場所:東京財団 A会議室
講師:酒井克彦(国士舘大学法学部教授)
今回の研究会では、国士舘大学法学部の酒井教授によるプレゼンテーションと、以下のような議論を行った。(要約責任 森信)
(説明)
- 社会保険庁と税務官庁の一元化を進めた代表的な国として、英国とスウェーデンがある。英国では、従業員の払う分の社会保険料は保険税として国税庁が徴収し、雇用主負担分や雇用主自身の保険料は社会保険庁が徴収をしていた。これをブレア政権が一元化して、成功を収めたといわれている。
- 英国の一元化の課題としては、社会保険庁と国税庁の業務システムが異なり、多額の統合費用がかかった、双方の人的資源の配分がうまくいかなかった、社会保険料と税金の間の時効の差異や管理対象者の差異から執行上の問題が生じたことなどが挙げられている。
- スウェーデンの一体化は、成功例といわれている。それは、古くから納税者番号があり、納税者の情報の一元化が行われていたことが大きい。また、北欧諸国特有の行政ルール等の統一が進んでいたことも成功の要因である。
- 日本で行う場合の課題としては、「家族の定義」の問題がある。税制では厳格主義、社会保障は実態主義をとっている。「所得の定義」も、税と社会保険では異なる。社会保障では財産を考慮に入れることが多いが、所得課税では財産を対象とはしていない。世帯間公平性を考慮に入れると、英国EITCのようなミーンズテストのようなものが必要となるが、そこでは財産の定義の整合性も必要となろう。
- 課税最低限以下の者(無資格者)の情報は、地方自治体が住民基本台帳に基づいて把握しているので、それを給付官庁としての税務署が入手するなどの工夫が必要となる。
(議論)
- 英国のEITCのように、労働時間とかけて税額控除を設計・執行すると、労働時間調査が必要となり、複雑になる。
- 給付付税額控除を創設する場合には、税法とは別の法体系で、特別法として、所得や事項やペナルティーも独自に定義することが現実的。韓国では、特別法でこの制度を作った。
- 社会保険制度では、雇用者の社会保険料は、企業という仲介者がいるが、国民年金は仲介者がいない。企業という仲介者がいる場合には、そこを通じてEITCを執行することが不正給付もなく、一つの考え方である。もっとも、企業側の負担は大変であろう。
- まず徴収の一元化を進めることが必要。また、何らかの番号による管理が必要で、課税インフラを整えていく必要がある。また、労働インセンティブをつける制度は複雑なので、労働時間との関連を持たせないほうがいいのではないか。
- このように、あらたなシステムを導入するには、すべてのシステムを全体として一体的に設計する必要がり、パッチワークでは機能しない。
- 韓国の制度のように、生活保護の一歩手前の人たちへの支援と位置付ける。生活保護への転落を防止することが政策として重要。