【第二次小泉内閣】 ・前編:平成15年11月19日~12月31日 ・中編:平成16年1月1日~9月26日 ・後編:平成16年9月27日~平成17年9月21日 |
第二次小泉内閣
平成15年(2003年)11月19日~12月31日
第2次小泉内閣は、財務大臣谷垣禎一、内閣府特命担当大臣(金融・経済財政政策)竹中平蔵、自民党政務調査会会長額賀福志郎、自民党税制調査会会長柳澤伯夫という布陣であった。
この内閣は、11月19日に発足したことから、すぐに平成16年度予算編成に取り掛かる必要があった。そして平成16年度税制改正を巡る議論では、消費増税に結びつくきわめて大きな出来事が決まった。基礎年金の国庫負担割合を平成21年度(2009年度)までに現行の3分の1から2分の1に引き上げることが政府・与党で合意され、そのための財源約2.5兆円をどう取り扱うかということが問題になり、その財源確保に向けて大まかな道筋が翌年の年金制度改正法附則に書き込まれることによって決められたのである。
わが国の公的年金制度は、5年に一度年金財政の将来計算を行い、必要があれば年金制度の改正を行うことを義務付けている。これが年金の財政再計算と呼ばれているものである。これまで検証のたびに少子高齢化が想定以上に進み、保険料を引き上げるという逃げ水のような年金改正が繰り返されてきた。
そこで平成16年(2004年)の財政再計算では、経済界からの強い声もあり、抜本的な年金改革を行うことが必要となり、平成15年(2003年)9月5日、厚生労働大臣試案という形で「平成16年度における給付と負担の見直しについて」が公表され、政府部内での議論が始まった。
内容としては、基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げること、最終的な年金保険料水準を固定しつつその範囲内で給付水準を自動的に調整する仕組み(マクロ経済スライド)を導入することなどを提案したものである。9月20日の自民党総裁選挙を経て、平成15年(2003年)11月経済財政諮問会議で議論され、最終的には保険料率が18.3%と固定されることで改革の全体像が決まった。
この改革は、平成16年(2004年)6月5日に年金制度改正法(国民年金法等の一部を改正する法律(平成16年法律第104号))(88-KO-07-00)として成立するが、長期的な負担と給付の均衡を図り、年金制度を持続可能なものとするため、基礎年金の国庫負担割合を次期年金財政検証の平成21年度までに2分の1に引き上げることとされ、この法律の附則第16条に以下のように記述された。
88-KO-07-00 国民年金法等の一部を改正する法律(抜粋):平成16年法律第104号. 平成16年(2004年)6月5日.
特定年度(筆者注:年金国庫負担割合が2分の1に引き上げられる年度)については、平成19年度を目途に、政府の経済財政運営の方針との整合性を確保しつつ、社会保障に関する制度全般の改革の動向その他の事情を勘案し、所要の安定した財源を確保する税制の抜本的な改革を行った上で、平成21年度までの間のいずれかの年度を定めるものとする。(下線、筆者)
つまり、年金国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げる安定財源を確保するためには平成19年度を目途に税制の抜本改革を行うこと、そのうえで平成21年度までに国庫負担割合を引き上げることというロジックである。
ここから、消費増税を含む一体改革の議論が始まったといってよい。つまり、税・社会保障一体改革として続いていく議論の出発点は、小泉内閣時の「平成16年年金制度改正法」(平成16年(2004年)6月5日成立)からというのが、関係者の共通認識である。以後、具体的な増税時期や増税幅を念頭に置いた議論が関係者間で進んでいく。
このような状況の中で、年末の平成16年度税制改正大綱(88-KO-02-00)には、以下のように記述された。
少子高齢化社会における年金、医療、介護等を抜本的に再構築し、持続可能で国民が信頼できる社会保障制度を確立していく必要がある。特に年金制度については、平成21年度までに基礎金の国庫負担割合を階的に2分の1に引き上げるための安定した税財源を確保する。…(中略)…こうした諸課題を決するため、むこう数年間のうちに、次のような税制の抜本改革に取り組むこととする。…(中略)…平成19年度を目途に、年金、医療、介護等の社会保障給付全般に要する費用の見通し等を踏まえつつ、あらゆる世代が広く公平に負担を分かち合う観点から、消費税を含む抜本的税制改革を実現する。
つまり平成19年度(2017年度)と平成21年度(2019年度)という2つの時期が消費増税を含む税制改革の目途(道筋)として明記されたのである[1]。また、年金に加え医療・介護など社会保障全般の費用見通しも考慮することも記述された。
88-KO-02-00 平成16年度税制改正大綱(抄). 平成15(2003)年12月17日.
また、直前に出された政府の平成16年度政府税制調査会答申(88-KO-01-00)には、「消費税率が欧州諸国並みの二桁に引き上げられた場合の軽減税率の採用の是非や仕入税額控除制度のあり方といった諸課題について、国民に選択肢を示しつつ、具体的に検討を進めていくべきである。…(中略)…国の消費税は、少子・高齢化が進む中で、ますます増大していく社会保障経費をはじめとする公的サービスの費用を安定的に支える税として、今後その役割を高めていく必要がある。2010年代初頭のプライマリー・バランスの黒字化を目指す上で不可欠の要素である。」と相当踏み込んだ内容の記述がなされた。国民への選択肢の提示が明記されたことが注目される。
いずれにしても、消費税が社会保障を中心とする公的サービスの費用を支えること、プライマリー・バランスの黒字化にも必要なことの2つが明記され、今後の消費税率引き上げの根拠となっていく。ただし、この2つの要素(社会保障財源の確保と財政再建の必要性)が税率水準や増税時期に具体的にどのように関連してくるのかについては不明のままである。
88-KO-01-00 平成16年度の税制改正に関する答申(抄). 平成15(2003)年12月.
[1] 福田進・元財務省主税局長口述記録では「ここで税制改正のスケジュールが決められていた」という記述がある。