安倍総理は、消費税を19年10月から10%に引上げ、食料品などに8%の軽減税率を導入することを閣議で正式に表明した。一方で、経済に与える悪影響を可能な限り緩和したいということで様々な政策が検討されている。
「今度引き上げに失敗すれば、二度と消費増税はできない、消費増税の成功体験を作りたい。」という気持ちは筆者にも十分理解できる。
しかし、そのためにはどんな政策もありえる、ということではない。おのずから、政府の政策である以上、論理(スジ)がとおり、効果が期待され、公平で国民が納得するものでなければならないはずだ。現在、マスコミで報道されている増税緩和策について、コメントしてみたい。
まずはプレミアム商品券である。筆者が最も不可解なのは、公明党の山口代表が、「効果が実証済みで、手続きや使い方にも慣れているプレミアム付き商品券」に極めて前向きな発言をしていることである。
そもそも軽減税率は、より多くの食料支出をする高所得者ほど有利で、国民・事業者・国税当局に多大のコストをかける制度である。欧州では、EU委員会など何度も軽減税率の非効率性を指摘してきた歴史がある。
12年の税・社会保障一体改革3党合意を踏まえた税制改革法では、「低所得者対策として、給付付き税額控除か軽減税率の導入を検討する、それまでの間は簡素な給付措置で対応する」となった。
その後自民党と公明党が与党になり、公明党の主張する軽減税率が導入されることになった。政策効果が極めて少なく、国民に多大なコストを強い、欧州でも軽減税率をめぐるトラブルが絶えないことを知りながら導入が決定された背景には、安保法制に賛同した公明党へ安倍政権の「政治的な見返り」という事情があった。
その証左に、安倍総理は、軽減税率に消極的であった当時の自民党税制調査会長の首を挿げ替えて導入を決めたという事実がある。
つまり、軽減税率は、低所得者への給付・給付付き税額控除に変えて導入されたわけだ。ここに来て公明党が給付も主張するのは、自ら軽減税率の効果のなさを実感したためか、国民の批判を恐れたためか、どちらかということであろう。
そもそもこのあたりの政策決定の検証が十分に行われていないのは、自らが軽減税率の当事者となった新聞の責任が大きい。
もう一つ、現在検討されている、ポイント還元について考えてみたい。
現在、政府は、中小小売店での商品購入時にクレジットカードなどキャッシュレス決済を使った消費者に対して、購入額の2%分をポイントで還元するという政策を検討している。わが国のキャッシュレス決済化を進めたいという政策目標も兼ねている。
今から3年以上前の15年9月、財務省は「買い物時に消費者は10%を支払うが、飲食料品に関しては、後から2%分を払い戻す」という案を、「日本型軽減税率」として提案した。
会計の際にマイナンバーカードを店舗の端末にかざし、カードに記載されたICチップを読み取ることで本人確認をするものである。最大のメリットは、マイナンバーカードを所得情報と結びつけることができるので、還付対象者に所得制限を設けることが可能になるという点である。
高所得者ほどメリットの大きい軽減税率とは異なり、真の逆進性対策になる。また消費段階だけで判断できるので、あらゆる取引段階で大きなコストを生じさせる軽減税率に比べて、事業者のコスト負担ははるかに少ない。
今回のポイント還元はキャッシュレスの促進という観点があるのに対して、マイナンバー・マイナンバーカードの普及が前面に押し出されていた。
これに対して与党は、主として以下の理由から反対した。
- マイナンバーカードの普及が十分ではないこと、
- カードをかざすとマイナンバーが漏れる可能性があるという国民のプライバシー上の不安
- 自分の消費の記録を政府(税務当局)に知られたくないという国民感情
- 店側の、カードリーダーの設置コストや手間、加えて、自らの売上が税務当局に把握されることは避けたいという気持ち
今から考えれば、「日本型軽減税率」は決して突飛なアイデアではない。わが国が莫大な税金を投入して押しすすめてきた政策であるマイナンバー制度はいまだ国民には浸透していない。このことは、今後のわが国で税と社会保障を一体的に設計していくうえで、大きなネックになる。欧州諸国では、番号による税と社会保障の一体化が進んでいるが、わが国がそうなっていないのは、番号制度の普及の遅れに原因がある。
今からでも遅くないので、いまだ1500万枚程度の発行しかされていないマイナンバーカードの普及を促進する意味でも、これを活用したアイデア(例えばマイナンバーカードを使ってプレミアムポイントを受け取る人はプレミアム率を高くするとか、自治体によるマイキー連携の推進によるポイント制の活用など)といったことも検討に加えるべきではないか。
いずれにしても、わが国経済の生産性が低い原因は、小売事業者の生産性の低さに起因している。この際、政府が用意している補助金を活用して、小売り段階(BtoC)と流通段階(BtoB)のレジや商品マスターの設置、電子的な受発注システムの導入を行っていくことは、わが国経済全体の生産性向上につながっていく。
レジの近代化は、マイナンバーカードの活用も含めて、事業者などから反対があっても、5年先、10年先を見据えて進めていくべき課題だ。