一年前の今頃は、パナマ文書問題で世界中が大騒ぎしていた。しかし1年経過して、わが国ではすっかり人々の関心を失いつつある。その理由は、スケールの大きいスクープにもかかわらず、実際わが国で、大きな話題に上るような具体的な人名も企業名も出てこなかったということであろう。
一方で、米国IT企業を中心として、莫大な利益(2.7兆ドルともいわれている)をタックスヘイブンに留保する行為は継続している。背景には、米国の全世界課税という税制があり、米国に利益を還流させると追加的に法人税を課せられるので、それを回避したいという理由がある。
トランプ大統領は、この点を改革したい意向で、すでにタックスヘイブンにたまっている米国子会社の利益には、一度だけ10%程度の税率で課税し、その後は海外所得非課税制度(テリトリアル税制、わが国や欧州が採用している制度)に変更して非課税とする意向を表明している。
しかしこの説明は、十分ではない。なぜなら、「今後タックスヘイブンに米国企業が留保した利益は非課税になる」ということになるからである。
わが国や欧州諸国は、タックスヘイブン対策税制というのを持っており、企業がタックスヘイブンに利益を留保していれば、それもわが国企業の利益とみなして課税できるのである。では、米国はそのような制度を持っていないのか。
実は米国は、大変厳しいタックスヘイブン対策税制をわが国よりはるか昔に導入している。問題は、それが実際に巧妙な米国IT企業のプラニングにより機能していないということである。トランプ政権が、この点まで手を付けるのかどうか、本気度が問われる。 さらに問題なのは、グーグルやアップル、フェイスブックなどだけでなく、ウーバー、エアビーアンドビーなどのいわゆるシェアリングエコノミーのプラットフォーム企業も、同様の手口でタックスヘイブンへの租税回避を行っているということである。
つまり、エアビーアンドビー(米国企業)がわが国のホスト、ゲスト双方からもらう手数料は、オランダやアイルランドなどの低税率国や実質的なタックスヘイブンに留保され、今後は誰の課税も受けないという不都合なことになるのである。
米国トランプ政権が問題にすべきは、全世界課税方式を領土課税方式に手直しすることに加えて、米国タックスヘイブン対策税制の抜け穴を防ぐことである。 筆者は、シェアリングエコノミー企業は場を提供する「胴元」であり、そこで遊休資産・労働力を提供する人々(ギグ・エコノミー)の価値は彼らに「収奪されている」という側面があると考えている。
この構造を放置しておくと、ギグ・エコノミーはみじめなセフティーネットなき非正規雇用・副業者の集団と化す。今からそうならないように、日本国政府として、プラットフォーム企業への対策を講じておくことが必要だ。
それにつけても、アイルランド、オランダなどのスキームも含むタックスヘイブンへの租税回避をしている企業の一覧表を、作成・公表すべきではないか。加えてわが国国民や学者に、租税回避に対する正確で厳しい対応を求めていきたい。