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連載コラム「税の交差点」第17回:新たな財政目標と財政ポピュリズム

June 5, 2017

6月9日に閣議決定される予定の「骨太方針2017」には、財政健全化目標として、「2020年度プライマリーバランス(基礎的財政収支、PB)の黒字化」と並んで、「債務残高対GDP比の安定的な引き下げ」が追加される予定だ。

これは、「2020年度PB黒字化は達成できそうもないが、債務残高対GDP比の引下げなら達成できそうだ」ということから、新たに財政目標として追加する、ということであろう。

2020年度PB黒字は、内閣府の極めて楽観的な推計でも、「2019年10月から消費税率10%への引上げを法律通り行っても、さらに8.3兆円不足する」となっている。事実上、達成できないことを認めたとも受け取れる。

また、金融政策だけではデフレ脱却が進まないので財政政策を、という米国経済学者の無責任なアドバイスや、変節した浜田宏一内閣官房参与など追い込まれたリフレ派の考え方も見え隠れする。

さらには、この機会に公共投資の拡大を目指す、時代錯誤の国土強靭化グループや、教育無償化に向けて教育国債を発行しようという財政ポピュリズムも背後に控えている。

財政健全化目標の事実上の改定は、欧州のたとえ話にある、「自分の使うベッドの長さが足りないので、自分の足を切って帳尻を合わせる」(プロクルステスの寝台)ということである。

ではどこが問題なのか。

「債務残高対GDP比の安定的な引き下げ」を財政目標として設定すること自体には問題はない。問題は、「財政健全化の手順」である。

まず、さらなる債務の増加を招かないようPB黒字を達成させ、その黒字によりこれまでの債務を返済して債務残高対GDP比を引き下げていくことは、望ましいことである。政府もこれまでこのような手順を述べている。

しかし、PB赤字のままで債務残高対GDP比を低下させていくことは問題である。

なぜなら、長期金利より経済成長率の方が高い状況を無理やり作りだし、それをある程度継続させれば、債務残高GDP比は低下していくことになるからだ。つまり、日銀に低金利政策の継続を相当の期間継続させることが前提になっているからである。

現に内閣府の試算では、名目経済成長率は2018年度以降、2.9%、3.7%、3.8%と伸びていく一方で、金利の方は、0.5%、1.5%、2.6%と成長率よりはるかに低く見込まれている。

この前提では、国債利払い費はほとんど発生せず、借金の返済は国債の償還だけなので、分子である債務残高はほとんど伸びない。

一方分母であるGDPは順調に伸びるので、歳出削減を進めなくても、債務残高GDP比は下がっていく。このことは、歳出削減圧力が減り、財政規律が緩むことを意味している。

しかし、経済成長率と長期金利との関係は、中期的にはほぼパラレルというのが経済学の常識である。市場で決まる長期金利を、数年にわたり人為的に低い水準に抑圧することが可能なのか。とりわけ日銀の金融政策の出口が議論されようとしているタイミングに、である。

また分母のGDPは借金して公共投資を膨らませた場合でも増えるため、毎年の予算編成で財政規律が働かなくなる恐れがある。公共投資によるGDPの押し上げは一時的な効果しか持たず、分子の債務残高は借金分だけ確実に増加する。

本来このようなまやかしの議論に反対するのが経済財政諮問会議であるはずだ。しかし、民間議員たちは皆、総理の意向を「忖度」している。その結果が、今回の2020年度PB黒字化の事実上の放棄、新たな財政再建目標の追加、財政ポピュリズムである。

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