【第一次小泉内閣】 ・前編:概論、平成13年4月26日~12月31日 ・中編:平成14年1月1日~12月31日 ・後編:平成15年1月1日~11月19日 |
第一次小泉内閣
平成15年(2003年)1月1日~11月19日
年末の年度改正を終え、平成15年(2003年)の年明け早々、プライマリーバランス(以下、「PB」)黒字化への道筋、とりわけ増税のタイミングを巡って議論が行われた。
PB黒字化については、規制緩和・経済構造改革による経済成長と歳出改革により達成できる、したがって増税は必要ないという考え方の「上げ潮派」と、経済成長と歳出改革だけでは財政目標は達成できないので、社会保障財源の充実としての消費税増税の必要性を主張する「財政規律派」との2つの異なる見解があるが、当時はそれほど表面化した状況ではなかった。
平成15年(2003年)1月24日の「改革と展望」には、PB黒字化については、2006年度までに必要な税制上の措置を判断すること、2010年代初頭におけるPBの黒字化を目出すことが明記された(87-KO-15-00)。2006年度までというのは、平成19年(2007年)3月末までという意味であり、小泉総理の任期の終了時(平成18年(2006年)9月)の後という意味合いあった。
87-KO-15-00 改革と展望―2002年度改定について: 閣議決定.平成15(2003)年1月24日.
政府税制調査会は地道に議論を続け、6月17日に中期答申「少子・高齢社会における税制のあり方」(87-KO-17-00)を公表した。この中で、「少子・高齢化が進展する中で国民の将来不安を払拭するためには、社会保障制度をはじめとする公的サービスを安定的に支える歳入構造の構築が不可欠であることから、消費税は極めて重要な税である。したがって、将来は、歳出全体の大胆な改革を踏まえつつ、国民の理解を得て、二桁の税率に引き上げる必要もあろう」とした。
消費税制度については以下のように記された。この中期答申の考え方がその後の消費税議論の「支柱」となった。
①税率構造
消費税の税率構造は、制度の簡素化、経済活動に対する中立性の確保の観点から極力単一税率が望ましい。しかし将来、消費税率の水準が欧州諸国並みである二桁税率となった場合には、所得に対する逆進性を緩和する観点から、食料品等に対する軽減税率の採用の是非が検討課題となる。
②仕入税額控除
現行消費税制度において仕入税額控除を行うためには、課税仕入れ等の事実を納税者自身が記載した帳簿の保存に加え、取引の相手方が発行した請求書等の取引の事実を証する書類の保存が必要とされている(「請求書等保存方式」)。このような請求書等保存方式は、単一税率の下では適切な仕入税額控除に特段の支障がないが、将来、複数税率が採用される場合には、適正かつ円滑な施行に資する観点から、免税事業者からの仕入税額控除を排除し、税額を明記した請求書等の保存を求める「インボイス方式」を採用する必要がある。
③消費税の使途
消費税はわが国の財政にとって重要な役割を果たすべき基幹税である。以降、国の消費税収(地方交付税分を除く国分)を基礎年金、老人医療及び介護に充てることを毎年度の予算総則に明記する、いわゆる「消費税の福祉目的化」が行われている。税率の引上げに際しては、国民の理解を得るために社会保障支出や社会保障負担との関係を明確に説明することが必要となろう。
④地方消費税
地方分権の推進、地域福祉の充実等のために創設された地方消費税は、消費に関連した基準により都道府県間で清算を行うことにより税収の偏在性が少なく、安定的な基幹税目のーつとして定着し、大きな役割を果たしている。少子・高齢化等の進展に伴い、今後、福祉・教育等の幅広い行政需要を賄う税として、地方消費税の充実確保を図っていく必要がある。
87-KO-17-00 政府税制調査会.少子・高齢社会における税制のあり方(抄). 平成15(2003)年6月.
6月26日の経済財政諮問会議で「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(骨太の方針03)(87-KO-18-00)が議論され翌6月27日閣議決定されたが、税制改革に関する記述はほぼ同じ内容である。注目すべき点は、租税負担と社会保障負担の総合的な検討の重要性が改めて指摘されたことである。
3.税制改革 ―――持続的な経済社会の活性化を目指し、将来にわたる国民の安心を確保する税制への改革を進める。
【改革のポイント】
(1)「包括的かつ抜本的な税制改革」に引き続き取り組む。
(2)社会保障制度改革と整合性をとって税制改革を行う。
(3)「国と地方」の「三位一体の改革」と整合性をとって税制改革を行う。
(4)負担に対する国民の納得が得られるよう、納税と徴税の環境を整える。
87-KO-18-00 経済財政諮問会議. 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003(抜粋). 平成15(2003)年6月26日.
平成15年(2003年)9月20日には自民党総裁選挙が行われ、小泉氏が三選された。9月26日の経済財政諮問会議で、小泉総理は郵政民営化を竹中経済財政相の下で取りまとめるよう指示。議論は郵政民営化問題に移っていった。
税制の議論は、10月6日 政府税制調査会会長に石氏が再任され、総理から税制調査会諮問が行われ、「あるべき税制の具体化に向けた審議を求める」とされた。
87-KO-19-00 内閣総理大臣. 諮問. 平成15(2003)年10月6日.
一方8月ごろから、基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げることなどを内容とする年金改革の議論が始まっていた。実はこれが、消費税率引上げ議論に結びつくことになる。
11月9日、第43回衆議院議員総選挙が行われ、与党が絶対安定多数を維持、第二次小泉内閣へとつながる。