総選挙では、教育無償化など国民に耳当たりの良い公約が氾濫した。一方その財源については、「希望の党」の大企業留保金課税に代表されるように、実効性や実現可能性の低いものが多く、受益(政策)と負担を考える絶好の機会にもかかわらず、議論は深まらなかった。
さて筆者は、ここ数年間京都の立命館大学で1週間の特別講義をしているのだが、毎年京都を訪れる外国人の数は増えており、伏見稲荷などは外国人であふれている。ホテルも、3か月前に予約してやっととれるという状況である。このようなインバウンドの観光客の増加に対応して、観光庁は9月、新たな観光財源の確保を目的とした新税の構想を表明した。出国時に税を徴収する形をとるので、出国税と称されているが、出国時に未実現のキャピタルゲイン(譲渡所得)を清算して納税する出国時特例制度と誤解されるので、名称は改めて検討するようだ。
この構想のもとは、2017年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」である。そこには、今後増加するインバウンドの観光需要に対応してさまざまな施策が必要となるのでその財源を確保すること、その際には観光立国の「受益者による負担」の方法により対応することが書かれている。これを踏まえて観光庁は、2018年度の税制改正要望に、「高次元で観光施策を実行するために必要となる国の財源を確保するため、所要の措置を検討する」と盛り込んだ。
参考にする海外の例として、「オーストラリアの出国税」が書かれているので、それを見てみよう。オーストラリアでは、1978年から出国税が導入され、出国旅客を対象として1人当たり5,000円程度の課税が行われており、その税収は出入国管理・国境整備・観光振興などに活用されている。財源規模は2015年で750億円程度である。16年の日本からの出国者数は日本人を含めて4,000万人で、1人1,000円の「出国税」を徴収すれば約400億円分の財源になる。
筆者なりの課題を整理すると以下のとおりである。
第1に、訪日外国人が「出国税」を負担することについては、受益と負担の関係が明確で説明しやすい。トイレやWi−Fiの整備等はまさに必要な支出であり、受益者は彼らともいえよう。一方で、日本人が出国する際に課税されることについては、説明がむつかしい。日本人を課税対象から外すと内外無差別のGATT違反になるというが、米国はESTA申請料という名目で訪米外国人だけを対象に負担を求めていることをどう考えるのか。
第2に、税収の使途である。訪日観光客の環境整備というとまず思いつくのは、空港の出入国の管理の混雑ぶり、税関検査・植物検疫などの増大などである。つまり、観光地の受け入れ整備だけでなく、これらの拡充も重要な課題である。税収は、観光庁だけの特定財源にするのでなく、法務省(出入国管理)、財務省(税関)、厚生労働省(動植物検疫)なども使えるように広げてはどうか。
第3に、新税への理解を得ていくことである。スムーズに導入するには、旅行業者や関係者の理解が必要となる。また、東京都などが導入し、京都府も導入予定の宿泊税との調整も必要となる。すでに負担増となる旅行業界は反発しているようだが、負担するのはあくまで旅行者であり、彼らへの説明理解が必要とされよう。
いろいろな施策を行うには財源が必要だ。それを自前で何とか見つけ出そうという努力はそれなりに評価してもよい。一方で税収の使い方については、これまでの観光振興政策が、国・県・市町村とばらばらに行われてきた無駄も指摘されている。改めて受益と負担の問題を考えるいい機会ともいえよう。
(2017年11月号『月刊資本市場』連載「明日へのかけ橋」(92話)より転載)