今回がコラムの第1回目である。「税」をキーワードにしつつ、おおむね月に2度のペースで、経済・社会の様々な出来事を材料に、筆者の感じたことをそのまま書いてみたい。
「税」は、専門的な分野で敬遠する方が多いが、我々の経済活動の隅々にまで深く関連し、切っても切れない関係にある。また、租税法律主義という、国民主権の下で決められていくものでもある。「税」について当事者意識を持つことこそが民主主義の第一歩ともいえるので、アレルギーなくご一読いただきたい。
さて、安倍政権は近来まれにみる高い支持率を維持し続けている政権である。しかしこの貴重なアセットは、主に外交・防衛に向けられており、経済分野では、三本の矢、新三本の矢、GDP600兆円に向けての強い経済…など標語は踊っているものの、目標とするデフレ経済からの脱却、安心の経済社会の建設などにむけての達成度は高くはない。
政治学者御厨貴氏の言を借りると、「アベノミクスの中身はよくわからないが、常に何かをやっている、という感覚が国民からの支持を得ている」ということになる。
私から言わせると、「何かやっている振りはしているが、実は何もやっていない」ということである。
その一例は、昨年末の税制改革議論である。「配偶者控除」は廃止して「夫婦控除」という別の控除に衣替えして、女性の就労に壁を作らないようにしつつ、所得再分配も行うことをめざしたが、選挙の風が吹き始めたとたん、配偶者控除「廃止」の声は消え、結果的には配偶者控除の適用「拡大」、という思わぬ方向に「逆走」してしまった。
その理由を考えてみると以下の2つではないか。
一つは、配偶者控除の「廃止」部分がローズアップされ、その結果専業主婦世帯の税負担が増加するという懸念が広まり、選挙にはマイナスということとなった。しかし、「夫婦控除」という新たな控除に置き換えるので、多くの専業主婦世帯の負担には変化はない。このあたり、冷静な議論をする前に、改革がとん挫したのである。具体案を出せなかった政府税制調査会にも問題がある。
もう一つは、安倍政権の「働き方改革」が、本気ではないということである。わが国の税・社会保障制度には、103万円の壁だけでなく、130万円の壁、さらには社会保険料の見直しにより、昨年10月には新たに106万円の壁ができた。
このような就労調整の壁(ポバティートラップ、貧困の罠)について他の先進国は、税と社会保険料負担を合わせて見直すことにより、なくしていくという政策を採用している。
その具体的方法として、中低所得者に、勤労(所得)に応じて税・社会保険料負担を軽減するといいう「勤労税額控除」が導入され、逆転現象が生じないように設計されているのである。 (関連する政策提言はこちら『税と社会保障のグランドデザインを』(東京財団、2016))
このままでは、わが国で始まっている中間層の崩壊はますます進んで、健全な世論形成ができなくなる。最近のブログの炎上の増加は、格差社会と関係があるという社会学者がいるが、この状況を放置してはならない。
東京財団では、社会保障・税一体改革の必要性と具体策を数年来研究してきた。今年こそ実現に向けての第1歩を踏み出してほしいものだと願って、新たな研究会を立ち上げるとともに、このコーナーで発信し続けていきたい。
次回はトランプ税制についてです。