森友問題について、財務省OBである筆者は、事実関係が不明な中、軽軽なコメントを控えてきた。一方、佐川氏の証人喚問が終わっても、事実関係は依然闇の中で、これからもどこまで解明されるかわからない。
一方、これだけ大きな社会問題・政治問題となっている以上、感情論を排しつつ、今回の原因や問題点を整理し、将来に向けての改善・改革を探ることが重要だと考える。
そこで、同じく財務省OBで、学者をしている田中秀明・明治大学教授(公共経済学)と小黒一正・法政大学教授(公共経済学)の2人に、この問題についてそれぞれの専門性の立場から、議論に参加していただくこととした。
田中教授からは「政と官の在り方」の観点から、小黒教授には、「公文書の管理」の観点から2回に分けて本欄に寄稿をいただき、掲載することとした。
そもそも森友問題は、複数の異なる事象が合体しており、それを区別して考える必要がある。第1に、国有地の売買に関して、価格形成やその売買そのものが大きな影響を受けたのではないか(不適切な国有地売却)という問題、次に、国会答弁との整合性をとるように公文書(決裁文書)が改ざんされたという問題、3番目に、これらの背後に、財務省理財局長へのなんらかの指示があったのではないか、更に、これらの問題の背景にある「政と官」とのあり方という観点から、どう考えるべきかという問題である。
マスコミは、「忖度」をキーワードとして議論を展開しているが、「忖度」というあいまいなキーワードで議論していくことは、問題の本質を覆い隠してしまう。なぜならば、日本の社会、あるいは世界中どこでも「忖度」は存在しており、日本型経営や日本社会上の美徳として位置付けられているからである。公文書の改ざんという重大な法律違反にまで至った本件は、明らかに「忖度」を超える問題と位置付けるべきだろう。
以下は一般論である。そもそも秘書官や補佐官といった人たちは、仕えている上司を「忖度」することが仕事である。秘書官は、あらかじめ通告された国会質問に基づき各省が作成した総理答弁を、総理に事前レクチャーする。関係者のすり合わせが必要と考えれば、各省との会合をセットする。これが仕事である。
総理の発言と各省大臣や政府委員(局長等)の答弁との間に齟齬がないか、このチェックも重要な業務の一つである。齟齬があれば、各省に指示して、各省の答弁を総理の国会答弁に可能な限り整合性を取る作業を行う。厚生労働省の裁量労働制のデータのように、総理が答弁の修正を行うこともある。
ちなみに、森友問題の総理発言、「自分や妻が関与していたら、総理も議員もやめる」という答弁は、事前にセットされた想定問答にはない答弁であろう。おそらくその瞬間、一番慌てたのは総理秘書官であろう。さてどうするか。そこからは闇の世界である。
一方、公文書の改ざんの問題はこれとは異なる。「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」(国家公務員法96条)と書かれ、公務員は法律に基づいて公平に仕事をする義務があるが、それが行われなかったのであり、さまざまな法的な責任が生じるだけでなく、わが国政府・公務員制度のガバナンスの問題も生じる。
ガバナンスに関しては、2014年に内閣官房に内閣人事局ができ、幹部職員人事の一元管理など新たな制度が始まった。これまで各省でばらばらの省益があり、それが統一的な政策の策定の障害になっていたことなどの反省として導入されたものである。その一方で、人事局による官僚統制は、個別人事に直接介入するという形で、省のコンセンサスとなっていない人事も多く行われ、霞が関の官僚を震えあがらせてきた。
当然これは各省の政策面での議論にも影響を及ぼす。例えば財務省は、増税につながる議論は省内で行うことすらできない状況に追い込まれた。政策決定を見ても、関係省庁の意見を聞くというよりも、少数で議論された結論ありき、あとは実行という状況が続いている。総理の諮問機関である経済財政諮問会議や政府税調などは、議論の場として全く機能していない。
5年を超える長期政権、さらに今後も続く安倍一強政治のもとでの人事統制が、官僚の自由闊達な議論を封じてしまっている現状は、「制度」というよりも、「制度の運用」方に問題があるように見える。改ざん防止のための「制度改革」が必要なことは言を待たないが、今回の問題の本質はそれではないような気もする。
官僚の政治的中立性をどう確保するのか、上級公務員は能力で選ぶ資格任用なのか、政治家が自由に選ぶ政治任用とするべきなのか、官邸の意に沿わない意見を持つ公務員は更迭すべきなのか、強権的な手法で公務員をコントロールするべきなのか、などが議論されるべきである。
そうはいっても将来に向けて制度の見直しは必要である。筆者の問題意識を受けて、2回にわたって論者が議論するので、一読いただきたい。