチン接種の有効性も示唆された。ワクチン接種の回数が1回から3回であった人については、アンケート調査のデータから接種時期を特定することはできないが、4回接種している人の場合、接種時期は20225月以降であり、オミクロン型対応2価ワクチンを接種した可能性が高い[7]。オミクロン型対応2価ワクチンについては、今年、国立感染症研究所が行った検証調査において、BA.1対応型は接種後14日以降で73%[c]BA.4-5対応型は69%の有効率(予防効果が高程度)であったと報告されており[8]4回のワクチン接種が感染予防効果を高めていたことが推察できる。

本解析のアウトカム変数には、回答者本人のみならず、同居する家族が新型コロナウイルスに感染した場合も含めたため、単身者の感染リスクが有意に低いのは当然だという考えもあるかもしれない。しかし、本解析では世帯の特性に関する変数調整を行っている。また、回答者が感染した場合のみをアウトカムにした解析も行ったが、家族と同居する人が新型コロナウイルスに感染するリスクは単身者より有意に高かった(調整オッズ比1.25P0.038)。

本解析では、これまで新型コロナウイルスの感染予防効果が高いと考えられてきたマスクの装着、手のアルコール消毒、手洗い、ドアノブなどの消毒、部屋の換気、ソーシャルディスタンス等の感染予防行動と感染リスクの回避に有意な関連が見られなかった。ただし、本研究では個人レベルの行動のみを解析対象としているため、集団レベルで多くの人がマスクを着用したこと等との関連が見られなかったわけではないことに注意して解釈する必要がある。

ソーシャルディスタンスやマスクについては、新型コロナウイルス感染予防の効果があるとする複数のメタアナリシスやシステマティックレビューと相反する結果となった[9] [10] [11]。しかし、これらの研究はオミクロン株の流行前に行われているため、ソーシャルディスタンスやマスクが変異株にも有効な予防策であるか、引き続き検証していくことが求められる。マスクについては、装着する種類によって感染予防効果が異なることが示唆されているため[12] 、一般の人々が未だ頻繁に使用するウレタンや布製のマスクによる感染予防効果についても、科学的検証を行うべきだと考える。

ドアノブなどの消毒や部屋の換気は有効な感染予防行動だと考えられるが、その効果は、消毒や換気を行った本人のみならず、周囲の人々に及ぶ。他方、手のアルコール消毒や手洗いは、普段心掛けていても、目・鼻・口を触る瞬間に手が汚れていれば、感染を予防することはできない。本解析データから得られたのは、必ずしも直接個人の感染予防に寄与する行動に関する情報ばかりではなかった。また、感染対策として重要な周囲の人々の行動や、回答者を含む集団レベルの行動を評価することもできなかった。これらは本研究の限界である。

結論として、国は、オミクロン株の特性に合わせ、感染予防効果が限定的であるとされた行動制限については、徐々に解除していくべきである。また、一律の行動規制ではなく、国民一人一人が、個々の状況に応じてリスクを理解し、その管理を行うことを奨励すべきである。

  

表1:説明変数候補の感染予防・リスク行動

表2: 2022年7月から10月に新型コロナウイルスに感染した人の行動と感染リスクとの関係(多重ロジスティック回帰の結果)

参考文献

[1] NHK, 特設サイト 新型コロナウイルス, https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/. 20221220日閲覧

[2] 國谷紀良, 徳田安春, 谷口 清州, 渋谷健司, データに基づいた新型コロナ対応へ ー流行は本当に起きているのか?全数把握と医療逼迫、第8波をめぐる問題点ー, https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4114. 2022年1221日閲覧.

[3] Centers for Disease Control and Prevention. Transmission of SARS-COV-2 Infections in Households — Tennessee and Wisconsin, April–September 2020. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6944e1.htm. 2022年1221日閲覧.

[4] 国立感染症研究所, SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第7報)https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10945-sars-cov-2-b-1-1-529-7.html 2022年1220日閲覧.

[5] World Health Organization (WHO), “Coronavirus disease (COVID-19): How is it transmitted? (2021); who.int/news-room/q-a-detail/coronavirus-disease-covid-19-how-is-it-transmitted. 2022年1220日閲覧.

[6] Centers for Disease Control and Prevention (CDC), “Scientific brief: SARS-CoV-2 transmission (2021); www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/sars-cov-2-transmission.html. 2022年1220日閲覧.

[7] 厚生労働省, 追加接種(4回目接種)についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_fourth-dose.html. 2022年1220日閲覧.

[8] 国立感染症研究所, 新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第五報):オミクロン対応2価ワクチンの有効性 https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/11688-covid19-9999.html. 2022年1220日閲覧.

[9] Li Y, Liang M, Gao L, Ahmed MA, Uy JP, Cheng C, et al. Face masks to prevent transmission of COVID-19: A systematic review and meta-analysis. Am J Infect Control. 2021; 49(7): 900-906. https://www.ajicjournal.org/article/S0196-6553(20)31043-9/fulltext. 2022年1220日閲覧.

[10] Talic S, Shah S, Wild H, Gasevic D, Maharaj A, Ademi Z, et al. Effectiveness of public health measures in reducing the incidence of covid-19, SARS-CoV-2 transmission, and covid-19 mortality: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2021; 375: e068302. https://www.bmj.com/content/375/bmj-2021-068302.long. 2022年1220日閲覧.

[11] Chu DK, Akl EA, Duda S, Solo K, Yaacoub S, Schünemann HJ, et al. Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis. Lancet. 2020; 395(10242): 1973-1987. https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31142-9/fulltext. 2022年1220日閲覧.

[12] 国立大学法人豊橋技術科学大学 Press Release. https://www.tut.ac.jp/docs/201015kisyakaiken.pdf. 2022年1222日閲覧.


[a] 高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、肺炎・気管支炎、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、歯周病、狭心症・心筋梗塞、脳卒中、慢性閉そく性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、慢性肝炎・肝硬変、免疫異常、がん・悪性腫瘍、精神疾患を現在、若しくは過去患ったと回答した者を基礎疾患があると定義した。

[b] ステップワイズ法とは、最適な回帰分析モデルを構築するため、アウトカム変数(本解析では新型コロナウイルスへの感染)と統計的に関係の強い説明変数(個人の感染予防・リスク行動)を選択する方法。変数減少法 (backward stepwise)とは、考えられるすべての説明変数を投入した回帰分析モデルから始め、1つずつ説明変数を減らして最適化を図る方法。

[c] ワクチンの有効率とは、ワクチンを打っていない場合と比較して発病者が73%減少したということ。

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