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富山県におけるウェルビーイング政策
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富山県におけるウェルビーイング政策

July 25, 2023

R-2023-030

背景
富山県におけるウェルビーイング政策
専門家との討議に基づく考察
本研究プログラムにおける取り組み

背景

本研究プログラムでは、地方自治体のウェルビーイング政策推進に関する研究に取り組んでいる。活動の一環として、特に、こども・若者のウェルビーイングに関する議論をさらに深め、政策への提言を具現化するため、国際会議を開催した。会議には、オックスフォード大学ウェルビーイングリサーチセンター、マンチェスター大学、OECD(経済協力開発機構)WISEセンター、ギャラップ社等の国内外のウェルビーイング専門家や国内の関係機関が参加した。本Reviewでは、富山市で開催された国際会議日程にあわせ、富山県が主催する形で実施したセッションにおいて、新田富山県知事より発表された、富山県におけるウェルビーイング政策について考察する。

富山県におけるウェルビーイング政策

富山県は、「富山県成長戦略」の中心にウェルビーイングを掲げている。また、ウェルビーイングを庁内横断的に推進するため、担当課としてウェルビーイング推進課を設立している。20229月に実施した県民意識調査の結果に基づき、20231月に「富山県ウェルビーイング指標」が公表された[1]。この指標は、総合指標、分野別指標、つながり指標の3つから構成されている。総合指標は、過去、現在、未来についての全体的な生活評価と、生活の調和やバランスに関する個人の実感を評価している。分野別指標は、「なないろ」指標として、心身の健康、経済的なゆとり、安心・心の余裕、自分らしさ、自分時間の充実、生きがい・希望、思いやりの7分野に着目している。つながり指標は、家族、友人、職場・学校等、地域、富山県とのつながりに焦点を当てている。「富山県ウェルビーイング指標」は、ウェルビーイングの実態を可視化するだけではなく、例えば、実感向上の効果検証、住民目線での課題・ニーズの理解、県政リソースの効果的な配分・横連携の展開への活用など、政策形成プロセスにも組み入れていくこととして、取り組みが進められている。

 

出典:富山県知事政策局成長戦略室ウェルビーイング推進課「富山県 ウェルビーイング指標の策定について」

専門家との討議に基づく考察

富山県の政策の特徴的な点としては、まず、その組織構造が挙げられる。通常、多くの行政組織が専門性を高めるために縦割りになっている中で、富山県はウェルビーイングの専門部署を設置し、横断的な取り組みを推進する体制を整えている。ウェルビーイング推進課においては、部門間の連携だけでなく、アンケートを通じて県民の意見を収集し、その分析結果を基に、県民の声に基づく政策形成を進めている。

主観的ウェルビーイングを中心に据えている点も大きな特徴である。客観的指標ではなく、主観的ウェルビーイングを中心とした地方自治体の取り組みは、世界的にも珍しく、先進的である。今後に向けては、主観的ウェルビーイングと客観的指標の組み合わせも、重要な論点となりうる。政策の優先順位づけや予算策定においては、主観的ウェルビーイングだけでなく、客観的指標も関連してくる。各政策領域で、主観的なウェルビーイングと客観的な指標がどのように連動していくかが、今後注目すべき点である。

富山県は、関係人口も含めたウェルビーイングの実現を提唱している。具体的には、約100万人である県人口にとどまらず、より大きな1000万人のウェルビーイング実現を目指している。富山県の住民だけでなく、ウェルビーイングの波を全国、世界に起こしていくことを目指した壮大なビジョンを掲げている。

富山県のウェルビーイング政策は、経済成長に関する政策とも密接に関連している。経済成長がウェルビーイングをもたらす可能性がある一方で、ウェルビーイングが高い人は生産性が高いことを示す先行研究結果もある[2]。ウェルビーイングと経済成長は両輪になっている部分もあると考えられる。

最後に、富山県が未来への期待感に焦点を当てている点も先進的である。例えば、高齢者層において、将来への期待感が低いことが調査結果から示されている[3]。施策の優先順位付けにおいて、主要なターゲットにするグループを選定する際などにも、主観的ウェルビーイングの調査結果を活用できる可能性がある。

富山県のウェルビーイング政策は、組織構造、主観的ウェルビーイングの重視、地域を超えたビジョン、そして未来への期待感への着目など、多角的な視点が考慮されている。これは、地方自治体におけるウェルビーイング政策として、注目に値するものである。

本研究プログラムにおける取り組み

2022年に続き、2023年の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2023)においても、「政府の各種の基本計画等におけるKPIへのWell-being指標の導入を加速する」こと、さらに、「地方自治体におけるWell-being指標の活用を促進する」ことが示された[4][5]。日本における地方自治体のウェルビーイング指標の活用は、今後さらなる進展が必要な分野である。本研究プログラムにおいては、2022年度、都道府県を対象とした、ウェルビーイング政策の実施状況に関する調査を実施した。詳細は近日中に公開を予定しているが、執筆時において、政策としてウェルビーイングを掲げている都道府県は半分以下であり、具体的な指標の設定や施策に落とし込んでいる都道府県はさらに少ない。富山県の取り組みは、先行事例のひとつとして、他の地方自治体のモデルとなりうるものである。また、ウェルビーイング政策推進においては、地域住民が成果を実感できることが重要である。本研究プログラムにおいては、地域住民を対象としたウェルビーイングに関する実態把握調査も実施している。対象地域として、2022年度は富山県を含む北陸地方を選定し、現在解析を進めている。自治体と連携しながら、重点分野の特定や評価指標の検討等、さらなるウェルビーイング政策推進に取り組んでいく予定である。

 


参考文献

[1] 富山県知事政策局成長戦略室 ウェルビーイング推進課「富山県 ウェルビーイング指標の策定について」https://www.pref.toyama.jp/documents/30839/toyama-wellbeing-indicator.pdf

[2] De Neve, J-E., Kaats, M., Ward, G. (2023). Workplace Wellbeing and Firm Performance. University of Oxford Wellbeing Research Centre Working Paper 2304. doi.org/10.5287/ora-bpkbjayvk

[3] 富山県「ウェルビーイング県民意識調査結果(速報)(参考資料)」https://www.pref.toyama.jp/documents/31656/20221121_sokuhou_wellbeing_chosa_appendix.pdf

[4] 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針 2022 新しい資本主義へ ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf

[5] 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針 2023 加速する新しい資本主義 ~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2023/2023_basicpolicies_ja.pdf

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