一見国民にとってはありがたい話だが、実は巧妙に我々の税金が使われており、それが無駄遣いにつながるモラルハザードを生みだしているという制度が少なからず存在する。ここでは、構図のよく似た2つの制度を取り上げてみたい。
一つ目は、地方自治体の子ども医療費無料化である。子どもの医療費の窓口負担は原則、未就学児が2割、小学生以上は3割であるが、自治体の判断と財源で、助成対象や補助割合を拡大・拡充することが可能となっている。そこで、住民を呼び込む手段として、窓口負担の無料化や助成対象年齢の引き上げを導入する自治体が増加している。
日本経済新聞の調査では、2018年4月時点で中学生まで助成を拡大する自治体は6割近く、高校生まで助成する自治体は全体の3割を超えているという。
自治体は、自らの財源、つまり地方単独事業として医療費の助成を行うのだが、無償診療となると往々にして過剰診療というモラルハザードが生じ、結果として医療費の増大につながる。当該自治体は、その増加した医療費負担の全額を負担するわけではなく、半分以上は国の税金や保険料で賄われることになる。
安易な制度の拡大を恐れた国は、国保の公費減額調整措置を導入して国民健康保険療養費等国庫負担金を減額してけん制していたのだが、2018年度から小学校入学前の未就学児に対する助成については減額されないことになった。自治体からみれば、「少ない負担でより効果的な施策ができる」ので、安易な人気取り政策として多くの自治体に拡大している。
同じ構造が「ふるさと納税」である。
「ふるさと納税」は、自治体間の税収格差を埋めるため、自ら住んでいる自治体に払うべき税金を、自分の意思で一部「ふるさと」に「寄付」することとしたい、という趣旨で始まった制度である。
しかし現状は、お金持ちの節税ショッピングと化している。寄付をした金額の2000円を超える部分が、自分の住む自治体の住民税の減税として返ってくるだけでなく、国税である所得税も減税となり、自己負担の上限は2000円となっている。
その上、寄付額の3割程度の「返礼品」が自治体から送られてくるので、自腹を切る「寄付」ではなく、さらに、所得の多い寄付者ほど大きな利益が得られるというモラルハザードを生じさせている。
加えて問題は、寄付をした住民の住む自治体の税収が減った場合、交付税交付団体であれば減収部分の4分の3が国から地方交付税という形で補てんされるということである。
寄付税制というのは、「身銭を切る」人に、国・地方がインセンティブとして減税をする税制である。国・地方公共団体、認定NPO法人などへ寄付した場合には、寄付額から2000円を差し引いた残りの金額について、所得控除か税額控除(国・地方合計で50%)かを選択できる仕組みとなっている。
これは、10万円寄付すると、国・自治体から4万円9千円(10万から2000円を引いて、税額控除率50%をかける)が税額控除という形で戻って来る制度で、自らの5万円の寄付に国・地方が5万円をマッチングしてくれる税制である。
それが、ふるさと納税は、2000円の負担で、所得が多い人ほど多額の返礼品を受け取ることができる。自腹を切る「寄付」の要素は一切入っていないのである。そうするために、われわれの見えないところで国税が投入されているのである。
財政の無駄の見直しが急務な折、肥大化に向けたモラルハザードを招く制度は厳しく見直す必要がある。
子ども医療費の無償化については、マイナンバーを活用して、所得制限を導入すべきだ。
ふるさと納税は、通常の寄付税制と同じレベルに戻し、「寄付=自腹を切る」部分を残すようにすれば、寄付額の30%程度の返礼品もおかしくはない。
もっともこちらの見直しには、この制度の実施的な創設者である官房長官の目が光っており、見直しは無理、というのが霞が関のコンセンサスだが・・