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連載コラム「税の交差点」第15回:「こども保険」と所得税

May 22, 2017

第9回の税の交差点、「『こども保険』の問題提起するもの」で、自民党若手議員の提言した「こども保険」について、次のようにコメントした。

「これを議論の起爆剤として、消費増税を含めたあるべき税制議論・どの世代でどう負担していくかという国民的な議論に、建設的につなげていくことが必要であろう。単発に終わる提言にしてはならない。」

予想通り、「こども保険」の提言を契機に、5月20日付日経新聞が一面トップで取り上げるなど、教育財源についての大きな議論が始まった。6月にまとめる「骨太の方針」に取り込まれ、財源として「税、拠出金、社会保険料」の3案が明示されるという。

ここでは、税財源について取り上げたい。「税」というとすぐ消費税が頭に浮かぶ。勤労世代だけでなく、あらゆる世代が消費に応じて負担するものなので、現役世代に限定した社会保険より「世代間の公平性」に優れている。

しかし、消費税を持ってくることには、次の2つの大きなハードルがある。

一つは、10%への消費増税は再再再延期される可能性がある。安倍政権の下で、2回先延ばしにされている上、デフレ脱却がいまだうまくいかないことについて、GDP改定で消費増税が景気の腰を折っていないことが判明したにもかかわらず、2014年4月の消費増税のせいにする考え方が政権周辺には強く見受けられる。2019年10月に予定されている10%への引上げも、政権のメインストーリーは、3度目の先送りだろう。

もう一つは消費税を10%に引上げたとしても、その使途は社会保障に限定され、教育費には使えないという点である。

もっともこの点は、子ども・子育て費用は社会保障に含まれるのだから、「こども保険」の使途である「子育て支援」に回すなら大丈夫という考え方もある。そうすれば、高齢者に偏った社会保障を勤労世代にシフトできるので、社会保障改革にもつながる。

筆者は、消費増税を予定通り引上げて子ども・子育てを充実させることが必要と考えている。一方で、ハードルの高い消費増税にこだわる必要はない、とも考えている。所得税や資産税(相続税・固定資産税)にその財源を求めることも検討すべきではないか。

所得増税で財源を賄うことには、所得再分配という今日わが国で最も必要な政策を同時に実行することが可能になるという、大きなメリットがある。そのためには、増税のターゲットを「富裕高齢層」にピンポイントすることが必要である。

では具体的にどのような改革なのか。

まずは、年金税制改革である。とりわけ、勤労を続けながら年金を受給する者は、勤労所得と年金(併給調整あり)の双方を受け取るが、その場合、給与所得控除と公的年金等控除のダブルで控除が適用され、税負担は低くなる。そもそも年金所得は勤労所得の後払いという性格のものなので、控除は一つにすべきである。

また、公的年金等控除は、公的年金(国民年金・厚生年金)だけでなく、企業年金にも適用されるが、「富裕高齢者」への負担増ということから、企業年金については適用を外すことが考えられる。

次は、大部分が高齢者に帰属する金融所得の税率の見直しである。

わが国の所得階層ごとの所得税負担割合は、1億円をピークに逓減していく。これは、高所得者により多く帰属する株式譲渡益や配当といった金融所得への課税が、彼らの通常所得に対する限界税率より低い20%の分離課税となっていることからくる。

アベノミクスの株高で潤っている高所得層の負担を引き上げることは公平な所得分配につながる。「こども保険」の財源3400億円をまかなうには、2-3%の税率引上げで十分であろう。

株式市場に大きな影響を与える恐れがあるので、あわせてNISA(小額投資非課税制度)の恒久化や金融所得一体課税の拡充(預金利子も一体化に含める)などとパッケージで行う必要がある。

所得税では使途が限定されないので国民の理解が得られないというなら、その部分を特定財源にすればよい。あるいは「こども基金」に組み入れる方式でもよい。

さらには、資産税での対応も考えられる。米国では教育財源の多くは地方の財産税(プロパティータックス)であることが参考になる。

すべての選択肢を出して、メリット・デメリットを議論していくことが必要だ。

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