消費税軽減税率の導入が間近に迫ってきた。国税庁のQ&Aも公表されたが、軽減税率の適用されるテイクアウトとイートインの区別については、当分混乱が生じるだろう。しかし消費者も、事業者も、そして税務当局も混乱は望ましくないと考えているので、具体的ケースごとに話し合っていけば、常識のラインに沿った解決されていくと考えられる。
ここでは、テイクアウトとイートインの値付けについて、触れてみたい。
長い経験のあるドイツの具体例を見てみよう。
テイクアウト(軽減税率)とイートイン(標準税率)は、消費税率が異なるので、価格も別々に表示される(税込み価格は異なる)。これが原則だ。
写真1 テイクアウト(軽減税率)とイートインで値段が異なる例
(筆者撮影)
しかし、ドイツ・マクドナルドはユニークな値付けをしている。テイクアウトでもイートインでも価格は同一に設定されているのである。写真2の左はイートインの場合で、ハンバーガーの値段(税込み)は2.29ユーロとなっている。
右側は同じ店で同じハンバーガーをテイクアウトした際のレシートであるが、値段(税込み)は同じ2.29ユーロである。
写真2 イートインとテイクアウトで税率は異なるが、ハンバーガーの値段(税込み)は同じ例
(筆者撮影)
レシートの下部には適用税率が書いてあり、前者(イートイン)は標準税率の19%、後者(テイクアウト)は軽減税率の7%と記されている。正確な納税のためには、双方を区分経理する必要があるので、消費者一人一人にテイクアウトとイートインを尋ねる必要がある。
ドイツ・マクドナルドの値付けは、標準税率の適用されるイートインと軽減税率のテイクアウトを税込みで別価格にすると、テイクアウトといって購入し、その場で食べるお客が出ることを防ぐためと説明されている。
実はわが国でも、KFCが、イートイン(標準税率10%)とテイクアウト(軽減税率8%)の税込み価格を同額にして、事業者・消費者の混乱を避けるという方針を打ち出した。
商品やサービスにどのような値段をつけるかは、店側の自由だ。お店にとって、消費税増税分の転嫁は必要だが、一方で顧客や従業員が混乱しないようにするということも重要である。双方を比較考量してそれぞれ値付けするということだろう。
消費税は、店の売上に係る消費税額から仕入れに係る消費税額を差し引いて納税する仕組みを取っている(消費税法)。消費税率の引上時に個別の品目の価格をいくらにするかは店の自由である。価格転嫁は全体として出来ていればよいわけだ。
この話を知り合いの新聞記者に話したところ、「一物一価に反する」とか、「便乗値上げ隠しではないか」というコメントがあったが、それは消費税と価格の正確な関係を知らないからだ。価格は需要と供給によって決まるのであって、消費税というコスト要因だけで決まるわけではない。
政府は、消費税と価格について、正確な知識を提供していく必要がある。