3月2日未明、平成31年度予算案が衆議院を通過した。あとは自然成立するのを待つだけなので、参議院の議論も低調になるだろう。
それにしても、10月から消費税率が10%に上がる(予定)だが、これは何のためなのか。社会保障充実のため? それとも財政健全化のため? それとも……、国会では全くといってよいほど議論がない。国民生活への影響の大きさを考えると、本来国会で問うべきはこの点ではないか。
今回8%から10%への消費増税による一般会計増収は5.2兆円(国分、地方分が0.5兆円)である。
一方で、幼児教育の無償化・年金生活者支援給付金・介護人材の確保など社会保障充実に使われる費用は2.8兆円、消費税率の引き上げに伴う診療報酬の補填が0.4兆円、合計3.2兆円が国民の受益に回る。
したがって、財政再建につながるのはこの差額の2兆円(5.2兆円-3.2兆円)となるはずである(あった)。
ところが、消費増税が経済に与える影響を緩和するということで、ポイント還元(0.3兆円)、プレミアム商品券(0.2兆円)、住宅の購入者にすまい給付金・次世代住宅ポイント制度(0.2兆円)などで0.7兆円が支出される。
極め付きは、消費増税とは全く無関係の「防災・減災・国土強靭化(公共事業)」で1.3兆円の歳出が行われる。加えて住宅ローン減税の充実や自動車取得時・保有時の減税で0.3兆円の減税も行う。
すべてあわせると、2.3兆円(0.7+1.3+0.3)の経済対策となる。この対策の多くは2020年度にも継続され、とりわけ公共事業費の追加は、平成30年度2次補正と合わせれば2020年度まで7兆円の事業規模と予定されている。
つまり、消費税率を引き上げる2019年度と、2020年度には、5.2兆円の歳入増があってもほぼ同額の歳出増が予定されており、ネットで国庫に入ってくる税収はマイナス(2兆円-2.3兆円)となり、増収になる(財政再建につながる)のは2021年度からということになる。
今回の増税は、「社会保障の充実と財政再建、おおよそ半々」という政府の前宣伝とは全く異なる姿となることを示している。
ポイント還元は、仕組みがあまりにも複雑で、事業者に多大のコストをかける。また、事業者間で循環取引を行うような不正に対する防止措置も弱い。そもそも、消費増税とは無関係のキャッシュレス化促進のためである。
公共事業に至っては、参議院選挙をにらんだ、まったく無関係の話ではないか。
そもそも消費税収の使途に関する議論は国民には分かりにくい。その理由は、「社会保障費は消費税収を上回っているので、そのギャップ(赤字国債でファイナンスされている部分)を縮小させることが財政赤字の縮小につながる」という財政当局の一石二鳥的な理屈である。
お金に色がない以上、この理屈は正確ではない。図表(財務省作成)は、社会保障財源の不足分がすべて赤字国債でファイナンスされているという説明だが、この説明では、増税をしても、国債発行部分(赤字部分)は減るが社会保障の増分(社会保障の充実)はないということになる。国民から、「消費増税しても赤字の補てんに回るばかりで社会保障は充実しないではないか」という批判の声がでてくるのは当然ともいえる。
初めてのネット増税になった12年の「税と社会保障の一体改革」のスキームは、消費税率5%の引上げを2つに分けている。4%分を「社会保障の安定化」として、国債に依存していた社会保障経費を増税分で賄い国債発行を減らすため(図の国債発行部分・赤字部分を埋めるため)に使い、1%分を「社会保障の充実」として、介護、医療、子育てなどに充てることとされていた。
しかし前者は、財政再建に回り社会保障の充実にはつながらないので、「受益が実感できる部分が少ない」という批判につながり、安倍総理は18年10月、2%引上げの半分(1%)を教育・子育て支援などに使い、残り半分(1%)を財政再建にと、明確に区分した。
ところが今回は、経済対策が加わった。キャッシュレス化促進のためという関係のない政策まで入ってきた。驚くべきは、国土強靭化ということで、公共事業の追加まで便乗する。
この結果、2020年までネットで歳出超過になることとなった。何のための増税なのか、国民には分からず、軽減税率の煩雑さ・ポイント還元のいい加減さだけが残ることとなった。
本来国会で議論すべきは、消費増税の使途・意義で、このような政府の「いい加減さ」ではないか。