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デジタル・ガバメントに不可欠な2つのこと―API連携と銀行口座付番 連載コラム「税の交差点」第68回
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デジタル・ガバメントに不可欠な2つのこと―API連携と銀行口座付番 連載コラム「税の交差点」第68回

October 25, 2019

20181月、政府は「デジタル・ガバメント実行計画」を決定し、デジタル技術を活用した新たな行政サービス、政府情報システム予算・調達の一元化やクラウドなどの先端技術の活用に向けた検討を行っている。

デジタル・ガバメントを普及するためには、マイナンバーの利活用およびマイナンバーカードの普及を促進することが大前提となる。マイナンバーカードは電子的に本人確認ができるICチップを搭載している。これを活用することによってはじめて、「民間」「国民(一人ひとり)」「政府」が一直線につながり、さまざまな行政・民間サービスが可能になるのだ。

しかし残念なことに、いまだマイナンバーカードの交付数は1,700万枚そこそこと人口の2割にも満たない状況である。これでは、デジタル・ガバメントどころではない。まずは、カード普及のために、国民のカード取得へのインセンティブを高める、つまりカード取得のメリットを国民に訴えることが必要だ。

現在のマイナンバーカード保有のメリットは、身分証明書代わりに利用できることに加え、住民票の写しのコンビニでの取得(コンビニ交付)や、民間利用の事例としては、銀行との住宅ローン契約の手続きの電子化に活用できること(印紙税の節約)など、ごくわずかである。これでは役所に出かけて取得するインセンティブにはならない。

20196月、政府の打ち出した新たな普及策の内容は以下である。

1は、2020年夏をめどに、マイナンバーカード保有者に「自治体ポイント」を付与する。すでに始まっている消費増税の影響を緩和するためのポイント還元制度が期限を迎える20206月以降の景気対策として考えられている。

2に、20213月からの、マイナンバーカードの健康保険証利用だ。医療機関にはカードの読み取り端末が必要になるため、政府が支援することなどが検討されている。

あわせて、国家公務員・地方公務員、その家族などにもマイナンバーカードの取得を奨励している。霞が関ではすでに、マイナンバーカードを国家公務員の庁舎等の入館証として利用している。

これらの施策により、2022年度中に、ほとんどすべての住民がマイナンバーカードを保有しているのが政府の想定となっている。

しかし、「自治体ポイントの付与」は、「税金をばらまく」という話で、いかにも品がない。誰がどの店でどう使うのかなど、キャッシュレス還元並みの大騒動が起きそうである。また健康保険証代わりというだけでは、新たなサービスは付加されないので、インパクトも少ない。もっと必要なことがあるのではないか。

マイナンバーカード取得はデジタル・ガバメントの第一歩にすぎず、本当に必要なことは、政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」を介して、「民間」「国民」「政府」の3者が効率よくつながることである。そのためにカギを握るのが、APIApplication Programming Interface)連携である。これは、官民それぞれのソフトウエアを認証し合うことによってつなげていくというもの。

すでにこの制度は一部始まっており、税務分野では以下のことが可能になる。

まず、所得税の確定申告に必要な所得控除関連の書類が簡単に入手できる。代表例は医療費控除で、納税者がマイナポータルを通じて保険者から医療費情報を取得し、その情報データを直接、国税庁の電子申告・納税システム(e-Tax)を使ってインターネットで提出するのである。これはすでに一部開始されている。

同様に、生命保険料控除の証明書、住宅取得資金残高証明書、特定口座年間取引報告書など民間事業者とマイナポータルを通じて連携させれば、紙の書類の提出は不要になる。この点は、2020年分の確定申告から可能とすべく準備中である。

今後、プラットフォーマーを通じて仕事を探し働く「クラウドワーカー」が増加すると予想されるが、プラットフォーマーとマイナポータルをAPI連携させれば、働く人にとっては所得情報が容易に入手できるので、そのままe-Taxで申告することが可能となり、利便性は大きく向上する。この点につては、東京財団政策研究所政策提言「『働き方改革』と税・社会保障のあり方」を参照していただきたい。

なお、2020年分の確定申告から、仮想通貨(暗号資産)交換業者から直接送付される取引履歴データをもとに、納税者が専用アプリで所得金額を自動計算してe-Taxにつなげる申告制度が実現されるが、これもAPI連携させればより簡単になる。 

もう一つ必要なことがある。それは、マイナンバーの活用範囲を拡大すること、具体的には、預貯金口座(銀行口座)への付番である。20181月にマイナンバーと銀行口座をひも付ける「預貯金口座付番制度」が始まってから1年半が過ぎたが、「義務付け」ではなく「任意」の形で行われているため、遅々として進んでいない。

一方、証券口座の方は、証券保管振替機構(ほふり)が直接、住基ネットから顧客の個人番号をまとめて取得し、証券会社や株式等の発行者(企業)に提供できる仕組みの導入が進みつつある。

銀行口座への付番については、ほふりと同様のことを、ペイオフの際に名寄せが必要となる預金保険機構を活用して進めてはどうか。また、銀行口座付番を行わない場合のディスインセンティブ(負のインセンティブ)、例えば利子所得に対する源泉徴収割合を引き上げることなどを具体的に考えることも有益だ。

銀行口座への付番が進めば、社会保障負担を、フローの所得だけでなくストックの預貯金・資産を勘案する制度に変更できるので、社会保障の肥大化の抑制にもつながる。

API連携の促進によるマイナンバーカード取得のメリット拡大と銀行口座への付番の2つが、デジタル・ガバメントを進めるうえで必要ではないだろうか。

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